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卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!  作者: hikoyuki
11.5章 Draw 神引き・パワカもなんのその!

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第493話 人のこと言えない

「ほう、『アザトース』ですか。差し支えなければ、効果を教えていただいてもいいですか?」


 ボクが軽くおどけてみせながら問いかけるも、男は言葉を返さない。代わりに右手の指先をメグさんへと向けて――。


「メグさん!」


「«絶対防壁»!」


 メグさんは【ストレージ】から『不壊』の壁を取り出し、射線を遮るように構える。


 次の瞬間、世界そのものが壊れたかと思うほどの轟音が鳴り響く。男の指先から放たれた砲弾が『絶対防壁』に命中した衝撃だ。同時にメグさんが地面を滑るように後退(ノックバック)していく。


 結果だけ見れば、男の攻撃はメグさんを全損させるまでには至らなかった。しかしその過程で、完全なシステムへの反逆が起きている。


 メグさんの『絶対防壁』はいかなる攻撃をも受け止めて、後退(ノックバック)を防ぐことのできる【マクロ】だ。その原則を打ち破り、彼女を押し込むことに成功した。システムへ干渉できるレベルの〈魂の言葉(ソウルワード)〉か、【黄金の才(ユニークスキル)】でもなければ考えられない現象――。


「……さすがに不味すぎるです」


 メグさんがため息交じり呟くが、彼女のおかげで攻撃の正体は読み取れた。


「超高出力の全能――。〈バタフライタクティクス〉の極致、というわけですね」


 ボクがそう口にすると、男はにやりと笑う。


「僕からすれば、これ以下の出力で全能などと呼称すること自体が疑問だよ」


 確かに正論ではある。様々な事象を引き起こすことができる絶対的な汎用性から『全能』などと呼ばれているが、実際には真の意味での全能には程遠い。


 空も飛べるし、離れた場所の物も動かせるが、これらの事象には原理が伴う。重力を歪めて空を飛ぶ、風を操って離れた場所の物を動かす。これらはあくまで間接的な操作に伴う現象だ。その前提から考えれば、単純に出力が高いだけのそれを全能と呼ぶのも、やはり違和感がある……。


「〈バタフライタクティクス〉には常に理屈が伴います。一見すると指を弾いて竜巻を引き起こしているように見えても、その間には多くの事象が作用している。しかし今の一撃は違う。同じ動作をしているように見えるのに、最終的な出力だけが桁違いに跳ね上がっている」


 入力と出力が一致していない。観測できない場所からエネルギーが上乗せされている。まるでゲームにおけるスキルのような現象だ。これこそが【黄金の才(ユニークスキル)】の効果だと言われたら納得するしかない。


 そんな分析をしている最中にも状況は動いていく。


「これが全能によるものだとわかるなら――ただ弾丸を飛ばすだけが能じゃないことくらい、わかるよね?」


 男が軽く足を踏み鳴らすと、瞬間的に地獄のような熱量の爆炎が生じる。炎は通路を光の速度で突き進み、ダンジョン全体を燃え盛る業火で包み込む。


 全能によって生み出された炎は、炎属性ELMの効果適用対象外だ。とはいえボクだけなら避けられるし、メグさんにも防ぐ術はあるだろう。しかしあきなさんにそれを求めるのは酷だ。反射的に〚エデン〛を展開しようと思ったそのとき、聞き覚えのある演奏が爆発に負けないくらいの音量で響き渡る。


 【誘いのレクイエム】だ。


 猫姫さんがアバターを戻して発動させた【バード】の十八番——ダメージ判定を遅延させる効果が演奏を通じてこの場にいるキャラクター全員に適用され、爆炎によるダメージをいったん先送りにする。その上で続けざまに発動させた【アルティマヒーリング】が【超越の奇跡】を受けて現在HPを大きく引き上げ、結果として絶大なダメージを凌ぎ切った。


【超越の奇跡】

[パッシブ][スイッチ]

効果:[最大HP]を超えて[HP]を[回復]できる。[過剰HP]は[時間]とともに[減少]する。


「さっすが猫姫さん!やっぱり【バード】一本でやっていく方がいいんじゃないですか?」


「いやぁ、それほどでもありますの!」


 とはいえ状況は何も変わっていない。相手は通常攻撃くらいの勢いで大規模な全能を振るうプレイヤーだ。もう一度、足踏みをされればそれだけで終わる。


「まあ今のでわかったでしょう。猫姫さんもあきなさんもログアウトしてください。あいつはボクとメグさんで仕留めます」


「むしろわたくしが足手まといにならないことは証明されたでしょう?」


「でもあの人は、わたしに怒って……」


 彼女らはそれぞれ思い思いの理由でこの場に留まろうとする。この分だとあきなさんは説得しても無駄かもしれない。けれど猫姫さんはそもそも状況を理解していない。こうなれば全能で直接情報を叩き込んで――。


 そう考えた次の瞬間、猫姫さんとあきなさんがその場からふっとかき消える。


「卍さん、こんにちはー。よけーなお世話だったかなー?」


 代わりにその場に現れたのは」さんだ。【黄金の才】の力、【『オネイロス』】の転移能力で助けに来てくれたらしい。


「ありがとうございます、」さん!でも【『オネイロス』】に他者をログアウトさせる能力はないはずじゃ――」


「ていおうりゅうとおなじだよー。」にもふしぎなちからがあるんだー」


 帝王龍さん、猫姫さん、そして」さん。【黄金の才(ユニークスキル)】の所持者にはスキルとは異なる『確信』の力が備わるということか。卵が先か鶏が先かはわからないけど……。


「……あの『異形』がいないなら、これ以上やり合う理由もないか」


 男はぽつりと呟くと、ログアウトしていく。ボクはその様子を見てほっとため息をついた。そう簡単に負ける気はありませんでしたが、厄介な相手でしたからね。


「ありがとうなのです、」さん。正直、肝が冷えたのです。」


「ボクとしてはメグさんにもお礼を申し上げたいですね。非常に助かりました」


「当然なのです!」


「しかしよくあの状況で動けましたね。〈ロールプレイング〉で読み取ったんですか?」


 あの男の異常性は〈ロールプレイング〉を使わなければ察知できなかったはずだ。今や一般テクニックと化している〈ロールプレイング〉だが、それでもこの技術はボクに一日の長がある。その上で断ずるなら、初対面の相手の思考を模倣するのは容易いことではないはずだ。


 にもかかわらず、メグさんは即座に全ての状況を理解した上で、全力で対抗してくれた。それができたのはなぜなのかというと――。


「さすがに初対面の人の思考を演ずるのは難しいのです。でも――卍さんの思考なら簡単に読めるのです」


「なるほど、さすがですね!」


 〈ロールプレイング〉は他者を模倣して思考を演ずるテクニックだ。普段から日常的にやりとりをしていて人となりを良く知っているお友達の方が演じやすいのは当然のこと。メグさんはボクの思考を通じて、状況を理解したらしい。


「……ねぇ、ひとことだけいってもいいかな?」


「ん、なんですか?」


「卍さんたちも、ひとのことをいえないとおもうなー」


「……なるほど」


 」さんの言いたいことはすぐにわかった。つまりはこういうことだ。


 〈ロールプレイング〉って――『時間を止める』能力や『相手をログアウトさせる』能力と、そう変わらなくない?


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