第491話 お友達
あきなさんを仲間に加えて、ボクたちは迷宮の攻略を再開する。
迷宮に出現する宝箱は【パーティ】の人数分だけ中身を入手できるので、ボクたちにとってあきなさんの加入は非常に大きい。その代わりに【復刻米】以外のアイテムが手に入ったらあきなさんに渡すと決めて、片っ端から宝箱を開けていく。
「わわっ、剣が出てきたのです。しかも未鑑定!あきなさん、どうぞなのです!」
「いいのー?ありがとうー!確か【モンク】でも武器を使う方法があるんだったよね?」
「確かに〈ウェポンモンク〉は【モンク】の中でも主流のテクニックなのです。けどこの剣にぴったりのスキルが付いている保証はないから、微妙な効果だったら遠慮なく売っちゃってくださいなのです」
やはり【復刻米】しか出てこないというわけではなく、良さそうなアイテムも出現するようだ。しかし比率としては明らかに米粒が出てくる割合のほうが高い。悪名高いダンジョンとして扱われてしまうのも、さもありなんといったところだろう。
あきなさんはメグさんからもらった未鑑定の剣を嬉しそうに振り回す。武器を持っていると【正拳突き】や多種多様な支援スキルも使用できないので、今の彼女の型としてはアンマッチなのだが、それでも楽しそうだ。剣を振るうと雷のような軌跡が残り、武器に付与されている受動スキルの特性が一目でわかる。
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>雷属性の武器か。雷属性ってあったっけ?
>装備限定スキルでは結構あるよ。まあ風属性として扱われるんだけど
>猫姫さんが使う氷属性の扱いとは違うんだな
>たぶんAGI依存の風属性ダメージが物理ダメージとは別に加算される疾風迅雷っていうパッシブだと思う
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コメント欄にはスキルについての情報がどんどん流れ込んでくる。【疾風迅雷】ですか。単純に攻撃が風属性になるというわけではなく、属性付きの追加ダメージが与えられるというパターンなんですね。相手が耐性装備を付けていても物理分のダメージだけは通るということを考えると、使い勝手は良さそうだ。未鑑定の武器なら他にもスキルが付いているはずだし、それ次第ではかなり有用な武器になるだろう。
いきなり強そうな武器が入手できて、これは【復刻米】が入手できない、なんて嬉しい悲鳴を上げる展開になるかもしれない、と一瞬期待したが、そんなことはなかった。1階層、2階層、3階層と宝箱を開けながら進んでいくが、入手できたアイテムのほとんどが【復刻米】だった。……別にいいんですけどね。それが目的なわけですし。
途中であきなさんが【アームズスイッチ】を取得して、〈ウェポンモンク〉での戦い方も試し始めた。素手の状態で【モンク】特有の支援スキルを重ねがけしてから、【アームズスイッチ】で武器を持ち直して敵に斬りつける。
しかし通常攻撃では【正拳突き】の火力にはかなわない。〈ウェポンモンク〉は【ナイト】の持つ物理攻撃系スキルと組み合わせてこそ真価が発揮できるテクニックだ。あの剣を有効利用するなら今のあきなさんとは違う型や相性の良い別の装備が必要になるでしょうね。
そんなミスマッチな状態ではあるが、この迷宮の敵が相手なら少なくとも問題はない。あきなさんは雷の剣を振るいながらモンスターたちをなぎ倒していく。
ボクたちは合間合間に【イグニッション】をはじめとした支援を彼女にかけ、後方支援に徹しながら攻略を進めていった。
そしてついに10階層への階段を見つけたところで、現在の【復刻米】の数を確認することになった。
「【復刻米】は現時点で124粒……。まだまだ3000粒までは遠そうですの」
「おそらく社員さんが集めてくれている分をまとめても届きそうにないですね。……メグさん、何食分くらい集めたいですか?」
「ここぞというときにしか使わないと考えても、3食分くらいは確保したいのです」
3000粒×3で9000粒か……。これでも遠慮しているほうだろう。メグさんがこの料理によってどんな戦術を取るつもりなのかはわからないが、本当なら毎試合使いたいはずだ。
しかしあまりにも入手効率が微妙すぎる食材で、市場にも出回らない。そもそも宝箱から出てきたときに、わざわざ【ストレージ】に入れるのも面倒に感じるようなアイテムだ。仮に十分な数の【復刻米】を持っているプレイヤーがいるとするならば、それは自分で食べることを目的に集めた人だろう。
「まあ……集められないというほどではなさそうですね。高値で買い取りを提示すれば、迷宮に潜って集めてくれる人もいるでしょう。それに加えてボクらもフル稼働で集めて回れば、なんとか届きそうです。ところで――猫姫さんはなんでここまで付き合ってくれるんですか?」
ボクとメグさんは【ダブル】本戦で一緒に戦う仲間だから、メグさんのために【復刻米】を集めるのは当然だ。あきなさんは10階層に向かうついでに加わってもらっただけなので、Win-Winの関係だろう。
しかし猫姫さんは本来ならばボクたちが【復刻米】を集めた後に【『ディオニューソス』】を振るうのが役目であって、こんなちまちまとした収集作業に付き合う必要はない。あとでメグさんが報酬を支払うのだろうか?
「え?お友達なんだから当たり前ですのよ?メグさんも卍さんも本戦での活躍、期待していますわ!」
さも当然のようにさらりと言ってのける猫姫さん。もしかして【黄金の才】の所持者は聖人しかいないのだろうか?
「猫姫さん……抱きしめていいです?」
メグさんはそう言いながらうり坊姿の猫姫さんに近づき、がばっと抱きつく。
「わわっ、急になんですの!?」
「【『アイテール』】のことで煽ろうとしてた自分が恥ずかしくなってきました……」
「えーん、いい話だよー!」
あきなさんもあきなさんで、まるで自分のことのように目をうるませて感動している。物理的な涙は出ていないが、水玉の感情表現がぽんぽん飛んでいる。かわいい。
そんなほのぼのとした光景を眺めていると……ボクの《『第六感』》が、空気の中に紛れた激しい殺意をとらえる。
飛び道具が撃ち込まれたわけでもなく、魔法が放たれているわけでもない。それでもボクは反射的に、悪意の前へ立ちふさがるようにふわりと躍り出た。
悪意の矛先は――あきなさん。一見何も起きていないように見えるが、間違いない。たった今、あきなさんは攻撃を受けた。
今のは【フェイクショット】だ。
【フェイクショット】
[アクティブ][投射][攻撃][物理][妨害:確定]
詠唱時間:0s 再詠唱時間:120s
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。この[スキル]による[ダメージ]は[キャラクター]の[HP表示]に[反映]されない。




