第53話 リサイクル
試合開始と同時にボクは家を地面に設置する。この大会におけるボクたちの定型戦術だ。
〈ホームタクティクス〉によりせり上がっていくボクたちを見て、すかさずああああさんは銃口をボクに向ける。
「【正拳突き】!」
スキルの宣言とともに、腕から放たれた弾丸が凄まじい速度でボクに迫る。
「【アームズスイッチ】!」
それに対して即座に装備を切り替えたゆうたさんが、巨大な盾を両腕に携えて銃弾を受け止めた。
その途端、ゆうたさんのHPとああああさんのHPゲージが同時に急激に減少していく。
「ちっ……これだから『プロ』は……!」
初撃から対策を打たれたことを察したのか、ああああさんは舌打ちをする。
手品のタネとしては簡単なことだ。
銃弾に素手の判定があるということは、すなわち身体の一部であるということだ。ゆうたさんは攻撃力の高い盾で銃撃を受け止めることによって、相手の腕にダメージを与えたのだ。
とはいえ攻撃力の代償として防具としての性能は皆無に近い。このまま耐久戦をしていても勝てるわけではないけれど、攻撃をためらわせるきっかけにはなったはずだ。
すかさずゆうたさんのHPを回復させ、牽制として【ブレイズスロアー】を投げ込む。地の利はこちらが得ているから、命を燃やさない炎属性魔法であっても高い圧力をかけられる。
しかし、ああああさんはそれを高く跳躍して回避した。
——いや、あれは跳躍ではない!?
その恐るべき光景にボクは思わず目を丸くする。
なぜなら跳躍したああああさんの足裏からは〘ジェット噴射〙のような炎が吹き出していたのだから。
そのまま宙を自在に飛び回りながら、ああああさんは銃弾を多角的に乱射してくる。
先ほどとは違い、完全に上を取られている。ゆうたさんが巧みに盾を操り攻撃を受け止めてくれているが、【空神の加護】の利を取られた状態での耐久戦に勝てるわけがない。
まったく、【『アイテール』】が可哀想だとは思わないんですか!?無課金にノーリスクで飛行されてますよ!?
「【エアジャンプ】!【エアジャンプ】!」
防戦一方では勝てない。ならば無理やりにでも攻めなければ!
〈ロードウィング〉を活用し、狙いを定められないようジグザグに飛びつつ、ああああさんに迫るボク。
その時、地上から声がした。
「【パワースナイプ】」
この戦いは2対2の【ダブル杯】。ああああさんばかりに気を取られてはいけない。秘書Dさんはどうやら【アーチャー】の職業に就いているようだ。
空気を裂く鋭音とともに矢が放たれる。しかし命中するかのように思われた矢の一撃は急速に向きを変え、ゆうたさんの方へと向かう。
「【アトラクト】!攻撃は俺が受け止める。任せろ!」
「ありがとうございます!」
ボクは【アンプルアロー】を撃ち込みながらも、ああああさんに向けて接近する。飛びながらの射撃は狙いが定まらず、ばらばらと地面に落下していくが、本命はこちらではない。
「そんな欠陥飛行テクニックで純然たる科学技術に勝てると思ってるっすか?」
現実論としては、近づけば近づくほどに銃弾がボクに命中する可能性は高くなる。
けれど——空想論としては、あの程度の攻撃が当たるはずがない。そう確信していた。
「当ててみればいいじゃないですか!」
「——後悔しないでほしいっすね!【正拳突き】!」
スキルの再詠唱時間が終了したのだろう。猫姫さんたちを一撃で葬り去った必殺の弾丸がボクの心臓を貫かんとする。
「【ソウルフレア】!」
そんな必殺の一撃をボクはスキルによって迎撃した。
弾丸に杖を合わせて【ソウルフレア】を撃ち込みつつ、身体には当たらないようにしなやかに身を曲げて攻撃をかわす。
【ソウルフレア】がヒットしたああああさんは体勢を崩し、〘ジェット噴射〙の制御を失って不規則に跳び回り出した。
【ソウルフレア】は対策がなければ【ナイト】の耐久すらも一撃で削り取る超火力スキルだ。まともな耐性もなしに受け止められたとは考えにくい。つまり、【魔力障壁】か何かを積んでいますね。
「なんで銃弾に攻撃を合わせられるっすか!?」
暴走しながらも、なんとか距離を取り、こちらに問いかけてくるああああさん。せっかくだから教えてあげよう。それには疑問の余地がないくらい明確な回答がある。
「【エアジャンプ】そりゃ、普段から弾丸の如き速度に慣れているから、ですかね【エアジャンプ】」
「……はぁ?」
弾丸の如き速度で動けるプレイヤーが弾丸に負けるわけがない。当然の理屈ですね?
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>弾丸の如き速度ってどう考えても弾丸以下の速度だろ
>論理破綻してて笑う
>エアジャンプしながら会話するの大変そう
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ああああさんを見据えながら〈ストリームアイ〉でチラッと地上を見ると、ゆうたさんが秘書Dさんと激しい遠距離戦を繰り広げていた。
そして地面に落ちた【アンプルアロー】がかかしの姿に変化していることが確認できる。
「【チェインボム】!」
すかさずボクは【連爆の杖】を取り出し、地上に撃ち込む。
すると、秘書Dさんは瞬時に装備を真っ赤なものに換装する。おそらく炎属性無効化級の耐性装備だろう。
その後、地上全体を覆うような大爆発が起きたが、戦況に変化はない。【ストレージ】に【連爆の杖】をしまったところで、ああああさんがボクをめがけて〘機関銃〙を乱射してくる。
「はっ、その破壊的な一撃も対策すれば無駄なんすよ!この空域には届かないっすしね!」
よく観察すると、先ほど削ったばかりのHPゲージがじわじわ回復しているのがわかる。
その回復速度は明らかに速い。【モンク】には継続回復増加の受動スキルが備わっているとは知っているが、その比ではない速度だ。
銃弾を避けながら再び地上を見ると、秘書Dさんが先ほどの装備を解除して元の装備に切り替えているのが見えた。
「ゆうたさん!」
「わかっている。【チェインボム】!」
ボクの声に反応するや否や、ゆうたさんはすかさず【連爆の杖】を取り出してかかしを起爆させる。
「——なっ、2本目!?」
これまでスキル発動時以外は常に無言だった秘書Dさんが慌てて叫び出すが、【アームズスイッチ】は再詠唱時間中、すべてが遅い!二度目の大爆発によって秘書DさんはHPを全損した。
「これで2対1ですね!【エアジャンプ】!」
「2つあるとは聞いてないっすよ!?」
【連爆の杖】が2つあったわけではない。これはただの使い回しだ。
【アイテムマスター】のスキル【パーティストレージ】。共有の【ストレージ】を生成するスキルによって1本の【連爆の杖】を使い回した。ただそれだけのこと。
【連爆の杖】は再詠唱時間が30分に設定されているけど、この30分とはアイテムを主体とした数値ではなく、プレイヤーを主体とした数値だ。
ボクが使ったすぐ後でもゆうたさんに渡せばすぐに使える。まあ、理屈としては当然だ。
「さあ——【エアジャンプ】どうしますか?【エアジャンプ】」
テクニックその43 『リサイクル』
アイテムの再詠唱時間はキャラクターに掛かっています。
よって、同じアイテムでも他のプレイヤーに渡して使わせれば、結果的に連続使用が可能になるというわけです。
手渡しでもいいかもしれませんが、やはり【ストレージ】を共有するのが一番便利ですね。
改造行為その2 『ジェット噴射』
脚にジェットエンジン機構を搭載する事によって自由自在に空を飛ぶ事が出来ます。
【『アイテール』】さん涙目ですね。




