第44話 余程の想定外
「ふたを開けてみれば快勝でしたね!」
家を主軸にした地の利を生かす戦法は大成功。一瞬でマップに要塞を築くようなもので、その強さは折り紙付きだ。
とはいえ——これからはあらゆるプレイヤーが家を召喚し始めるようになるでしょうね。
「【アイテムマスター】のスキル【グラビティコントロール】がなければ収納スペースが足りないからな。【パーティ】戦の環境では〈ファニチャーホーム〉が前提となるだろうが、【シングル】や【ダブル】では現実的に厳しいな。同効果の装備を入手できればあるいは、といったところか」
【アイテムマスター】はかなり有用な職業だが、あくまでサポート向けの職業という面が大きい。一時的に地の利を得たところで、そのまま圧殺される可能性もある。それなら【ダブル】でどうなるかと言えば——それは今後の環境次第ですかね。
「そういえば聖天使猫姫さんはどうなったのでしょう。ログを見てみましょうか」
ログを開いて聖天使猫姫さんの試合を探す。
「おっ、あったあった。……負けてますね」
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>ええ……
>ユニークスキルかませすぎない?
>相手もユニークスキル持ちだったんだろう。許してやれ
>卍さんと宿命の対決が繰り広げられると信じていたのに
>マジかよ失望したわお嬢様のファンやめます
>言うほど小数点以下の確率でしか勝てないか?
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「大丈夫ですよ!きっとたまたま【黄金の才】同士の潰し合いだったんです!ログを見ればわかりますよ!」
というわけで、ログを再生してみると、聖天使猫姫さんの試合が目の前に映り出す。
『おーほっほっほ!空を支配する究極の【権能】、【『アイテール』】にそこらの庶民が敵うはずありませんわ。叩き潰して差し上げます!卍荒罹崇卍!待っていなさい!』
そう言うとぴょんぴょんとジャンプを繰り返しながら高度を上げていく聖天使猫姫さん。
ああ、【『アイテール』】って無限ジャンプができるスキルなんですね。〈ロードウィング〉と大部分が重なっているのが残念な感じですが……。
とはいえスキル名を連呼していないところから察するにおそらくは能動ではなく受動。やっていることは同じでも、利便性は段違いだ。
一方でそんな猫姫さんの対戦相手は全身を真っ黒いローブに包み、身を隠した謎の人物が2人。闇の組織的なロールでしょうか?
そんな怪しい人のうち1人が腕を掲げ、空を飛ぶ聖天使猫姫さんに向けた途端——
金属質の乾いた炸裂音が、会場内に響き渡った。
直後、飛行を止めて垂直に落下していく猫姫さん。
そしてそのまま、鈍い音を立てて地面に墜落した。
一目でHPが全損していると確信できた。
落下ダメージはおそらく関係ない。あの不思議な音を生じさせる攻撃が猫姫さんのHPを一瞬にして奪い去ったんだ。
その後、猫姫さんの相方もあっけなく謎の攻撃によって倒される。
試合が終わり、映像がゆっくりと暗転していく最中、マイクが拾った微かなつぶやきが印象に残った。
『……【黄金の才】もこの程度っすか』
「【黄金の才】もこの程度……つまり、映像の攻撃は【黄金の才】ではないということですか?」
「〈魂の言葉〉でアレは再現できるのか?」
「……難しいんじゃないでしょうか。一目で大きなダメージを受けたと錯覚させて落下させる程度ならいけるとは思いますが、HPはあくまでシステム的な数値。〈魂の言葉〉単体でダメージを与えることはできないでしょう」
逆に言えばシステム的な攻撃を介した〈魂の言葉〉であればその火力を引き上げて確殺することは可能だろう。
しかしボクが知っているスキルの中であの攻撃と一致するスキルは思いつかない。もちろん【黄金の才】であればボクが知らなくても不思議ではないけど、それは先ほどのつぶやきで否定されている。
「となると何らかの仕様を応用した超テクニックか何らかの隠し要素……なんですかね?なんというか——銃のような音がしましたけど」
「そうだな。〈魂の言葉〉や【黄金の才】でないのならば、あれは銃声と見ていいだろう。銃がこれまでの大会で出回ったことはないが、【シングル杯】や【ダブル杯】の賞品がランダムである以上、宝箱やドロップなどのランダム判定でも入手できる可能性はある」
「この大会の優勝賞品をあの人はすでに手にしている、というわけですか。とはいえ銃単体でそこまでの高性能だとしたらゲームバランスが瓦解してしまいますし、単純な装備性能ではないと思います。何らかのコンボがあるのでしょう」
「そうですの!わたくしがただの装備性能で負けるわけありませんわ!チートですのよきっと!」
「おや、猫姫さん。なんというか、残念でしたね……」
「別に平気ですわ。それより、お2人はわたくしの仇を討ってくださいまし!応援していますの!!」
……と、初対面はわりと険悪だったはずなのに、どういうわけか普通に応援されてしまった。恨みの矛先が変わったのだろうか。
「では期待に応えるとしようじゃないか。なあ、荒罹崇?」
「そうですね!目指すは優勝!それしかないですから!」
「ちなみに、わたくしの担当から聞かされた話なのですけれど、今回の大会は緊急で延期になるらしいですわ」
「延期……?担当ってなんですか?」
「それは課金者サポート担当のGMですわ。1億円を払うのだからアフターサポートがあって当然ですのよ?もっとも、【加護】のフォローはないそうなのですが……」
「なるほど、確かな情報筋からの裏話といったところですか。しかし、延期ねえ。システム的に自動で開催される大会なんですよね。」
よほどの想定外が発生しない限りは通常、延期にはならないはずなのだけど。
「——よほどの想定外があったのだろうな」
黄金の才その2 『アイテール』
無限にジャンプを行うことが出来るスキルです。
一見するとゲーム全体に干渉する【『クロノス』】に比べて規模が小さく見えますが、迷惑をかけない事は美徳でありメリットなのでこちらのほうが上です。
表面上は〈ロードウィング〉とまるで代わりが無く、割と可哀想なスキルにも見えますが、手が塞がらないし受動でもある。この2つの違いが圧倒的な性能差を産むことでしょう。
……一瞬で負けちゃいましたけど。




