第27話 パインサラダ
「すいませんんんんんんん!!許してください!!なんでもしますから!!!!!」
王城へ戻ると、門の前で国王のヨッヘンが土下座していた。
「えぇ……」
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>恥も外聞もない清々しい土下座である
>プライドとかないんかこいつ
>そりゃ最強の上司をぶち殺すような奴相手に勝てるわけないからな
>ん?今、なんでもするって
>言わなければもしかしたらバレなかったかもしれないのに
>↑はい反乱
>草
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「今、なんでもするって言いましたよね♥」
「いや、言ってません」
「言ってましたよ」
「言ってたな」
「言ってたよ」
「言ってたねー」
「言ってた」
「こ、これをお渡しします!なのでどうかご勘弁を……」
ヨッヘンがそう言うと同時に【ストレージ】に新しいアイテムが追加される。
そのアイテムは……ボクが求めていた重要アイテム。大会への出場権である【願いの石】。それも2個も!
深紅の宝玉は手のひらほどの大きさで、内部に小さな星屑のような煌めきが渦を巻いていた。
「やったー!【願いの石】が2個!許しちゃいますよ。もうほんと」
「あれ、そっちは2個なの?あーしは1個だけなんだけど」
「メインクエストクリア分ということだろう。荒罹崇と明日香以外はすでに正規ルートでのクリア時に1個入手しているからな」
「確かに、私にも2個ありますわね♥ということは、これで終わりということですか。なんだか残念ですね♥」
なるほど、メインクエスト分か。つまり負けイベントの魔王討伐の報酬は【願いの石】1個、ということらしい。
「それはともかく、他にもなんか出してくださいよ!ほら、ジャンプして?持ってんでしょ?」
「ヒイイイィィィィ!!」
ぴょんぴょんと跳ねるヨッヘンからじゃらじゃらと何かが擦れる音がする。へっへっへ、金持ってんじゃねーですか。寄越しなさい。
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>親父狩りかな?
>これはひどい
>マジかよ最低だなきゅーてくちゃんねるのチャンネル登録外します
>なるほど、脅せば追加報酬もらえるんだな。俺も試してみよう
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「なるほど、ヨッヘンの野郎が俺を潰すために今回の任務を指定してたのか。これは折檻だな」
折檻で許しちゃう勇者さん。死ななかったんだから結果だけを見れば問題ないのかもしれないけどね。
「あれ、そういえばヨッヘンさんの正体って【天啓】とかいう奴で見破れなかったんですか?確か、魔王を検知することもできなかったみたいですが」
「ああ。恐らく今回遭遇した魔王は、魔王としての力を受け継いでいるだけで種族としては人間なんだ。ヨッヘンの野郎も魔族の力を受け継いだだけで人間だから反応はしないらしい。これは【天啓】の欠陥だな」
確か、登場人物一覧には魔王【ヒュマデサタン】とありましたね。人間で悪魔。結論を聞いてから改めて考えるととてつもなくわかりやすいネーミングセンスです。
「【天啓】に従って魔族を倒していただけで勇者だなんだと崇められてきたが、人間にも悪い奴はいるってことだな。——あるいは、魔族にもいい奴はいるかもしれない。俺に【権能】を授けた神さんには認められていないようだが」
「なんで魔族は神様に認められていないんだろうねー」
「まあ、これから俺はこの国に仇なす奴をやっつけるだけだ。——それはともかく、俺もお前たちには礼をしないといけないな」
唐突に新しい報酬を示唆してくるアリンドさん。なんだろう、非常に嬉しい展開だ。
「ほう、勇者様からの礼か。それは胸キュンモノだね。なんだい?」
そうおっさんが問いかけると、アリンドさんは大きく深呼吸し、こう叫んだ。
「決まってんだろ!?俺んちで【パインサラダ】パーティだ!!!」
「【パインサラダ】ってパイナップルの器にフルーツが入っている料理なんですね。なんでサラダって言うんでしょう」
「巷ではパイナップル入りの野菜サラダのことを言うようだが、俺んちではもっぱらこれだな。だって、そんな野菜サラダはまずいだろ」
わかる。
満を持して【パインサラダ】がテーブルに置かれた途端、甘酸っぱいトロピカルな香りが鼻腔をくすぐり、よだれがこみ上げる。
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>わかる
>なんでサラダに果物入れるの?
>栄養学を考慮した高度な経営戦略だ
>サプリでよくね?
>前時代の遺物だぞ。ありがたがれ
>(前時代に生まれなくて)ありがたや
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「美味しそー!【パインサラダ】最高!明日も食べに来ていいー?」
「図々しすぎない?2日に1度が限度っしょ」
「同レベルじゃないかい……?アリンドさんもまいっちんぐだよ」
「1日1回なら構わないぞ!」
「さすが勇者様♥太っ腹ですわ♥」
すごい。毎日来ても文句言われないなんて!いや、もしかして……この【パインサラダ】もクリア報酬……?
ボクは目の前に並ぶ【パインサラダ】を【ストレージ】にしまい込み、データを確認する。すると、この料理には恐るべき食事効果があることが判明する。
「死亡時に1回のみHP1で蘇生!?ぶっ壊れじゃないですか!」
ボクの声にびっくりしたみんなも騒ぎ出す。毎日絶対食べに来るだの有料で売り飛ばすだの。おっさん最低ですね。
「これがあったら最後の確定即死も切り抜けられていたな」
クリア後の報酬がクリアへのキーカードになっている。稀によくありますね。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、今日はレジーナががんばって作ったんだよー!ほめてほめて!」
「かわいいー!レジーナちゃんですね?ありがとうございます!なでなで」
レジーナ
アリンドの一人娘。勇者としての力を受け継いでいるがその力は目覚めていない。アリンドを喪った失意により覚醒し、魔族を滅ぼす悪鬼と化した。あらゆる命を虐殺し続ける彼女に救いの手はない。
「こわい」
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>化物だった
>レジーナちゃんのことを化物っていうのやめろ
>可愛い化物だからセーフ
>草
>レジーナたんは俺の嫁
>↑アリンドが今そっちに行ったぞ
>俺の世界のアリンドは死んでるから来ないんだよなあ
>俺もレジーナちゃんのために魔王倒してくる
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「んー!フルーツいけるね!レジたんあざーす!おっと……甘い禁断の果実を欲する者よ。私に続くが良い」
「おや♥ロールプレイ再開ですか?」
「ククク……この世は常在戦場……2500年前までが例外だったということだ。おっと、貴様らにとっては1時間ほど前のことだったな」
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>この人何かしてたっけ?
>そりゃあれだよ……あれ
>目立ってなかったな
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「純白の翼さんはちゃんと指令を使ってましたよ!超活躍してましたよ!ディスらないであげてください!」
発動演出も何もないから空気なだけなんです!仕方ないんです!
「まあ……何はともあれ、そろそろ配信も終了の時間が近づいて参りました」
これ以上の配信は野暮という奴だ。これからは共に戦った仲間たちとまったり飲み食い騒ぎ合うだけなのだから。
「みなさん、きゅーてくちゃんねるをご視聴いただきありがとうございました!みなさんもボクたちに続いて魔王を倒してくださいね!ばいばーい」
後日。
「アリンドさーん、【パインサラダ】くださー……なんじゃこりゃ!??」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、レジーナの【パインサラダ】そんなに食べたいのー?ほら、ちゃんとならんでならんで!」
アリンドさんの家にはレジーナちゃんから【パインサラダ】をもらうための行列ができていた。
列は王城前広場まで伸び、露店の客足すら圧迫している。
「レジーナちゃーん!俺と結婚してくれー!」
「【パインサラダ】おいしかったよー!」
「貴様ら!レジーナちゃんにはおさわり禁止だ!」
きっと、この人たちはそれぞれの方法で魔王を討伐し、運命を変えたのだろう。
ボクたちの世界だけではなく、さまざまなプレイヤーの世界でアリンドさんとレジーナちゃんが救われている。そんな光景にほっこりしたボクでありましたとさ。




