第64話 吸血悪鬼の機関銃
『本日の定期大会におけるすべてのプログラムは完了しました。入賞者には賞品が授与されます。【ストレージ】を確認してください』
味気ない終了アナウンスを聞き流し、ボクは言葉にできない達成感に浸っていた。
「あの怒涛のクソ——もとい最強テクニックの使い手たちを薙ぎ倒して優勝できるなんて……。もしかしてボクって強いのでは?」
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>今回ばかりはぐうの音も出ない
>配信者が優勝してぐうの音が出る視聴者ってなんやねん。アンチかな?
>残念ながらファンなんだよなぁ
>卍さんが優勝とか失望しました。チャンネル登録外します
>俺もこれからMulta使うわ
>人体改造とか天才すぎるだろ……俺も真似しよ
>卍さんが勝ったのに敗北したプレイヤーのテクニックを真似するってマジ?
>卍さんのテクニックを使った上で肉体改造もするのが最強だぞ
>ソウルワードのことも忘れないであげてください
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優勝に発狂する視聴者どもの悲鳴が、耳に心地よい。
「おめでとうございますの!お二人の友人として、わたくしも鼻が高いですわ!」
「さすがに今回の戦いは冷や汗をかいた場面が何度もあったな。それでも勝てたのは聖天使猫姫の応援のおかげだな」
「えへへ、そうですの?なんだか照れますの……」
かわいい。
「私もしっかり応援しましたよ、褒めてください♥」
「ありがとうございます、明日香さん!そういえば、戦いの前に何か言ってましたね。知ってる人なんですか?」
「あのお方は1人でTRPGセッションのメンバーを6人分確保できる至高のプレイヤーとして有名なんですよ♥」
「えぇ……」
確かに人集めには最適かもしれないですけど……。
「あたしもそのTRPG?っていうのやってみたいなー。VRMMOと似たようなゲームなんだよねー?」
「ええ、同じですよ♥VRMMO=TRPGと言っても過言ではありません」
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>過言すぎて草
>VRは今まで想像力が必要だった五感の感覚をお手軽に再現できるだけのTRPGだぞ
>言われてみたら同じな気がしてきた
>マジかよ。実質同じじゃねーか
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後で一緒にTRPGを遊ぶ約束をして、ボクは先ほど軽く聞き流していたアナウンスのことを思い出した。
確か入賞者の【ストレージ】に何か入ってるとかなんとか。【メニュー】を操作して【ストレージ】を開くと、確かに入っている。
さっそく取り出すと、真っ黒な機関銃——【吸血悪鬼の機関銃】が手に収まった。
「そういえばこれを手に入れるために【ダブル杯】に出たんでしたっけね。途中から優勝することだけが目的になっていました」
「それを解析に回せばあらゆるプレイヤーが銃器を持てるようになる。詳しい性能は調べてみないことにはわからないが、これからはあまり珍しいものではなくなるだろう」
「このマシンガンの前にも銃を使ってる人はいましたけどね」
とはいえ、〈改造行為〉による銃器の確保はゲームのシステムとして実装された装備とは根っこから仕様が違うはずだ。
装備としての銃器が出回ったところで、〈改造行為〉で腕を改造する者が減る、ということはないだろう。
「ボクの【ストレージ】に【吸血悪鬼の機関銃】が来たということはゆうたさんには別の賞品が来たんですかね?」
「ああ。【将軍の旗槍】だな。任意の【コマンド】を発動させることのできるアイテムだ。俺の目的はマシンガンの解析だからな。これも荒罹崇に譲ろう」
【フリーコマンド】
[アクティブ][キャラクター][支援]
消費MP:8 詠唱時間:0s 再詠唱時間:30m 効果時間:3s
効果:この[スキル]は[任意]の[コマンド]として[扱う]。
また明らかに武器みたいな名前のアイテムが出てきましたね。
「って、いいんですか?マシンガンも解析が終わったら譲ってくれる、って話でしたよね?」
「マシンガンは効果だけ見ればユニークだが、俺が使うならもっと効果を厳選する必要があるからな……」
優勝賞品である【吸血悪鬼の機関銃】のスキルは【サモン・ゴブリン】と【ブラッド・サック】だ。
【サモン・ゴブリン】
[アクティブ][自身][エリア][召喚][魔法]
消費MP:24 詠唱時間:10s 再詠唱時間:1m 効果時間:10m
効果:[ゴブリン]を[召喚]し、この[スキル]を持つ[武器]を[装備]させる。
[ゴブリン]は[自身]を起点として形成した[エリア]でのみ活動を行う。
【ブラッド・サック】
[パッシブ][スイッチ]
効果:[通常攻撃][命中時]に[ダメージ]分の[HP]を[回復]させる。
確かに【サモン・ゴブリン】はネタの塊で配信としては美味しいけど、ゆうたさん的にはもっと良い付与効果があるのだろう。解析したら銃が出回るようになって効果厳選もできるようになるだろうし。
「なるほど、ではありがたく受け取っておきますねっ」
ゆうたさんから【将軍の旗槍】を受け取って、【パーティストレージ】に放り込んでおく。ゆうたさんとはよく【パーティ】を組むし、【パーティストレージ】経由なら彼も当然その恩恵にあずかれる。
そして優勝賞品のマシンガンを持って、ボクたちはゆうたさん行きつけの鍛冶屋へと向かう。そこで武器の解析と生産手順の研究をしてくれるのだとか。
場所は【ディスポサル城下町】の一等地。NPC勇者であるアリンドさん家のご近所さんだ。いまは情勢的に人気の立地だが、負けイベントの魔王を討伐するのがスタンダードになるまでは目立たない場所だった。
それはともかく、そんな一等地の中でも最強の一等地、アリンドさん家の隣にそのお店はあった。
「頼もー!」
扉を開け、道場破りのごとく踏み込むと、そこにはスキンヘッドのおっさんがいた。
ちなみに名前はミューズさんらしい。可愛らしい雰囲気の名前ですね。
「あら、来たのね。さっそく銃を見せてもらうわ」
遅れて入店したゆうたさんを見て、訪問の理由を察したようだ。細かい挨拶など不要と言わんばかりに、単刀直入に本題に入った。
「わかりました。これです」
【ストレージ】から取り出して【吸血悪鬼の機関銃】を手渡すと、それを受け取った男性はさまざまな角度から武器を眺めつつ、スキルでデータを収集しはじめる。
ひととおりの調査を終えると、銃を返しながら言った。
「解析は完了。今すぐ生産にも取りかかれる。ただし——これは……」
えっ、もう終わったんですか!?そして何か含みがあるような言い方がすごく気になるんですけど!?




