第192話 人智を超えた領域
「ユーキさ〜ん!これはさすがにバグだとあかりちゃんは思うな!修正してもいいと思わない?」
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フォッダー運営
o月x日 15時20分
いつもフォッダーをご愛好下さり誠にありがとうございます。運営のユーキと申します。
さて、ご報告いただいた件についてですが、それは仕様となっております。
今後ともフォッダーをよろしくお願いします。
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>自動送信メール定期
>このゲームは終わったんだ。ユニークスキルやAIどころか全員があらゆる攻撃を回避して決着がつかない魔境になったんだ
>いや、AIはアブソリュートと他のスキルの同時撃ちで戦えるからな
>卍さん死ね。なんでこんなクソゲー作ったんだ
>クソゲーをプレイしてるだけで叩かれる卍さんかわいそう
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「最初にやったときは最強じゃんって思ったんですよ!でもみんな使いますよね!すみませんでした!」
こうなったらこんなテクニックを開発した第一人者として、クソテクニックに対抗するテクニックを考案するしかない!
まずはいろんなスキルを撃ち込んで反応を見てみようか。
ボクは前線に出ている神様に避けるようにお願いしつつ【ブレイズスロアー】を放った。
この環境において投射系の魔法は効かないのが当たり前。念のため、神様は大きく横に避けたけれど、【女神】は無防備の状態で炎の弾をその身に受け……たように見えたが、やはり回避された。
「熱によるダメージくらいは通るかと思いましたが、まあそこも理論的には量子の動きで回避できますよね。いや、知らないけど」
ちなみに【アブソーブ】はキャラクターを対象に発動するスキルなので、検証するまでもなく当たると思う。【女神】相手には焼け石に水だけど、このスキルだけで並大抵のプレイヤーは倒せるから、今の環境なら無双できそうだ。
——あれ、このテクニックをぶち壊す意味あります?
いやいや、クソゲーだと思われてプレイヤーが引退したら嫌ですからね。なんとかしていきますよ!
そんな自問自答をしている間にも戦いは続いている。銃弾を撃ち込んでも、やはり当たらない。そう結論づけた」さんはスキルによる攻撃を始めた。発動したスキルは【引力】。次に発動する攻撃に相手を引き寄せる効果を付与することができる。
放たれた【引力】の弾丸は今度は透かされることなく【女神】に命中した。引き寄せの効果によって回避行動が取れなかったのだろう。
【引力】を持つ」さんを厄介だと感じたのか、【女神】は【猪突侵】で一瞬にして肉薄し、杖の殴打による【アブソリュート】を放った。だが、」さんはやはりログアウトによってその場から消え、直後に後方から拳を突き出した。普通の肉弾攻撃である以上、拳はあっけなく身体をすり抜ける——はずだった。ところが、即座に振り返った【女神】が顔色を変える。
「掴まれた……!」
「りょうし単位で回避できるなら逆に、りょうし単位で捕らえることもできるよね」
そのままむんずと拳を握りしめると、【女神】にダメージが入った!【テレポート】で離脱する【女神】だが、その位置を読んでいた神様が一瞬にして肉薄し、剣を振り下ろす。
「なるほど?当てようと思えば当てられなくもない、といったところか」
神様の一撃は【女神】に当たる。いや、正確には量子に掠ったといったところか。剣は間違いなく【女神】の身体をすり抜けたが、同時に僅かなダメージ判定だけは行われたように見えた。
「相手が量子単位で回避しようとするなら、量子単位で当てようと考えれば『トンネル効果』を無効化できるのね。それなら普通の戦いに戻っただけじゃない」
弾き飛ばされた【女神】が空中に飛翔し、【バニッシュ】を放つ。標的は神様。だが、彼女はまだ勘違いしている。
【バニッシュ】はあっけなく神様の身体をすり抜け、完全に無効化された。
「投射スキルはDEXに比例してコントロール精度が向上する、でしたね」
放った段階で相手に攻撃を命中させたいと考えても、相手の身体はその後に動きを変化させる。発動後にスキルの弾道をコントロールできるDEXがないと、相手に命中させることはできないのだろう。
「«テレポート10»!」
【バニッシュ】発動後の間隙を突いて、神様は一瞬にして【女神】の高度まで転移し、剣を振り下ろす。今度は間違いなくダメージ判定も行われずにすり抜けた。しかしダメージ判定が発生していないにもかかわらず、【女神】はその衝撃で勢いよく地面に叩きつけられた。
あえて【女神】自身は狙わず、周囲の気流を物質干渉力で吹き飛ばし、間接的に【女神】へ干渉したようですね。攻撃そのものは【モーションアシスト】で回避したけれど、不意の気流の変化まで最適解が回らなかった【女神】は、問答無用で吹き飛ばされた。
その隙に」さんが銃弾を撃ち込み、ボクは«疾風迅雷»で駆け寄って、仰向けに倒れた【女神】に【ソウルフレア】による白銀の炎を命中させた。
ボクは【パイロキネシス】の形状を収束させた経験がある。そのことからもわかるように、DEXに関しては多少多めに振っているのだ。【アイテムマスター】がDEXに適性のある職業であることも相まって、粒子単位の制御なら容易いことだ!
さらなる追撃を浴びせようとしたところで、【女神】は【ホームリターン】で崩壊した豆腐の上に帰還。そこから悠長に詠唱を始めるが、«疾風迅雷»の前では距離の概念は無意味。«階段革命»で高さの座標を合わせ、距離を詰めたところでゼロ距離«獄炎»【フラムブレット】!投射魔法であってもゼロ距離なら、相手の動きに応じて弾を命中させられる!
「なら、私のスキルも効くってことよね?【ファストスペル】バニッ——」
「【シャラップ】!」
ありがとう、あかりちゃんさん!スキルを中断させられた【女神】はわずかに動揺し、次の行動を躊躇する。その隙が命取りだ。
「では、この合間に【トラップハンター】で罠を設置してっと」
本来なら隙を作るのが難しいということで諦めていたプランだが、この状況なら成立する!
指定範囲を踏んだキャラクターに自動で発動する罠。それをボク達がいる地点に仕掛ける。つまり、設置した瞬間に罠の条件が満たされ、アイテムの効果が適用される。
さあ、〈お徳用アイテム〉としてふんだんに凝縮した爆薬ポーションの効果を喰らいなさい!
どっかーん!と爆発音が轟き、炎属性のダメージが【女神】とボクに等しく入った。よし、通った!
まあここまで配信を見てきたプレイヤーには自明だけど、ボクだけはそのダメージを受けずに逆に回復する。
一方で爆発エフェクトこそ発生したものの、【トラップハンター】は『アイテムの使用』ではなく『効果の適用』だ。罠を踏んだ【女神】は回避の余地もなく、そのダメージを100%の倍率で受けてしまった。
今回用意した爆薬はポーション200個を1つに凝縮した一級品。これによって【女神】のHPを5%は刈り取った。
と、同時に、タイミングを合わせ、さらなるスキルを発動させる。




