第65話 歴史の転換期
「まず種別は銃器。当たり前だけど弓ではない。それから、【アーチャー】の管轄でもないみたい」
「何?銃器を扱う職業がない以上、弓術系スキルで代用が効くと踏んでいたのだが」
というより、その仕様のほうが自然だろう。銃器が強力な攻撃性能を持っていたとしても、能動スキルを使えなければ片手落ちだ。
つまり、通常攻撃特化の型の【ナイト】くらいしか活かせない。
ただし、桁外れの性能なら話は別だが……?
「基本性能としては、やはり機関銃として連射性能に特化した装備よ。攻撃回数は多いけれど、攻撃力は高くない」
「せっかく優勝したのに、ちょっと微妙な感じなんですかね……」
「俺のような型であれば問題はないが……。銃器使いのような特殊職業があるのだろうか」
特殊職業、そんなものは【フォッダー】では聞いたことがないけれど、特殊な条件を満たした上で職業チェンジできるというのは、なくはなさそうな話だ。
銃器が出回っていないのに銃器使いがあっても意味がないように、今回の銃器解禁で職業チェンジが可能になることも考えられる。
「なるほど、ちょっと見てみましょうか」
ボクは店の外に出て家を召喚し、中に入り、【女神像】を引っ張り出してきた。
そして【吸血悪鬼の機関銃】を装備して【女神】に祈ってみたけれど……。
「ダメですね。それらしい職業はありません。少なくとも所持しているだけではダメなようです」
「ダメか……武器としてのその他の性能はどうなんだ?」
「弾の拡張が肝ね。銃本体よりも銃弾に重点が置かれている……効果の適用を重視した手数寄りの戦い方になると思うの」
【メイジ】でいうと風属性に多いタイプの型ですね。なくはない選択肢といったところでしょうか。
それでも——正直、評価は渋い。
大会限定のレアアイテムなのにそんなことある?もしかしなくても絶対強いシナジーとか職業とかが隠されてるでしょ。
ゲーマーとしては当然の理論だ。一見すると弱いシステムは鍛えれば強くなる大器晩成型。もちろん意図せずに弱くなってしまったタイプのシステムはそんなことはなかったりするのだけど——。
じゃあ、探すしかないじゃん?隠し要素!
なかったらなかったでご愛嬌。だけどこれも『フォッダー不思議探検隊』としての任務。調査していきましょう!
そんな決意を視聴者さんにお伝えしようかと思ったその時、あまりにも唐突な展開が巻き起こる。
ボクの目の前に1人のプレイヤーが現れたのだ。
そのプレイヤーの名は、漆黒の翼さん。
それだけなら、驚くことでもないかもしれない。なにせ今までずっと【ストレージ】に入っていたのだから。出てこなかったことのほうがおかしいのだ。
衝撃的なのは、その装備だった。
頭部にはまるでヘッドマウントディスプレイのような重量感のある何らかの装置を装着していた。背には白い箱。そこからコードがするすると伸びる。
そしてコードの先にはコントローラーがついており、漆黒の翼さんはそれを両手で握りしめて操作していた。
「フハハハハハ!異世界に行くぞ!貴様ら!」
まるで謎のゲーム機を背負って遊んでいるようにしか見えない、異様な姿だ。
【ストレージ】に放り込む前はこんな装備じゃなかったはずなんですけど、何があったんですか……?
「異世界って【ストレージ】の話ですよね?なにか見つかったんですか?」
ボク自身が直接見たわけじゃないけれど、真っ暗な空間で何もない場所だと聞いている。
すべてが未定義で、何もないはずの世界で、漆黒の翼さんはなにを発見したのだろう?
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>漆黒の翼さんver2.0
>2020年ごろのオーソドックスな若者の姿だな
>マジで?当時の若者って変態だな
>電車に乗りながらゲームするためにこんな装備がデフォだったらしい
>頭おかしいな。脳にゲーム機を埋め込めばこんな苦労しなくていいのにね
>当時は卍さんみたいに水着姿で街を歩く人も多かったらしいね
>脳にゲーム機を埋め込むとかこわ
>当たり前みたいな顔して非常識なこと言うな
>コンピュータならまだわかるけどゲーム機埋め込むとか廃人かな?
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「細かい説明は後にしろ。来ればわかる!他の奴らも来い!ククク……貴様らは新たなる歴史の転換期を目撃することになるぞ!フハハハハハ!!」
漆黒の翼さんがなにか発見したっていう時点で恐ろしいバグの予感しかしないのですが……大丈夫ですか?ねぇ?
「機関銃の件とは関係ないが、完全に未知のエリアの探索か。興味をひかれるな」
「確かにそうですよね。漆黒の翼さんがここまで騒ぐくらいですから、すさまじいバグ……もとい発見であることに疑いの余地はありません」
銃について決意を固めた瞬間翻すようで申し訳ない気がするけど……まだ口に出してはいなかったしセーフだよね?寄り道しても、いいよね?
「では次の『フォッダー不思議探検隊』としての任務は【ストレージ】内部の調査といたしましょう!さっそく向かいますよ!!」
「そういえば、プレイヤーを【ストレージ】に入れる担当が1人いなければいけないのではないか?」
「あっ」
さすがに自分自身を【ストレージ】にぶち込むのは……やれば案外できそうな気がするけど怖い。漆黒の翼さんがボクの前に現れたということは【ストレージ】保持者の座標を起点にして帰ることができるということだ。
ただ、その座標の起点が【ストレージ】内部に移ってしまったら——はたして帰ることができるのだろうか?
「よくわからないけど、私は残るわ。銃の研究を続行する必要があるからね」
「すみません、お願いしてもいいですか?」
「何をすればいいの?」
「ボクとゆうたさんと漆黒の翼さんを【ストレージ】にしまってください」
「…………???」
さあ、出発しましょう!新たなる冒険の世界へ!




