第51話 人間機銃
「第2回戦も無事に突破できましたね!」
----
>おめ
>あかりちゃんさんの配信見てくるわ。じゃあな
>ローブの人との戦いが始まったら起こしてくれ
>↑永眠かな?
>あかりちゃんさんにひれ伏せ
>こんな適当なコメントばっかなのに視聴者数だけは順調に増えてるな
>ツンデレだぞ
----
「まったく、ツンデレなんて今どき流行りませんよ?デレデレでお願いしますね」
ボクの配信におけるコメント欄はいつも辛辣だが、不思議なことに視聴者数だけは減らない。『チャンネル登録外します』というコメントも何百回と流れているのだが、実際に減ってるのを見たことがない。
好きな子に意地悪をしちゃう小学生みたいな視聴者どもですね。
「お疲れさまですの。これ、コーラですわ。よろしければどうぞ」
「ありがとうございます!」
「いただこう。それで次は第3回戦だったな。対戦相手は誰だ?」
マネージャーの猫姫さんからいただいたコーラを飲みながら対戦ログと試合表をのぞく。
「次の対戦相手は……。ああああさんと秘書Dさんですね——ローブの人です」
「ついに来たか」
そりゃトーナメントなんだから仕方ないんですけど、3回戦なんて中途半端なところで当たります?優勝決定戦で当たらないと困るんですけど!配信的に!
「ついにわたくしの仇をとってくださる時が訪れましたわね!待ってましたわよ!」
そんなボクの心の声とは裏腹に、対戦カードを聞いてまるで自分のことのように喜ぶ猫姫さん。ま、その期待に応えられるように、がんばっていきましょうか。
ちなみに第2回戦の対戦ログを見てみたのだけど、例によって一撃で相手を確殺しているだけの映像しかなく、目新しい情報はない。
やはり、ぶっつけ本番で当たって砕けるしかないということか……!
まもなく訪れるであろう頂上決戦を前にして、わざと武者震いをしていると(コメント欄に『貧乏ゆすり』とか書かれた)ボクたちの前に2人のプレイヤーが現れる。
黒いローブに全身を包んだ2人組……。ああああさんと、秘書Dさんだ。
なんだろう、次の試合の挨拶に来たのかな?
「……次の試合では〈魂の言葉〉を使ってほしいっす。完膚なきまでに叩き潰したいっすから」
「そうして、〈魂の言葉〉も【黄金の才】も叩き潰せることを証明して、スポンサーさんにアピールでもするんですかね?」
「……」
こちらの質問には何も答えず、ただ沈黙を続けるああああさん。これまでの言動から察するに、彼は〈魂の言葉〉や【黄金の才】という限られたプレイヤーにしか使えないシステム・テクニックを敵視している。
にもかかわらず、なんらかの上位者の命令により、自らも先の例に類似した何らかの仕様を悪用している。
彼にとっては、特殊な仕組みをその力でもって粉砕することこそが、唯一の免罪符になるのだろう。
ならば、それに対する回答は1つだけだ。
「大変申し訳ないのですが、それは無理です!ごめんね」
「……は?」
実際のところ、彼の心情を考慮するまでもなく〈魂の言葉〉は使うことができない。なぜなら——
「《運命変転》はネガティブ思考をポジティブ思考に切り替える、ただそれだけの自己暗示。胡散臭そうなオーラだけは出していますが、はっきり言って仕組みも効果もわからないものにそこまでネガティブな気持ちは抱けないんですよね。——それに」
それに加えてもう1つ。
「信念と行動が乖離しているような人に、ボクが負けるはずがありませんからね」
負ける気がしないのに、それを反転させたら、負けてしまうじゃないですか。
「なら……絶望させてやるっすよ。そして——このクソったれな世界そのものを終わらせてやるっす」
踵を返すああああさん。それに追従して立ち去る秘書Dさんを無言で見送る。
そしてその姿が見えなくなったのを確認して、ぽつりとつぶやく。
「これで負けたらどうしよう……めっちゃ恥ずかしいよね」
----
>負ける気満々じゃねーか!!
>これだから卍さんは
>これは負けたわ
>ああああに負けたら配信引退スペシャル!!
>↑拡散してくるわ
----
「ちょっと待ってください!冗談ですよ冗談!」
「冗談なら拡散されても問題ないな」
「ぐぬぬ」
「卍荒罹崇卍さん、仇を取ってくれないんですの……?」
ゆうたさんにいじられ、猫姫さんにうるうるとした視線で見つめられてしまう。
ツッコミ待ちのネタだったとはいえ、なんでこんなことに!
「わかりましたよ!わかりました!負けたら引退……はしませんが……1週間ゲームしません!!!!!」
----
>小学生かな?
>低レベルすぎる……
>さも難しい行為であるかのようにドヤ顔で宣言してるの笑える
>これはひどい
----
これは負けるわけにはいかなくなりましたね!1週間もゲームできなくなったらビッグウェーブに乗り遅れてしまうかもしれませんよ。
「では、俺はこの闘いに負けたらゲームを引退しよう」
唐突に驚天動地の爆弾発言を投下するゆうたさんに、ボクは思わず目を見開く。
「そんなことを言っちゃっていいんですの……?」
「負けるはずがないのだから何を言っても問題ないだろう?」
先ほどボクを弄るのに使っていた論理をさも当然のように体現するゆうたさん。器が違いすぎる……!
----
>これは負けましたね
>味方に完全敗北してしまう卍さんかわいそう
>この動画ってゆうたのくーる&てくにかる配信ちゃんねるでしたっけ?
----
「もう!こうなったら、これからお見せする華麗なる勝利でみなさんを見返してあげますからね!」
そんな話をしている間に、そろそろ試合開始の時がやってきた。
「では、行ってきますね、猫姫さん」
「はい!がんばってくださいですの、お二人とも!」
「ああ、勝ってくる」
そして、時間と共に試合場内に転移したボクたちは、このゲームの深淵をのぞき込んでしまうことになる。
目の前にいるのは対戦相手のああああさんと秘書Dさん。これまでは常に黒いローブに身を包んでおり、その力の仕組みどころか、容姿すらも謎に包まれていた2人。
そんな彼らが、ローブを取り去った状態でボクたちの目の前に立ちふさがっている。
そんな彼らの容貌は異様の一言に尽きる。
もちろんこのゲームはアバターを自由に設定でき、装備も含めて個性的な容姿で活動を行っているプレイヤーはいくらでもいるだろう。
しかしこの2人はそれだけの理屈では到底説明できない特徴があった。
2人のうちの1人、ああああさんと推測されるプレイヤーは半袖半ズボンを着た黒い短髪のプレイヤーで、なんというか、ファンタジーゲームらしくない地味な風貌のアバターだった。
その右腕が銃であることを除けば、現代の一般人がそのままこちらの世界に来たような容姿と言っても特に差し支えない。
右腕が銃であることを除けば。
そう、
彼の右腕のその先は手ではなく、機関銃によって構成されていた。




