第487話 復刻米
猫姫さんとの感想戦を終えて、せっかくなので猫姫さんの【りんご】をいただくことにした。地面にちょこんと置いてもらって、【アイズ・ファミリア】の姿のままかじってみる。皮がシャリと割れて、甘い香りがひろがった。
「やっぱりさすがの品質ですね。まるで果汁0%のりんごジュースみたいな甘さで、おいしいです!」
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>ダメじゃねーか
>ゴミで草
>果汁0%の方が美味しいよな
>気持ちはわかる
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果汁0%のりんごジュースって、なんであんなにおいしいんでしょう?もちろん好みは人によると思いますが、ボクはこの【りんご】が大好物になりそうです。
ボクが喜んでりんごを頬張っている間に、メグさんと猫姫さんが何やら相談をしていた。猫姫さんがそれを切り上げてこちらへ視線を向け、提案を投げかけてきた。
「メグさんから料理の作成をご依頼いただいたのですが、必要な食材の持ち合わせがなくて……。よろしければ、食材の確保にご協力いただけますかしら?」
「もちろん構いませんよ!レアな食材なんですか?」
メグさんはボクと一緒に大会に挑む大事な仲間だ。仲間の強化に協力するのは当然のことだろう。しかし一般的なモンスターが落とす食材であれば、すでに市場に出回っているはずだ。わざわざ集めに行くということは、貴重な食材なのだろうか?
「それほどレアというわけではありませんわね。ただ、数が必要ですの」
そう言うと、猫姫さんが虚空で指先を動かし、Webサイトが表示された。あかりちゃんさんの作った攻略サイトのようだ。【復刻米】というアイテムのデータが表示されている。
「お米系のアイテムですか!最近も【天国米】とかありましたね。レアリティはNで、入手場所は【試練の迷宮】。宝箱から出てくるんですね。でも、見たところ、集めるのも簡単そうですけど」
そう疑問を投げかけると、メグさんが疑問符の感情表現を飛ばしながら聞いてきた。
「卍さん、【試練の迷宮】に行ったこと、ないのです?かなり悪名高いアイテムなのです」
「悪名高い……?」
確かに【試練の迷宮】というダンジョンには行ったことがない。というか知らない。それでも以前に聞いたことがある気がして記憶の引き出しを開けてみると……。
「ああ、メインクエストで行く場所でしたっけ。【勇心の石版】があるんでしたよね?」
帝王龍さんがちらっと言っていた気がする。ボクはメインクエストを正規ルートで攻略していないので、これまでまったく縁のない場所だった。
「確かにこのサイトを見る限りでは普通のアイテムに見えるのですけど、実はこのアイテム——1粒ずつしか出てこないのです」
「????」
……嘘でしょ?同じお米系アイテムの【天国米】は大盛りオムライスを作れるだけの量がありましたよ?
いや、嘘をついていないのはわかりきっているので、あまりにも意味不明ではあるが事実として受け取るしかない。考えてみれば、アイテム枠は1つなのに無数の米粒が内包される【天国米】の方がおかしいのかもしれない。
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>宝箱から米粒が出てくるのほんとゴミ
>草
>クソすぎてストレージに入れる時間すら惜しむせいで市場にも出回らないという
>親の顔より見た米粒
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「ある意味では【天国米】よりも希少かつ強力ですの。ちゃんと1杯分を確保できれば、最高レベルの再詠唱時間軽減効果を得られますわ。おまけに【マクロ】の出力増加もつけられますの」
「再詠唱時間の軽減ですか。悪くないですね」
人を選ぶ効果ではあるが、人によっては喉から手が出るほど欲しいものだろう。
「それじゃあ、さっそくみんなで【試練の迷宮】に——いや、こういうときは【会社】システムを使うべきですかね」
NPCの社員を使って大規模生産や素材の採取を代行させられる【会社】システム。今が使いどきだろう。
さっそくメグさんと猫姫さんを連れて【闘技場】を出て【ダスター都市】に飛んだ。最近はすっかり放置していましたからね。社員さんはちゃんといるでしょうか?
ガラス製の扉を開けて中に入ると、オフィスではNPCの方々がすやすやとお昼寝していた。
「みなさん起きてください!お仕事の時間ですよ!」
大声で呼びかけて社員さんを起こし、【試練の迷宮】で宝箱を開けて【復刻米】を集めてもらえるようお願いすると、とことこと会社の外へ駆けていった。
「よし、これでOK。集めるのにどれだけかかるかはわかりませんが、ボクたちが宝箱を開けて回るよりは効率的だと思いますよ」
とはいえ【会社】システムのNPCは、作業を委託できる代わりに作業自体のスピードは遅い傾向にある。すぐに食材を集めたいなら、ボクたちも収集に回るべきだろう。
「ボクたちも【試練の迷宮】に向かいますか?どうします?」
「卍さんが来てくれるならお米を集めたいのです!」
「わたくしも【転生】アバターのレベル上げも兼ねてご一緒いたしますわ」
よーし、それならボクも【アイズ・ファミリア】のレベル上げついでに、【試練の迷宮】で宝箱をどんどん開けていきましょう!




