第41話 ダブル杯
「【フルバーニング】!」
宣言とともに、ボクを包み込むように炎が燃え上がった。轟音とともに橙の炎が膨れ上がり、熱風が頬を打つ。
莫大な生命力をリソースとして放たれたその魔法は、一瞬で周囲を火の海に変え、モンスターたちを焼き尽くす。
「うん、完璧ですね!」
【帝神の加護】でカスタマイズした【フルバーニング】は、HPの85%をコストとして消費するハイリスクな魔法になった。
莫大な破壊力によって周囲の敵は1匹残らず消滅したけど、その代償にボクのHPは瀕死状態に——ならない。
たしかにHPは減少しているが、ボクのHPはまだ安全域だ。
理屈は簡単だ。強化された圧倒的な炎属性ダメージをELMによって回復へと変換することで、コストを実質的に踏み倒している。
本来ならコストとしてHPを消費したうえで、攻撃範囲に自身を巻き込んでしまうという残念な魔法だが、炎属性に特化した使い手にとっては最高のスキルに化す。
「まさに最強!炎属性こそが最強なんですよ!わかりましたか?」
----
>でも今後はこのレベルのコンボをみんな使ってくるんでしょう?
>HPが85%を切ったら発動できない欠陥スキルかな?
>↑ソウルフレアとかの他の魔法との噛み合わせが悪すぎる……
>もう二度とパーティ狩りできないねえ……
----
「【パーティ】狩りできますから!別に欠陥でもないですからね!?」
そんな実質的な新スキルを用いて、現在は狩り場でテスト運用中だ。特に問題ないようならば、これ以降はひたすら敵を倒し続けるだけなので配信は終了だろうか。
と思っていたところで、誰かからチャットが届いた。誰だろう?
ゆうた >ダブル杯に出てみないか?
すごく唐突ですね。
----
>闘技場ランカーのゆうたさんと一緒に出るとか優勝確定だろ……
>これは間違いなくナンパですよ。気をつけてください
>ゆうたさんって1on1が主戦場なんじゃないっけ?
>卍さんのどこにタッグマッチに誘われるような利点があるんだ……?
>↑そりゃあれだよ。開幕で爆発して相手を仕留めるとか
>卍さんかわいそう。捨て駒にされちゃうんだね……
----
「あのゆうたさんに誘われるとは光栄なことですが、たしかに不思議ですよね。【ダブル杯】に出る理由もボクを選ぶ理由もないですもん」
ちなみに【ダブル杯】とは、定期的に自動で開催されるゲーム内の大会イベントだ。
だいたい週1くらいで【シングル杯】や【パーティ杯】と同時に開かれるので、特に目新しくもない感じだ。まあPvP勢にとっては主要な稼ぎ場なのでしょうけど、あまり詳しくないんですよね。
それこそゆうたさんが【シングル杯】において勝率が高いってことくらいしか知りません。すでに活躍できる戦場があるのだから、わざわざ【ダブル杯】に出場する理由もないはずだけど……。
卍荒罹崇卍 >ボクでよければぜひご一緒させていただきますが、なにかあったんですか?
ゆうた >今週のダブル杯の優勝アイテムが当たりなんだ
「……なるほど。自動開催の大会である以上は、賞品もランダムですからね。公表されたアイテムによっては別の大会に出るのも選択肢としてはある、というわけですね。……ちなみにそんなゆうたさんが熱望するアイテムってなんなんでしょう?」
卍荒罹崇卍 >どんなアイテムなんですか?
ゆうた >銃器だな
卍荒罹崇卍 >はい?
ゆうた >マシンガンだ。付与効果も公開されていて、HP吸収の効果とゴブリンを召喚するスキルがあるらしい。
卍荒罹崇卍 >そんなファンタジーから外れた装備があるんですか?
ゆうた >大会ではたまに出てくるな。ビームサーベルが準優勝賞品だったときの決勝戦は、どちらが先に負けるかを競っていたぞ
----
>草
>優勝賞品より準優勝賞品の方が魅力的だったのな……
>クソゲーすぎる
>卍さんが自爆で無双できるじゃねーか
>ビームサーベル欲しい
----
ゆうた >こういう大会で出回った新装備は研究に回せば解析して一般にも出回るようになるんだが、優勝者が出し惜しみすることもあるからな。できれば入手しておきたい。解析後の装備は使ってもらって構わない
卍荒罹崇卍 >なるほど。銃は面白そうですね。ゴブリン召喚?ってのがちょっと意味がわかりませんが
ゆうた >装備効果もランダムだからそこは仕方ない
卍荒罹崇卍 >なんにせよ、参加させていただきますよ!よろしくお願いします!
ゆうた >大会は1週間後だ。おそらく今回は参加者も多くなるだろう。連携の確認をしておこう
というわけで、唐突に新しいスケジュールが追加されました。それはいいのですが……。
最近、プレイヤーに【加護】という概念が追加されたことで、それぞれの戦術も独自のものに発展しているはず。
一筋縄ではいかないでしょうね。ボクはそこまで対人に詳しいわけではないのですが、ゆうたさんの視点で見ても、これからの対戦環境は別物と言ってもいいのでは?
つまり、ここはボクも新たな戦術を構築して、大会に集う猛者どもを薙ぎ倒していかねばならないということ!
燃えてきましたねっ!
「さて、では狩りも中断してゆうたさんと合流しましょうか。狙うは絶対優勝ですよ!」
「すまないな、突然誘ってしまって」
「いえいえ、絶対勝ちましょうね!」
ゆうたさんと合流した先は訓練場だ。さまざまな検証や戦術の考案をするなら、ここがいちばんです。
今回は周辺の環境を大会用闘技場と同様に設定してあるので、本番に備えた最適な訓練ができるはずだ。
「基本的には大会ではどんなプレイヤーと戦うことになるかはわからない。しかし、対人というのは自分のやりたい戦術を押し付けた側が勝てるものだ。メタや対策よりも強い戦術を生み出すことが勝利につながる」
と、メタ構築の達人たるゆうたさんがドヤ顔で解説してくださったので、とりあえずまずは相手の動きは考慮せずに、強い勝ち筋を模索することにした。
「とりあえず〈カウンターコンバージョン〉は、ボクたちの使えるテクニックとして有用ですよね。当たればこれだけで仕留めることも可能なはずです」
「そうだな。だが、同時に間違いなく最も警戒されているはずだ。明確な勝ち筋にはなりえない」
「相手の動きを考慮しないって話はどこにいったんですか?」
「それは相手の動きを考慮する必要がない方法で圧倒するという意味だ。回避不能、防御不能の絶対的な一撃を狙う必要がある」
「そんなんあったら苦労しないですよー。毎週行われる定期大会どころか、優勝賞金1000億円の本戦でも勝てちゃうじゃないですか」
「だが、それに匹敵する手札はそろっているはずだ」
なにやらゆうたさんの中ではすでに腹案があるらしい。そんな恐ろしい戦術が、今使える手札から引き出せる……?
「そ、その戦術とは一体……!?」
「『かかし圧殺・地の利』戦法だ」




