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卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!  作者: hikoyuki
2章 despair 小数点のその果てを!

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第60話 マルチコア

「神々に仕える精霊に『なんだこいつら』とは失礼な話ですね。まあ我々の中でも常識的な人格は私とりの(♀)さんくらいですが」

「なんかくれ」

「常識的な言動は✝業者の翼✝ではない」


「りの(♀)、もうやだー!ログアウトしていい?」

「オデ、戦ウ。ログアウト、ダメ」

「いつものように聞かせてください。心昂ぶる、応援の歌を」


 1人で何役ものキャラクターを演じるかのようにマシンガントークを続ける2人。キャラクターの頭上に表示されている名前を見るに、前者が風の精霊なにかください✝業者の翼✝さんで、後者がりの(♀)ボスロートル〜いつものように聞かせてください〜さんだ。コメント欄の流れも一段と速くなる。


 確かにキャラクターネーミングどおりの言動をしているように見える。1人で3役を担当している?


 風の精霊さん、なにかくださいさん、✝業者の翼✝さん、りの(♀)さん、ボスロートルさん、〜いつものように聞かせてください〜さん。この6役が存在すると考えれば理屈の上では理解できるけれど……不思議なロールプレイですね。


「これは1人で3役を演じているわけではないな。実際に人格を3つ……いや、6つ持っているんだ」


「……は?」


「——人間の脳は全体のうち10%程度しか使われていないという話を知っているか?」


 21世紀初頭、ブレインマッピング技術の発達に伴い提唱されていた仮説だ。人間にはまだ眠っている多くの力が残されており、それが自身の命が脅かされるときに覚醒し、火事場の馬鹿力や走馬灯といった現象を引き起こすと言われていた。


「あ、聞いたことがありますね。それで最近、その活動領域を拡張する新技術が開発されたとかなんとか」


 そんな、普段は使われていない領域を人間の意志で覚醒させることができる技術だ。脳に対する負担ははかり知れないものとなるだろう。


 わざわざそんなリスクを負って自身を覚醒させなくとも、人類には機械という自身の処理能力を補う道具が存在する。よって、実際にそんな技術を必要とする人はいないと思うのだけど……。


「それがアレだ」


「……?」


「脳の活動領域を引き上げる拡張デバイス、〘Multa〙。奴は脳の活動領域を60%まで引き上げることにより、最低でも6つの人格を得ている」


「……それ、メリットあるんですか?」


 お友達が増えるとか?


「1人で複数のアカウントを操作できる。1つのアバターに3人を同居させるメリットはわからないがな」


 つまり——その話が本当ならば、今回の対戦相手は1人のプレイヤーが操作しているということ……?


「マルチタスク……といったところでしょうか」


「マルチコアといったほうが正確だろうな」


 一般的に人類はシングルコアだ。複数の作業を並行して行うこともできるが、一度に行える動作はあくまで1つ。作業に必要な動作の配分を細かく分配することによってそれを実現しているにすぎない。


 この仕組みでは複数のアカウントを同時に操作することなんて夢のまた夢だ。コントローラー式のMMOですら複数同時操作なんて難しいのに、人体の同時操作なんて【モーションアシスト】があったところで不可能だ。たとえ常人の10倍の処理能力を持つ人間であったとしても、これは無理な話だ。


 一方で〘Multa〙はマルチコアだ。シングルコアはあくまで1人が仕事をしているのに対して、マルチコアは2人がそのまま作業できる。複数の作業を同時に行うことなんて簡単な話だ。


 もちろん頭脳がマルチコアだからといって現実において活かせるわけではない。肉体は1つしか存在しないのだから。けれど——電子の世界であれば別の話だ。


 1人で実質的に複数のアバターを操作できる。それは多大な利点をもたらすはずだ。確かに極めて強力なデバイスだ。


 人間にとって一番自分と相性が良い存在がいるとしたら、それは()()()()。もし自分だけで【パーティ】の限界人数である6人を埋めることができるならば、それは間違いなく強力無比だ。


 けれど、1つのアバターに自分が3人も入る必要はない。


 にもかかわらず()()を実践しているならば……実際にはそこに何かしらのリターンが存在するということだ。考察するまでもない話だけどね。


 これも〈改造行為(チート)〉の類型といったところでしょうか。キャラクターのデータではなく、それを操る頭脳を強化する。腕に銃器を付けるよりは現代的で王道のチートですね。それによって反映された効果がシュールすぎますが。


「風の精霊として、優勝はいただきますよ」

「勝利ください」

「敗北を望むのは✝業者の翼✝ではない」


「りの(♀)のためにせいぜいがんばってねー」

「オデ、命、食ラウ」

「いつものように聞かせてください。魂燃やす、戦いのゴングを」


 なんにせよ——最終決戦にふさわしい、濃密な存在感だ。最初から最後まで実に配信映えさせてくれますねっ!


----

>ついに決勝戦!!


>盛り上がってきました…………


>ぜんぜん盛り上がってなさそうな書き込みやめろ


>Multa使い……絶滅してなかったのか


>あんなやべーツール使う奴の気がしれないわ


>今後フォッダーを勝ち抜くためには人格を増やすことも考慮しなくてはならないらしい


>でも卍さん今回ソウルワードなしでも勝ち進んでるじゃん。ワンチャンあるんじゃね?


>それはこの戦いが終わってみないとわからないけどな

----


 コメント欄の書き込みからもこの戦いの重要性はよくわかる。ボクがこの戦いに勝って優勝することができれば、【フォッダー】を勝ち抜くためには必ずしも特別な力は必要ないという証明につながる。


 小数点の先に続く未来を示せるはずだ!


 だからこそ、負けられない。いや、絶対に勝ってみせる!


「〘Multa〙だか丸太だか知りませんが、ぶっ倒してやりますよ!ゆうたさん!」


「そうだな。熟練のテクニックというものを見せてやろうではないか」


「風の精霊の導きのままに……」

「サインください」

「✝業者の翼✝を見せてやる」


「あはは、りのに勝てると思ってるの?死亡フラグって奴だよ、それ」

「オデ、勝ッ」

「いつものよ」

【START!!】


改造行為(チート)その4 『Multa』

脳の処理能力を100%発揮させることの出来るツールです。

代償として人格が分裂してしまいますが、ゲームのプレイには有用なので手を出す人も少なくないのだとか。

ちなみに〈改造行為(チート)〉として扱っていますが、基本的には合法らしいです。

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[良い点] 出たな負の遺産Multa
[一言] サラッとサイン欲しがってるぅ……
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