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卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!  作者: hikoyuki
5章 Communication 異文化交流と配信戦争!

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第191話 トンネル避け

 【女神】が生み出した絶対不可侵の防壁を打ち破る方法が天啓の如くボクの脳裏を駆け巡る。


 壁をすり抜ける方法。あるじゃないですか。『壁をすり抜ける』で検索しただけでトップに出てくるくらいメジャーな方法が!


 机上論であり、理論上は可能だが実現不能。けれど【モーションアシスト】ならやってくれる。小数点の『果て』に達するくらい小さな可能性であっても、最適解を手繰り寄せてくれる!


 ボクはとことこと【女神】の住まう豆腐に近づいていく。半透明の【女神】が【バニッシュ】やらなんやらいろいろ飛ばしてくるけれど、アリンドさんやめりぃさんの精霊がすべてを防いでくれる。


「何をするつもり?この無敵の防壁を打ち破る策なんてないわよ?」


 ボクに脅威を感じていないのだろう。ボクに対する攻撃が防がれることから、ターゲットを変えてアリンドさんを直接狙い撃ちする方向にシフトしたらしい。完全にスルーされつつ、豆腐の家の前までやってきた。


 ならばと少しだけ後方に下がり、助走をつけて勢い良く壁に体当たりをすると——ボクの身体が壁をするりとすり抜ける!


「は?」


 無事に家の中に侵入したボクは、器用にも直立状態で昏睡している【女神】様に杖を叩きつけ、【ソウルフレア】をぶち込んだ。相手は無防備。当然のように攻撃が命中し、HPを削っていく。おまけに通常攻撃で【アンプルアロー】を零距離から乱射し、妨害(デバフ)を重ねがけしていく。炎上ダメージと毒薬による毒の継続ダメージが【女神】を蝕んでいく……!



「……『トンネル効果』……ふざけんじゃないわよ!」



「——人間は小数点以下の確率で壁をすり抜けることができる。気が遠くなるほど低い確率だがゼロではない。しかし、ボクは【モーションアシスト】によって最適解を導き出しました。〈魂の言葉(ソウルワード)〉ではなく【モーションアシスト】で再現できるのならば……このテクニックはあらゆるプレイヤーが使用可能!さあ、攻めますよ!」


 慌ててアリンドさんの相手をやめ、ボクを狙いに来る【女神】の姿が〈ストリームアイ〉によって観測される。しかし種も仕掛けも明らかにした以上、既に彼女の敵はボクだけではない。


「すり抜け【ホーム】、発射ー!どーん!」


 めりぃさんが«疾風迅雷»を乗せて放った小型【ホーム】が盾から射出される。一直線に豆腐をめがけて突き進んでいく【ホーム】は例によって、豆腐を貫通し、中にいる【女神】だけに的確に衝突!豆腐の壁と小型【ホーム】の壁に挟みこみ強烈なダメージを与えた!


 そして同じく豆腐の中にいたボクも、当然のように家との衝突を粒子単位の動きで回避し、追加で【イグニッション】【ブレイズスロアー】をぶつけてから【ホームリターン】で帰還。アリンドさんが装備している盾の下へ戻る。


 そして豆腐の方を見やると、めりぃさんが発射した家がめり込むようにいびつな状態で豆腐にぶっ刺さっていて、シュールでちょっと面白い。


「後はあの家を釘打ちみたいに叩いていけば物質干渉力が通るねー」


 と言っても【女神】が無防備なまま豆腐に閉じこもっているはずがない。幽体離脱をやめて肉体を取り戻した【女神】は【テレポート】を使って離脱し、豆腐の外に飛び出した。


「よし!家からは出てきたね!これであかりちゃんも戦える!」



「……卍さん。あーし思うんだけどさ——『パンドラの箱』を開けちゃったね」


 ぽつりとつぶやくように言葉を漏らす純白の翼さん。確かにこのテクニックが生み出された後の【フォッダー】は魔境と化すだろう。


 【女神】だって【モーションアシスト】の恩恵は受けられるんだから、ここからは家をぶち当ててもすり抜けて回避されてしまうに違いない。——いや、それどころか……。


「【バニッシュ】!」


 外に出てきた【女神】が一撃消滅のスキル【バニッシュ】を放ってくる。狙いはボクだ。今までならめりぃさんが精霊を使って受け止めてくれただろう。しかし——今はあえて動かない。このゲームがどうなってしまったのか。理解してしまったから。


 行く手を遮るものはなく、ただただ真っ直ぐに飛来する【バニッシュ】をボクは正面から受け止めた。



 ——否、すり抜けた。



 そう、これが——これこそが【フォッダー】における新たな常識。



 ほ と ん ど の 攻 撃 は 粒 子 単 位 で 回 避 可 能。


 相手も同じように使ってくるから、もはやまともな手段でダメージを与えることは不可能。


 〈ホームタクティクス〉もへったくれもない新境地にボクたちは至った。


「……今回は休戦にしない?いくらなんでも決着つかないわよ?」


「いや?続けますよ?ですよね、みなさん」


「我は神だ。決着が付くまでに撤退するはずがなかろう」


「負けないよー!こうなりゃ徹夜で殴り合いだー!」


「『Tier1』の戦術が生まれた新環境で初のバトル!あかりちゃんとしては見逃せないね!」


「あーしは実戦より帰って研究するのが好きなんだけどね」


「」はあと3時間くらいしかログインできないけど、それまでがんばるね!」


 というわけでやってまいりました!絶対回避できる敵に頑張って攻撃を当てて勝とう選手権!


 こっちも基本的な攻撃は回避できるので時間切れによるリタイア以外では負けません!


「続けたいというのなら良いのだけど、全部のスキルを使える以上、私は当たるスキルを選択すればいいだけなのよね。〈森羅万象遍く世界に等しく広がる大地の加護よ、集いて染まり、呪詛を成せ〉【グラビティ】!」


 土属性魔法【グラビティ】が発動し、ボクたちにかかる重力が増加する。動けないほどじゃないけれど残念ながらこれは回避できない。なぜなら、これはエリアに対して発動するスキルだからだ。範囲内の存在に分け隔てなく適用されるこの手のスキルは、さすがに範囲外に逃げる以外の方法では回避のしようがない。


 あるいは【モーションアシスト】の根本を覆すスキルである【アブソリュート】なども回避はできないだろう。逆に言うとこういった隙間産業のスキル以外は一瞬にして死にスキルと化した。


 」さんがログアウトして範囲外に逃れて、銃を撃ち込むけれど、【女神】は回避動作すら見せずに突っ立っているだけで弾がすり抜けていく。


 ボクも«疾風迅雷»で重力を無視して後方に下がり、スキルの詠唱を始める。神様は、装備にスキルとして追加されているのだろう【猪突侵】で、一瞬にして【女神】との距離を詰め、勢い良く剣で斬りつける。すり抜ける。



 もう駄目だ。このゲーム終わった。


テクニックその93 『トンネル避け』

人間は無限の試行回数があればいつか壁抜けできる。

小数点の『果て』に相応しい『Tier 1』級の回避方法であり、【フォッダー】を終わらせるパンドラの箱。

このテクニックが幅を利かせている限り、まともに戦闘自体が成立しないし、このテクニックが陳腐化するような環境はそれはそれで終わってます。修正まだですか?

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― 新着の感想 ―
フォッダー終わったな
[良い点] フォッダー終わったな(定期)
[一言] フ ォ ッ ダ ー 終 わ っ た な むしろこここそが始まりなのかもしれない…
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