第31話 連爆の杖
「目的地は決まりましたが、戦闘の準備はしておかないといけません。もしかすると特殊なクエストが発生するかもしれませんしね」
つい先日、ボクは【アイテムマスター】という新しい職業を獲得した。そのことをきっかけにアイテムを使った新しい戦術をいくつか試しているが、実は肝心の【アイテムマスター】としてのスキルは何一つ使用していない。
獲得したばかりだったこともあり、魔王との戦いでレベルが上がってスキルポイントもたまってきた。この機会に新スキルを習得してみるのもいいかもしれない。
ボクたちは神殿へと向かい、像に適当な祈りを捧げてスキル習得画面に移行させる。
「今回は【アイテムマスター】のスキルについて、調べてきましたよ。ネットの情報なので嘘かもしれませんけどね」
【フォッダー】は公式大会に多額の賞金がかけられていることもあってか、ネット上の攻略情報には悪質なフェイクが山ほどある。さすがにスキルの効果説明文のようなすぐ確認できる部分に嘘が書かれていることは少ないのだけれど、ちゃんと文面も精査しなければいけない。
ずらっと並ぶスキルでまず最初に目につくのが【アイテムマスタリー】。使用するアイテムの効果を向上させるスキルだ。目立たないが、こうした基礎スキルこそが戦いの要だ。手堅く習得を決める。
他には【ストレージ】内の重量を軽減してアイテムの所持可能数を増やす【グラビティコントロール】や、自身が使用したアイテムの効果を周囲にも適用する【ワイドアイテム】。アイテムの効果を反転させる【オーバードーズ】に、【パーティ】メンバーと共有の【ストレージ】を作成することができる【パーティストレージ】などなど。最後のは特に面白いですね。ボクが専用の【ストレージ】に入れたアイテムを他のメンバーが取り出して使えるってことですか。
「【アイテムマスタリー】と【グラビティコントロール】、そして【パーティストレージ】を取得しておきましょう。これで好きなだけアイテムを確保しておけば、あらゆる状況に対応できますね!」
【アイテムマスタリー】
[パッシブ][スイッチ]
効果:[アイテム]の[効果]を[増加]させ、[再詠唱時間]を[減少]させる。
【グラビティコントロール】
[パッシブ][スイッチ]
効果:[ストレージ]内の[アイテム][重量]を[減少]させる。
【パーティストレージ】
[パッシブ][パーミッション]
効果:[味方]と[共有]できる[ストレージ]を[所有]する。
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>こいつどんどんアイテムマスターに寄せてんな
>炎よりアイテム使いのほうが強いんじゃね??
>ポーションを矢でぶち込むのかなりずるい
>確かポーションを座標指定で適用させるスキルなんてのもあるんだよな
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ま、まずい……!炎属性使いの硬派な【メイジ】たるこのボクの評判が、アイテム使いの美少女的な評価になってきている……!
【メイジ】は正直必須というわけではないんだけど、炎属性はボクのアイデンティティ。炎属性のお姉さんと呼ばれるべく、テコ入れしなくては!!
「というわけで炎属性の装備をください!!」
「この間、優秀な装備を渡したばかりだろ?そう簡単に良装備は引けないよ」
というわけでやって来ました新しいフォルダさんのお店。延々と鍛冶による装備ガチャを引き続ける戦闘職(予定)の方だ。
「ここで水着を買ったんですよ。あと【アンプルアロー】もね。あの矢はすごく助かってますよ!」
「おねえさまのせくしーなお姿はこのお店のおかげということですか♥」
「まあそれは置いておいて、なんかないんですかー?炎属性のアイテムとかどうです?爆弾とか」
聞いてはみたものの、無茶振りだと思う。だってこの店は装備品のお店なのだ。矢やポーションは装備品の付属として売っているに過ぎない。
「ああ、それならあるよ。これだ」
「えっ、あるんですか?」
内心びっくりしながらも、彼が取り出したものを見ると、そこには古ぼけた木製の杖があった。
「装備じゃないんですか?」
「種別はアイテムだよ」
薬が入るからポーション、撃てる弓があるから矢って言ってたわりには、おかしくないですか?どう見ても武器ですよね?そう思ったけれど、口には出さないでおく。
「その杖を振ると【チェインボム】というスキルが発動する。再詠唱時間は30分だ」
「なるほど、再利用できるタイプのアイテムですね。【チェインボム】というのはどういった効果で?」
「相手に当たると爆発するビーム光線のようなものだ。当たっても最下級魔法以下のダメージしか発生しないが、爆発は他のキャラクターに誘爆する。そして、誘爆が重なるたび、花火のように爆圧が層をなし、威力も着実に上がるわけだな」
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>できるだけ敵の密集地で使う道具だな
>でも密集って言っても言うほど固まって動いてる敵いないよね
>評価は爆発の規模によるとしか言えない
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「ほうほう!それで炎属性なら言うことなしですね!買います!他にもこういうアイテムはないんですか?」
「他にもあるけど、俺が使う予定だからないよ」
なるほど……このアイテムはただ彼にとって価値を見いだせないアイテムだったというだけのようです。
まあ、何度も使えるアイテムということは言い換えれば外付けのスキルが増設されるようなもの。よほど残念なアイテムでもない限りは確保しておくべきですし、仕方ないですね。
「この【連爆の杖】もなかなかの使い勝手が期待できそうですからね。活用させていただきますよ!」
「ちなみに代金は現在の所持金から5割だ」
「……時価ということですか?ボクが一文なしだったらどうするんですか?」
「配信を見てるから所持金の額は知ってるんだ」
【連爆の杖】と【アンプルアロー】を大量に購入し、次にやってきたのは例のアイテムショップだ。
「いらっしゃいませにゃん!」
「あ、店員さん、【タブレット】の効き目抜群でしたよー!あれで何回も危機を救われました」
「ありがとうございますにゃん!!ちなみにソファーの方はいかがでしたかにゃん??」
「ソファーも最高の座り心地でしたよ!」
「ソファーで溶けるようにだらけているおねえさまのお姿、素敵でしたわ……♥」
「だらけるのもいいんですけど、せっかく回復効果があるならソファーに乗ったまま戦ってもいいかもしれませんね。あるいは車いすとか?」
ラーメンをすすりつつ戦う猛者もいるのだから、座って戦うくらい日常茶飯事だろう。
「なるほど!ふわふわ車いすソファー!早速検討してみますにゃん!アイデアをありがとにゃん!」
車いすにしたところでまともに動けなさそうな気がしますが……。それでも店員さんは燃える炎の感情表現を発生させてやる気を示している。完成したら、ぜひ試乗させてもらおうかな?
「そんなありがたいお客様には当店自慢の家具、その極致をお見せしますにゃん!こちらへどうぞ!」
そう言うと店の奥まで案内してくれる店員さん。どうやら表には置いていない商品らしい。一体なんだろう?
促されるままに店の奥にある扉を開くと、そこは……外だった。どうやら裏口だったらしい。
目の前には2階建ての一軒家が建っているが、その他には目ぼしいものは何ひとつない。あの家の中にある家具なのだろうか?
「ふふん、どうですかにゃん?一品モノの貴重な家具ですにゃん」
「え?ここに家具があるんですか?ぱっと見では見当たらないのですけど」
「何をおっしゃるのですか、お客様。目の前にありますにゃん?」
…………家って家具ですか?




