第68話 永遠の黄金時代
「さて!みなさん、お待たせしましたっ!異世界探検のお時間です!」
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>待ってないぞ
>異世界キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
>ちょっと転生してくる
>卍さんが異世界に取り残されて戻れなくなる展開あります?
>あるよ
>卍さんが異世界でチート能力得て無双する展開あります?
>あるぞ
>ついに異世界で腕を銃に改造するのか 胸が熱くなるな
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「腕を銃に変えるなんて怖すぎじゃないですか!やりませんよ。まあやるとしたらアレですね。胸をちょっと盛る〈改造行為〉くらいですかね」
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>ただの整形定期
>アバターなんてチートしなくても盛れるじゃねーかw
>全国のチート呼ばわりされてる整形経験者可哀想
>卍さん最低ですね、失望しました。チャンネル登録外します
>待て、胸を盛るってのは大きさのことじゃない。数だ
>やめてくれよ……(絶望)
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その発想はなかった。確かにその方向性は〈改造行為〉じゃないと無理そうだ。ゲームで役に立つ気はまったくしないけど。
「今回は早めにログインしてきたので、まだ時間がありますね。恒例のお散歩タイムと行きましょうか。今日は【ディスポサル城下町】のお散歩回ですね」
あたりを見渡すと、アリンドさんの家に【パインサラダ】を受け取りに来た大行列がまず目に飛び込んできた。
さらに、行列の左右には、プレイヤーたちの群れに狙いを定めたいくつもの屋台が立ち並び、まさにお祭り騒ぎだ。——日常らしいけれど。
「見てください。『【パインサラダ】買い取ります』なんて屋台までありますよ。レジーナさんがせっかく腕によりをかけて作ってくれた料理を転売するなんて最低ですよねー」
まあシステム的にクエスト報酬として提供されるアイテムなんだから、実際には何に使おうが自由なんだろうけどね?
「バカ言っちゃいけないのです!あのお店はこの『アリンド通り』になくてはならない素晴らしいお店なのです!」
配信をしながら行列を眺めていると、声をかけられた。ボクの独り言のような実況に苦言を呈しに来たらしい。中学生くらいの背丈をした小柄な少女だ。
「えっ、そうなんですか?」
「見てほしいのです。あのお店の店主さんを!」
「店主さん?店主さんが関係あるんですか……?」
通りすがりの少女に言われて店主さんに注目してみると——あれは、まさか……あの人!
「アリンドさんじゃないですか!」
レジーナさんが作った【パインサラダ】をアリンドさんが買い取っている……!
「やっぱりうちの娘が作った【パインサラダ】は最高だぜー!!」
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>草
>なんでやねん
>娘の作ったパインサラダを食べたかったんだぞ
>普通に作ってもらえばいいのに
>娘の作った料理なら買い取りたくなっても仕方ないよね
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「確かに、なくてはならない名物店のようですね。ある意味で」
「何個も売ってポイントカードが貯まると貴重なアイテムもくれるのですよ」
なにそれ、すごい。
「あ、ボクは卍荒罹崇卍と申します」
「わたしは『技能士』のメグなのです。よろしくなのです」
「『技能士』?」
聞き覚えのない単語が飛び出してきた。なんでしょう。何かの職業?
「わたしが独自に始めたお仕事なので聞き覚えはないかもなのです。いわば、スキルを売る仕事なのです」
「スキルを売る!?どういうことなんですか!?」
「【流派創造】というスキル、知ってるのです?」
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>なんか強そうな名前だな
>あの糞スキルか。覚えてる奴いたのか
>マクロ機能の派生みたいなスキルだっけ?
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【流派創造】
[アクティブ][補助][生産]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30s
効果:[以下]の[効果]から[選択]して[発動]する。
1.[モーション]を[記録]し、[マクロ]として[登録]する。
2.[マクロ]を[キャラクター]に[伝授]する。
[パッシブ][スイッチ]
[伝授]した[マクロ]によって[発動]する[アクション]の[ダメージ]及び[出力]を[増加]させる。この[効果]は[累積]し、[伝授]された[キャラクター]にも[適用]される。
「ああ、知ってはいますよ。【モンク】のスキルですよね?ただ、あれは……」
簡単に言えば、決まった動作を何度でも再現できる能力だ。最適解を記録し、擬似スキルとして繰り返し使える——そんな仕組みだ。
この仕組みは、ひと昔前のVRMMOで用いられていた、いわゆる旧世代の【モーションアシスト】だ。
剣術の達人の動きを記録したデータをそのまま再現することで、運動が苦手なプレイヤーでも最適な動きができる——そういう仕組み。
だけど最近のVRは【フォッダー】のようにアシストが充実してるおかげで、わざわざ記録をそのまま再現しなくても達人の動きができる。
となれば、記録したものと寸分違わぬ同じモーションしか再現できない旧来の【モーションアシスト】は下位互換になってしまう。だからこのゲームでは珍しく、満場一致の不遇スキルとして扱われていたのだけど……。
「〈装飾表現〉〈感情反映〉……そして〈魂の言葉〉」
「……!」
「現環境の【フォッダー】は、必ずしも【モーションアシスト】があらゆる状況ですべてのプレイヤーに最適解を与えるとは断言できないのです。となれば……最良の状態を記録した【マクロ】には安定した価値がある」
「なるほど、着眼点がいいですね」
【流派創造】が不遇スキルだったのは以前までの話。
【モーションアシスト】に関する新たな法則が解明された現環境では、従来のデメリットが、今はむしろ強みになる。
寸分違わず同じ動作しかできない仕様は、コンディションに関わらず最良の出力を発揮できる利点になり、時に【モーションアシスト】の最適解を上回る達人の動作を再現できるようになる。
「ちなみにどんな【マクロ】を作ったんですか?」
「«五月雨突き»」
ボクが質問すると、さっそくメグさんが実演してくれた。【マクロ】の発動を宣言すると同時に動作が——再現され……ない。……何も起きない。
「……?」
「おそらく、外からは観測できないのです。AGIに極限まで特化した上で〈装飾表現〉を重ねた、わたしの6連突きは」
「6連突き……!?」
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>速すぎて見えない
>実際は突いてなかったりして
>誰にも証明できない6回の突き。あなたは信じますか?
>オカルトかな?
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「AGIを極限まで高めた状態で記録した【マクロ】は、AGIが低下しても再現できるのです。これがわたしの開発した最高のテクニック、〈永遠の黄金時代〉……!」
テクニックその51 『永遠の黄金時代』
一度でも最高の環境下で動作を行う事ができれば、その後はたとえ全てのステータスが一桁になったとしても記録したモーションを忠実に再現する事ができる。
ほんの一瞬の全盛期を何度でも延々と使い倒し続ける事から名付けられたネーミング。
かっこいいですね!
マクロその1 『五月雨突き』
極限まで高めたAGIで6回の突きを放つ。
攻撃が行われたという事実すら肉眼で捉えきれない恐るべき【マクロ】です。




