第48話 バーニングハウス
裏庭に出て、【ストレージ】から家を地面に配置する。ついでに余っていた【ディバインゴーレムの石】も取り出して店員さんに提供した。
「素材の張り替えはシステムですぐに終わるにゃん。でも、その前にディバ石に加工を施しておく必要があるにゃん。協力してくれますかにゃ?」
「ボクでできることなら喜んでお手伝いしますけど……生産系のスキルは取ってないですよ?」
「わたくしも協力いたしますの!」
「そういえば、猫姫さんの職業はなんなんですか?」
「わたくしは【バード】ですわ。鳥の職業なんて、【『アイテール』】を持つわたくしに相応しいと思いません?」
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>birdじゃなくてbard定期
>バードって強い?なんか支援クラス的な印象があるけど
>攻防一体の有能クラスだぞ
>スキルの詠唱時間中にもなんらかのスキル効果が発動するという唯一無二の性能がある
>発動してから詠唱とかほざくビショップと比べるとインパクトが薄いな
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「【バード】はコメント欄でも言われている通り、魔法系職業の中ではかなり優秀な職業ですね。なによりも強いのは他の魔法系職業と組み合わせた時のシナジーなのですが」
スキルの詠唱時間中にも別の効果が発動するという唯一無二の職業固有特性。確かに面白いのだけど多くの効果は詠唱をトリガーとした受動であり、他の職業のスキルに対しても適用される。
おかげで【バード】のスキルは全部その手の受動で埋められて、能動スキルは全く活用されない、なんて型が当たり前。
そんな環境においてあえてメイン職業に【バード】を持ってくるのは割と珍しい部類だったりもする。
「なるほど!メイン【バード】ですかにゃ!となると、音楽系スキルをお持ちですか?」
「当然ですの!【滅びのエレジー】【星空のロンド】【追撃のカノン】【誘いのレクイエム】……主要スキルはすべて取得しておりますわ!」
「それはありがたいですにゃ!ぜひ協力していただきたいですにゃん。」
そう言うと、店員さんは【ディバインゴーレムの石】を地面に無造作にいくつか設置し、残りを【ストレージ】に収納した。
その【ディバインゴーレムの石】から後ずさるようにして離れ、ボクに対して指示を出した。
「そのディバ石に【炎属性】魔法をお願いしますにゃ。それも、最大級の。」
「わかりました!最大級ですね!」
理屈はわからないが、この石に魔法を当てることが加工につながるらしい。そして彼女の望みは『最大級』だ。
現在ボクが使えるスキルで威力が高いのは【サモン・フィーニクス】【メテオ】【フルバーニング】【ソウルフレア】。先に挙げたものほど威力が高い。
今回は戦闘中のような時間制限がないから【サモン・フィーニクス】を撃ってもいいんだけど……実は時間をかければもっと高威力の魔法を放つ手段が存在する。
本来なら大会で公開する予定だったのだけど、手の内が割れてもなお、強力な抑止力として成立するテクニックだ。
ボクは杖を振るい、無造作に置かれた石の周囲に手当たり次第に【アンプルアロー】を撃ち放つ。
【アンプルアロー】が落下し、内容物が地面に落ちると、急激に成長していき、人型サイズのかかしへと変化する。
他の【アンプルアロー】も内容物は同じ。その結果、裏庭は一面、かかしで埋まった。
さらに【ストレージ】から1本の杖を取り出し、スキルを宣言し、杖を振るう。
「【チェインボム】!」
杖から赤い光線のようなモノが放たれ、真正面にいたかかしに命中した。直後、乾いた破裂音がパシンと裏庭に響いた。
それは明らかに規模の小さな爆発で、到底最大級の威力とは思えないモノだった。
しかし、その直後、爆発したかかしの側にいた別のかかしが連動して即座に爆発する。直前よりわずかに威力が増す。周囲のかかしも次々と爆ぜて……。
あとは倍々ゲームだ。周囲のかかしに爆発が連鎖するごとに威力はさらに上昇し、その規模を広げていく。最後には街全体が揺れるほどの大爆発が起きた。
「うひゃあ!近所迷惑すぎですのー!」
壊れるのでは、とも思ったが、それは杞憂だった。あの派手な爆発を受けたのにもかかわらず、かかしたちも含め、まるで無傷の状態だ。
しかし変化がないというわけでもない。炎を飲み込んだ【ディバインゴーレムの石】は、芯火のごとく静かに燃え続けていた。
「本来あるべきはずの属性が失われた空っぽの容器。そこに強力な属性を強引に注いでやれば、新たな属性を定着させられるのは自明の理。書物から考察した未実証の理論だけど、成功してよかったにゃん。」
店員さんは世界観を重視するタイプのプレイヤーのようですね。仕様を仕様として捉えるのではなく、世界の法則という視点で現象の理屈を説明している。生粋のロールプレイヤーだ。
やる気や感情が出力を左右する世界では、こういった方こそが強くなれるのではないでしょうか?まあ、彼女は今のところ生産販売特化型のプレイヤーのようですけど。
思考を明後日の方向に逸らしていたのだけど、そろそろ現実を直視しなければならない。
「この滅茶苦茶燃えてる鉱石を家の素材に使うんですか……?」
「【バーニングハウス】!素晴らしいと思わないかにゃ?」
常に火事のようになっていそう。
「じゃあさっそく始めるにゃん!」
そう言うと、店員さんはなにやら虚空に手をかざし、指先を器用に動かしてなにかを描き始めた。
しばらくすると、家の様子に変化が訪れる。屋根がキャンプファイヤーさながらに燃え上がり、熱波が頬を撫でた。
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>こんな家に暮らす奴おる?
>酷すぎて草
>戦術的価値があるからね仕方ないね
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確かに見栄えとしては最悪だけど、戦術的価値があるのも事実だ。〈ホームタクティクス〉は主に屋根の上を自分たちの拠点として活用する戦術。
そんな屋根の上で炎が燃え盛っていたら炎属性に対する耐性装備なしで近づくのは躊躇するだろう。
逆にボクにとって炎属性とはHPを回復させる癒やしの魔法。屋根の上で戦っている限り永続的な継続回復効果があるようなものだ。
一方、ゆうたさんに炎属性耐性装備を強要することになるデメリットもあるのだけど……そこは臨機応変にいこう。
「ありがとうございます!助かりました」
「いえいえ、にゃん。じゃあ次は……【バード】のスキルを使って新しいアイテムを作ってみるかにゃ?」
「わたくしのスキルを……?何を作るんですの?」
「うーん……そうですにゃね……〈ミュージックハウス〉なんていかがかにゃん?」
テクニックその35 『容量理論』
本来備わっているはずの能力が後天的に欠けてしまったアイテムは、その分の効果キャパシティが空いている。よって、簡単に属性や効果を付加することが出来るという仕様です。珍しくただの仕様なのですが、ゲーム内の本からヒントを得ないと見つからない隠された仕様のようです。かなり大雑把に付与しているように見えて、実は指向性の調整するために素材の微調整も必要なのだとか。
テクニックその36 『チェインスケアクロウ』
かかしはスキルのターゲット、つまりキャラクターとして認識されるアイテム。つまり、大量のかかしを用意して【チェインボム】を当てれば相手がいなくても連鎖できます。フィールド一帯にかかしをばらまけば空中以外のどこにいようが相手を巻き込める、これこそがかかし圧殺戦法!




