第29話 フォッダー不思議探検隊
「たとえ私が仕事を放棄しても誰も何も困らない。プレイヤーはそれすらも面白い要素だと好意的に理解を示し、思い思いの方法で強さを磨いていく」
ユーキさんは、淡々と自身の内に秘めた想いを言葉にしていく。
「あるいはクソゲーだなんだと私を罵る人もいることでしょう。それでもプレイをやめることはない。クソ要素を活用して、利益を享受する側に回ればいいだけの話なんですからね?」
「——じゃあ、誰が作っても神ゲーだからボイコットをしてるんですか?」
「違いますよ。これはあくまで前提の話です」
そんな感情的な理屈で仕事を放棄しているのなら正直に言って幻滅していた。けれど、ユーキさんは首を振ってきっぱり否定する。
「何をしても許される。それならばプレイヤーすべてを愚弄するような悍ましい仕様を導入することも可能になる。そして、それこそが【フォッダー】に多額の資金が投入された真の目的」
「真の目的……?」
「まあ——誰もが確信している通り、あのゲームには裏があるって言うことですよ」
ボクの問いかけに、ユーキさんは言葉を濁す。その目的については話すつもりがないらしい。
「あなたが倒した魔王も、真っ当な方法で倒される予定はなかった。あれが倒されたのは、あらゆるプレイヤーが真っ当ではない方法を得ているからにすぎません」
真っ当ではない方法。つまり、バグを放置しているのはそのために……。って!
「もしかして、ボクを狙って公園で待っていたんですか?だからあんなに感情表現を連打して……」
「私が担当したプログラムの『スパゲッティコード』を解読できるエンジニアはこの世界にはいません。今後も修正されることはないでしょう。そして最後に1つだけ」
「バグの領域を超えた異常事態——それがはじまりの合図です。」
「というわけで、実録!ユーキさんの衝撃告白!の内容は以上となります!ボクが撮っていたわけではないのですが、わざわざ向こうから端末にデータが送られてきましたので、公開させていただきました」
ユーキさんは話すことのできない秘密を抱えている。そして、それを暴いてほしいからこそボクに声をかけたのだろう。
一体どんな裏があるのかは検討もつかない。悍ましい仕様?デスゲームですか?
そもそもはじまりの合図があまりに曖昧すぎます!バグの限度って、境界はどこなんですか!?余所のゲームならすでに限度を超えているような仕様が既に割と出てきてますよ?
----
>やっぱフォッダーってクソだわ
>【悲報】プログラマーがボイコット
>意味深な事言ってクソゲー臭醸しだすのやめろ
>ぜんぜん神ゲーじゃなくて草
>賞金1000億円でもクソゲーにはなりえる。はい論破
>↑でもクソゲーでもプレイしちゃうんでしょ?Q.E.D.
>↑でも神ゲーじゃないじゃん?クソゲーをプレイしてるだけだよ??
>スパゲッティコードを誇らしげに語ってるの笑える
>スパゲッティコードって何?
>↑文字が汚くて書いた人しか読めないみたいな感じ
>【悲報】ユーキちゃん、文字が汚い
----
はじまりの合図がわからないのなら探すしかない。だからこそ、ボクはこの作戦を発足することにした。
「曖昧すぎて理解不能ですが、だからこそ気になります!このゲームにはどんな裏が隠されているのか、そこで!!フリップどん!」
「こちらフリップです♥」
「今日からボクたちは『フォッダー不思議探検隊』を発足します!なにかおかしいなー?と思ったことがあったり、この謎を解明してくれ!といったことがあったらドシドシ送ってください!ただし、コメントはすぐ流れてしまうので、ゲーム内の個宛メッセージやメール、SNS等でお願いしますね!」
それが視聴者さんたちの圧倒的人海戦術だ!
ボクたちは今、パンドラの匣の蓋を、今まさにこじ開けようとしているのかもしれない。知らないほうがいいのかもしれない。
でも、知ってしまったから。知らないことがあると知ってしまったなら、解明するしかないでしょ!
ユーキさんもとんでもない毒を仕込んでくれたものです。開発者の目線からあんなこと言われたら、興味が湧くに決まっているじゃないですか!
----
>フ ォ ッ ダ ー 不 思 議 探 検 隊
>いいね。未開のジャングルの奥地とか行ってきてくれ
>ゆうたさんの持ってる未鑑定装備全部解析してほしい
>↑自分でやれ
>世界の果てには何があるの??
>どうして月は丸いの??
>詠唱時間無しで雷の魔法を連発してくる奴なんなの??
----
「うるさーい!疑問はコメントに書くなって言ってるじゃないですか!」
「雷の魔法はただの〚ライトニングボルト〛ですね♥」
「わざわざわかりきってることを答えなくてもよろしい!……というわけで、次回からさっそく調査を開始していきますよー!」




