第25話 耐性知らずの妨害共有
物理防御力を0にする妨害……。ボクのような【メイジ】にとっては特に問題にならない効果だ。そもそも物理防御力が低いので減少値もわずかだし、どちらにせよまともに物理攻撃を受けたら即死することに変わりはない。
しかし【ナイト】にとっては致命傷となる。盾役特有の高水準なHPによって受け切ることもできるだろうけれど、それでも耐えられるのは一度が限度だろう。おまけに相手は最大HPにダメージを与えるスキルまで使用してくる。
ここからは妨害が治るまで盾役には頼れない。とはいえボクはもともと近接戦闘に特化した型。前衛がいなくてもある程度の立ち回りはできる。
盾役の代わりに前線を維持するべく、ボクは闇の霧に向けて勢いよく踏み込もうとした。だが、その前に中空から着地した明日香さんが動いた。
「ふふ♥墓穴を掘りましたね、魔王さん。人を呪わば穴二つ、です……【シェアリング】♥」
明日香さんが魔王に撫でるように触れると、【エアジャンプ】で大きく距離を取った。
効果演出もダメージ表示も何もない。ただ触れただけ。だが、それを見たボクは魔法による攻撃を捨て、杖を振るう。
「おらおらー!【メイジ】様の物理攻撃ですよっー!」
【アンプルアロー】でポーションを連射する。毒薬から爆薬まで、効果は考慮せずにひたすら撃ち込む。なぜなら今の魔王の物理防御は0だから。
同時に、後方からも岩の砲弾が連続して射出される。【カタパルト】ですね。物理と魔法の性質を合わせ持つ優秀な土属性魔法だ。純粋な物理攻撃には劣るが、今の魔王にとっては大きなダメージとなるだろう。
無数に撒き散らされた弾幕に紛れて、ゆうたさんは後衛に下がりつつ槍を投擲していく。前線はボクと明日香さんがいれば抑えられるはずだ。アリンドさんにもひとまず下がってもらった。
そして、ついに魔王のHPが——80%を切った。勝利への道筋が、ぼんやりながら見え始める。
「貴様ら、楽に死ねると思うなよ。【サモン・アンデッド】!」
魔王が杖を地面に叩きつけると、ボクたちの周囲に多数のスケルトンやゾンビが出現する。
「こいつらは我が不死軍団を指揮する最上級のアンデッド達。たった7人程度で勝て」
「はい。おつかれさまです。【フルバーニング】」
魔王の言葉が終わらぬ間に、ゾンビたちは1匹残らず塵と化す。ボクにとって数の優位は意味をなさない。持ってくるなら魔王級の戦力を持ってきなさい!
そして、魔王が悠長に遊んでいる間に後方からめりぃさんが前線に躍り出る。どうやら最大HPが回復したようだ。後方に退避していたことで先ほどの霧の影響も受けていない。
「【タウント】!さあかかってこいー!」
「【サミダレ】【トリプル】」
「ごめーん戻るねー」
完全に出落ちだった!慌てて反転するめりぃさんに、魔王は容赦なく追撃を放つ。
「逃さぬぞ!<滅びの槍をその身を受けよ>……」
「おっと♥忘れてはいませんわよね?——《SANチェック》♥」
「——ッ!」
明日香さんの悍ましい狂気が、魔王の詠唱をわずかに遅らせる。ボクはそれを合図に魔王の前に立ちふさがり、思いきり歯を食いしばる。
「【メイジ】如きが盾役気取りか?去ね!【ダークスピア】【トリプル】!」
放たれた3本の槍がボクを派手に貫通する。だが——耐えた!
「お返しですっ!【ブレイズスロアー】!」
お返しの炎弾を撃ち込みながら、ボクは内心でほっとする。【タブレット】で魔法防御力は上げていたけれど、おそらく純白の翼さんの【バリアコマンド】込みで耐えたのだろう。まったく、本当に縁の下の力持ちですよ。
「【アクアスプリンクラー】砲撃開始!」
後方から乱れ飛ぶ水弾を回避しながら【エアジャンプ】で離脱した。
それと同時にアリンドさんが前線に躍り出た。
現在、盾役は2枚とも運用不能だ。アリンドさんがいるので助かっていますが、【サミダレ】と【ラストミスト】が来るたびにスイッチしていたらきりがない。
おまけに魔王自身も段階を追うごとに強化されている様子だ。最初は単回攻撃だったスキルが、途中から【ダブル】によって攻撃回数を増やし、今では【トリプル】による3連撃を撃ち込んでくる始末。
かといって妨害の類いも効果がない。もしかしたら効くかなー?なんて、毒や沈黙、INTダウンなどの【アンプルアロー】をばらまいていたが、当然のようにどれも受け付けていない様子。やっぱりボスはハメ技に対策ついてるのが基本ですよねー。
——あれ?でもさっき、魔王さんの防御力が下がってませんでした?
「明日香さん!」
ボクは明日香さんを目がけて【アンプルアロー】を撃ち込む。毒、沈黙、INTダウン等々、ありったけの妨害を浴びせかける!
「ああん♥痛くしないでくだ……——ッ……」
そしてそれは魔王が新たなスキルを発動させる瞬間だった。
「<我は終焉を願う世界の救い手、その意思に>……——ッ!」
魔王が沈黙した——。
「【猪突侵】!」
その瞬間、ゆうたさんがスキルで一気に魔王との距離を詰める。そして、その手に構えた槍を魔王に突き刺した。そのゆうたさんが身にまとう鎧は、胸部に縁の赤い鏡が搭載されている。間違いなく未鑑定装備ではない。つまり効果を推測することができる。つまり……予備の鎧だ!
その効果を察したボクは、弾丸のごとき速度でゆうたさんに接近し、【ソウルフレア】を撃ち放つ。
本日2度目、今度は超至近距離からのレーザービーム!さっきからボク、味方しか殴ってなくない?
魔王はそんなボクたちを杖で殴打しようとするが、ゆうたさんはたやすく受け流し、さらなる追撃を与える。すでにゆうたさんの物理防御力は元に戻っている。そして沈黙状態である魔王に再び防御力を0にされる心配はない!
「今のうちに削り取れええ!!」
「オーケイ牧場。【車輪】【浸透】【エアーマシンガン】【発動回数:200】装填!発射!」
すさまじい数の風の弾丸がおっさんの手によって放たれ、嵐のように吹き荒ぶ。耳を裂くような風切り音が戦場を支配した。それを見たゆうたさんは、魔王を盾にするようにくるりと回り込み、さらなる追撃を加えた。そしてアリンドさんは剣を大上段に構え、静かに力を込めている。
「——はっ!沈黙が終わりましたわ!」
明日香さんが大きな声でこちらに叫ぶ。妨害を共有している明日香さんの沈黙が終わったということは、魔王もまた沈黙を終えたということ……!
「ハハハハハハ!!これで終わりだ!<哀れな人形共よ、闇に揺蕩い永久に眠れ>【エンドロール】!」
「——なんだ、ビビって損しました。【フラムブレッド】!」
「な、なぜだ!?なぜ【権能】が機能しない!?」
すでに対策済みのスキルを自信満々に発動させ、しかし当然のように不発となり狼狽する魔王。そんな隙を見逃すはずがない。
「勇者相手にここまでの隙を見せるとはな。【オールブレイカー】!」
アリンドさんが剣を勢いよく振り下ろすと、桁違いの衝撃が魔王を襲う。
勢いよく吹っ飛ばされる魔王を見て、残心の構えをとるアリンドさん。すごい!さすが腐っても勇者様!ぶっ壊れ!
一瞬にして40%以上のHPを削り取ったアリンドさん。やはり彼の存在こそが魔王討伐へのキーカード。
本来の魔王とのラストバトルには存在しないはずの例外的なキャラクター。そんな彼が不要であるわけがない!
しかし、魔王の残りHPが10%を切ってしまった。
ゆっくりと立ち上がった魔王がこうつぶやく。
「ク……ククク。まさか人間がこれ程までに成長していたとは。侮っていた。褒美にこの我の奥義にて屠ってやろう」
「来るぞ!HPが10%以下になると始まる即死魔法の詠唱だ!中断もできん!」
「この後に及んで長々と詠唱してどうするんですか?アリンドさんがもっかいさっきの技使えば勝ちでしょ」
「すまん、さっきの技は再詠唱時間10分だ」
「なんでさっき使っちゃったんですか!??」
「おっと、先に回復しておいてからでないと危ないな。<静かなる深淵に眠りし>……」
「全力で攻撃開始ー!!作戦通りに行きます!DPSチェックですよー!」
——こうなればやるしかない。ボクの持つ、最大最強の召喚魔法で!
【シェアリング】
[アクティブ][自身][キャラクター][発動:接触][支援][専用]
効果:次の[効果]を[選択]して[発動]する。
1.[味方][キャラクター]と[支援]を[共有]する。
2.[敵][キャラクター]と[妨害]を[共有]する。
テクニックその24 『耐性知らずの妨害共有』
強力なボスモンスターなどはこちらの妨害攻撃などを受け受けない事も多く、あるいは対人においても対策装備で戦術が瓦解してしまう事もあります。
しかし、【サイキック】のスキルである【シェアリング】はそんな耐性すらも貫通します。
【シェアリング】の効果は妨害を他のキャラクターと共有するだけ。
一度スキルが通ってしまえばあらゆる妨害を共有できます。
ちなみにこのスキルは掲示板ではなぜか産廃扱いされています。
情報操作って凄いですね。
【エアーマシンガン】
[アクティブ][数字:x回][投射][風属性][攻撃][魔法]
消費MP:12 詠唱時間:10s 再詠唱時間:15s
効果:[数字:x]を指定する。[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。
卍荒罹崇卍の一口メモ
ジョークみたいな魔法の名前に相応しい低威力上級魔法です。そして同時に理論上のコストパフォーマンスは無限とも謳われる伝説級の魔法でもあります。効果を見ればわかる通り、回数を指定したらその回数だけ弾を発射します。10回でも100でも消費MPは同じです。分間200発は撃てるので攻撃判定によるシナジーを最大限に活用しましょう。ただし、指定した回数分発射するまで動けなくなりますので調子に乗って2000回なんて指定をすると……。
【カタパルト】
[アクティブ][12回][投射][土属性][攻撃][物理][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:20s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。この[効果]は[詠唱後][12回]まで[任意]の[タイミング]で[発動][できる]。
卍荒罹崇卍の一口メモ
かなり使い勝手の良い魔法です!詠唱時間は長いですが、一度唱えてしまえば下級魔法のように乱発できます。詠唱中に散らしてみたり、近づいてくる敵を牽制したり、あらゆる場面で活用できる便利スキルですね。




