第63話 妖精の祝福
ボクと相対するりのボス聞かせさんは【モンク】/【ナイト】。ただし【女神像】の近くに寄れば職業は自在に変更できるため、必ずしも同じ職業のままとは限らない。
今はボクが【女神像】の隣を陣取っているため、現時点では変更される恐れはない。
つまりボクも今から職業を変えられる。だが現実は甘くない。
ボクは現在獲得している【メイジ】と【アイテムマスター】以外の職業を全く育てていないのだ。今から何らかの職業に切り替えたところで得られるのは初期レベルの時点で取得できるスキル1つ分のみ。これでは割に合わない。
しかし【女神像】にはもう1つの効果がある。それは新たなスキルを取得する効果。これを使ってこの状況に最適なスキルを取得すれば……!
「考えはまとまった?待ってあげてるんだから感謝してよ?」
「俺、時間、待ツ」
「いつものように聞かせてください、火花散らす、始まりの合図を」
「そっちも時間稼ぎする気満々の癖に何言ってるんですか?体力の回復が見えてますよ」
【モンク】の受動スキル、【黙想】。HPを大幅に回復し続けるスキル、あらゆる継続回復系スキルの最上位を誇り、1秒ごとに最大HPの5%を回復させる恐ろしいスキルだ。
【モンク】のスキルは【正拳突き】を除くあらゆるスキルが自分自身を強化する受動と支援スキルで埋まっている。
他のクラスは【フラムブレッド】や【パワーストライク】のような、攻撃技が発動するスキルで戦うのに対し、【モンク】は次に命中する攻撃が強化されるスキルで戦う。
サブ職業としては【サイキック】と双璧を成す、変幻自在の闘い方で他の追随を許さない独特な職業だ。
「そろそろいい?りの、待ちくたびれちゃった」
「オデ、待ツ、好キ」
「いつものように聞かせてください?」
「——ええ、決めましたよ。ボクが何を取得すべきかをね」
これまでに繰り広げてきたいくつもの戦いから、ボクは最適なスキルを選び取る!
「〈神風の祝福を〉【フェアリーブレス】!」
「【アームズスイッチ】っ……嘘ぉ!?」
ボクの詠唱に反応して、りのボス聞かせさんが真っ赤な柔道着に装備を換装するけど……今のボクは風属性使い!杖から放った煌めく風が彼女を突き抜ける!
同時にボクの身体が緑色の光に包まれる。【フェアリーブレス】の効果によってAGIが増加した証だ。
【フェアリーブレス】
[アクティブ][投射][風属性][攻撃][支援][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:0.625s 再詠唱時間:10s 効果時間:20s
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。[命中時]、[自身]の[AGI]を[増加]させる。この[効果]は[5回]まで[重複]し、[効果時間]は[リセット]される。
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>【悲報】卍さんが炎属性の信念を捨てた
>これは負けますね
>炎属性使わない卍さんとかただの一般人だろ
>フェアリーブレスって何?
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「【フェアリーブレス】については 『VS おっさん』の動画をご視聴くださいっ!」
上昇したAGIを活かし、りのボス聞かせさんに杖を振りかぶりながら急接近する。
「炎属性の耐性装備をつけていらっしゃるようですが——その軽減率、確かめさせていただきますよっ!」
「【開眼】【車輪】【簒奪】!」「【アタックコマンド】【シャープウェポン】」「〈己が基本を改革せよ〉【ニュートラルヴァリアント】!」
怒涛の強化スキルの嵐でボクを迎え撃たんとするりのボス聞かせさん。しかし、いくらなんでもスキルの使いすぎじゃないですか?
スキルの宣言が始まった瞬間、後方へバックステッポしつつ【アンプルアロー】を撃ち込む。狙いどおり、釣り針に素直に食いついた。
【アンプルアロー】がりのボス聞かせさんに命中し、その中身をぶちまける。薬瓶の中身はアイテムショップで購入した期待の新ポーション、その名も【油】。炎耐性を下げつつ、炎上範囲を広げる便利な素材アイテムですね!
数多くのスキルを乗せた【モンク】の一撃はむなしく宙を切る。後方へ下がるボクを追って、即座に【縮地】で殴りかかって来たけど、【テレポート】で背後に回り込んで2度目のスキルを発動させる。
「〈神風の祝福を〉【フェアリーブレス】!」
祝福の風が吹き荒ぶと同時に、ボクのAGIがさらに1段階増加する。
「りの(♀)から逃げるなんて卑怯!」
「卑怯、ジャナイ」
「いつものように聞かせてください、風切る隼の物語を!」
「〈終末の劫火に身を焼かれ、永遠の安寧に抱かれよ〉【ブレイズスロアー】!」
「【虚穿】!」
ボクの撃ち放った【ブレイズスロアー】を【虚穿】で打ち破り、【猪突侵】でボクに再び突っ込んでくる。ならば——迎え撃たせてもらいましょう!
瞬時に肉薄しつつ殴りかかる彼女に杖を叩き込み、白銀色の炎を解き放つ!
「【ソウルフレア】!」
反動で【エアジャンプ】。視界のHPゲージがごっそり削れていた。【油】の効果を考慮した上でも、全身を赤の装備で染めている割には軽減率が低すぎる。つまり——。
「なるほど?その赤い柔道着は色を染めただけのフェイクというわけですか」
「耐性装備、売リ切レ、アンタノセイ」
「ボクの存在がゲームの市場に影響を与えてしまったわけですか、それは嬉しい話ですね」
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>めっちゃ嬉しそうで草
>これがドヤ顔です
>ブラフ、そういうのもあるのか!
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「それにしても——先ほどの【猪突侵】、お得意の【モンク】スキルが乗っていなかったようですが?」
「……わかってるくせに」
……あれだけ『マルチキャスト』でスキルを乱発していれば無理もない。MPが枯渇しかけているんだ。
ポーションによる補給は可能——だが、その隙は見逃さない。
「〈神風の祝福を〉【フェアリーブレス】!」
3度目の【フェアリーブレス】を撃ち込み、上昇したAGIで風のように彼女の間合いに入り込み——。
「——【フルバーニング】ッ!」
反撃の隙も与えず、今大会における最後の爆発が会場を揺らした。
『ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍&ゆうた LOSE:風の精霊なにかください✝業者の翼✝&りの(♀)ボスロートル〜いつものように聞かせてください〜』
テクニックその50 『ブラフアーマー』
装備見た目から効果を推察できる。よって、装備の色を変えたり、ワンポイントの紋章を彫ってみたりして偽装することができます。
ただし、元から描かれている紋章を削り取ったりは出来ない様子。
位置的に不自然なブラフはすぐに見破られてしまいますし、付け焼き刃って感じですね。




