第190話 正真正銘のチート
ボク、あかりちゃんさん、めりぃさん、」さん、純白の翼さん、アリンドさん、神様。そこに久々に召喚したゴブ蔵を加えた、総勢8人のメンバーで【女神】の元へと向かう。【グレイブウッド】に突撃し、【女神】の部屋のポータルの前でぷち作戦会議を開く。
「今回は開幕から攻撃してくるとみていいでしょうね?」
「イベントフラグがリセットされてるとは思えないよねー」
初回は堂々と不意打ちできたのに2戦目以降ではできないのは少し残念ですが、まあ初手なんて、あのHP量からすれば誤差の範疇でしょう。
「今回は俺もレベルが上がったからな!【ナイト】と【ビショップ】のスキルも増えたし、前線は任せてくれていいぜ」
ドヤ顔でステータスの伸びを自慢するアリンドさんだけど、実際【バニッシュ】がある以上、【女神】戦では耐久型の前衛は動きにくいんですよね……。盾役はめりぃさんの精霊に任せることにして攻撃性能を重視してスキルを振ってもらったが、結局は家で殴る戦法なのでスキルを活かせる機会はあまりないだろう。
それでも念のため、INTやSTRも含めて付与をかけ、ステータスを底上げしていく。
「では我が先陣を切ろう。神について来い!」
「ちょ、さすがに無職が先陣切るのは……」
勢いよくポータルをくぐっていく神様を追って、ボクたちも中に入ると、
「ぐああああああああああぁぁぁああ!!!!」
神様ー!!!!
神様は開幕から炎の弾をぶつけられ、ボクたちの方にぶっ飛んでくる。それを横に飛んで避けると、神様はポータルの向こう側へとそのまま突っ込んでいった。
炎の弾をぶつけてきたのは当然【女神】だ。ただし、前回の戦いのときと比べて半透明に見えるけど……?
「【バニッシュ】を使わなかったのは私の慈悲よ。ありがたいわよね?」
半透明になっている【女神】以外にも変わっている点がある。【女神】のすぐ後ろには小さな豆腐建築の家が建っているのだ。他のプレイヤーのバトルと被ったのかと思ったけど、デス子さんが現在進行形で5日間バトルしていることを考えると【パーティ】ごとにインスタンスエリア形式でマップが分かれていることは間違いない。となると、あれはプレイヤーメイドの家ではない。
そして半透明になった不思議な状態の【女神】様と合わせて考えると……まさかっ!!
「他のエリアで戦っているプレイヤーの戦術をパクらせてもらったわ!!」
「ふざけんな!!!!」
あの家の中にはすやすやお休み中の【女神】様がいて、幽体離脱で外に出て一方的に殴りかかってくる、そういうことですか!?
「あの家を吹っ飛ばしたら中の遺体がぶっ飛んで壁にぶつかったりしないかなー?」
「あいにく、念のために鉄柱で固定してあるし、あんたらの«疾風迅雷»くらいじゃ吹っ飛ばないわよ?」
「ちょい待ち、一応これ、ゲームのクエストっしょ?無理ゲは困るんだけど?」
「知らないわ。ユーキはこのゲームの修正を放置してる。それなら私が修正されない仕様を使ってもいいってことよね?NPCの特権も存分に活用して無双させてもらうわよ!」
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>フォッダー終わったな
>デス子さんのクソみたいなハメ技をNPC側が使ってくる模様
>しかも全部のクラスのスキル使えるんでしょ?
>改造行為の100倍くらい身も蓋もないチートじゃねーか
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「……と、とりあえず作戦通りに家を撃ってみましょうか」
AWP002さんの作った盾を構えて、«疾風迅雷»を発動。圧倒的な速度で【女神】の家に接近し、盾の固定機能から小型の家を引きはがす。そしてコンマ数秒遅れて«疾風迅雷»を解除。ボクはその場にぴたりと停止する。
しかし、装備ではなく盾から外れた小型の家は速度を緩めることなく、とんでもないスピードで【女神】の豆腐に迫り、そのまま衝突する!多大な物質干渉力の反発を受け、ボクの家は勢いよく弾き返されたが、豆腐は不動。そのままの位置でぴたりと静止している。
これはアレですね。鉄柱で固定しているだのなんだの言ってたけど、問題はそこじゃない。この家は、アイテムじゃないんだ。
本来の家というのは特定の住所にそのままどしんと乗っかっていて、動かせないのが普通。そこを【ストレージ】にしまい込んだりしてアイテムとして扱うからこそ、移動できる家という性質を得ることができる。
しかしこの家は本当にただの家だ。アイテムであるために必要な収納棚も取り付けられていない。だからこそ、定められた住所に縛りつけられたように配置され続けている。
いわばシステムに保証された状態なので、これを破るのはどんなに物質干渉力を上げても不可能——。
「あかりちゃんも【サイキック】に職業チェンジして幽体で乗り込む?」
「普通に戦っても強い敵なのに、職業が欠けた状態で挑むのー?おまけに本体は無防備になるし、どうしようもないよー……」
「……なんとか穴を見つけるしかないな。とりあえず、俺が前線に出よう」
とりあえず、ボクたちが対抗策を思いつくまでのあいだだけ、アリンドさんが露払いをしてくれることにする。【ヒーロー】のスキルもなく、普通と同じ程度のステータスしか持たないアリンドさんだけど、時間稼ぎくらいならやってのけられるとのこと。くれぐれも【バニッシュ】を受けないように、できる限りめりぃさんの精霊と連携をとってもらうように念押ししておく。
「うわ、今やってる配信で【女神】戦やってるところはみんなこの状態みたい。あかりちゃんびっくりだよ〜」
「神のくせにどうしようもないクズだ。我を見習え」
「どする?実験する時間はめっちゃあるみたいだけど、撤退が安定っしょ」
「一応、ダメージを与える手段はあるんですよね」
「座標スキルね。そりゃ神の位置がわかりゃ通るけど……火力が足りないっしょ」
「我を呼んだか?」
「呼んでない」
純白の翼さんの言うとおり、キャラクター自体を指定するスキルや、特定の座標に発動するスキルは投射型や接触型のスキルに比べて威力が低い傾向にある。できるだけ早く倒そう!なんて話し合ってここまで来たのに、そんなちまちまとしたスキルを使っても本末転倒だ。
勝ち目がない気がしてきたので、とりあえず《運命変転》でポジティブシンキングに切り替える。なにかいいアイディア、思いつかないかな。
「」はねー、おもうんだけど、【モーションアシスト】でなんとかならないかな?家にいるひとにこうげきをあてる最適解ー!とか」
「それができるならそもそもクエストクリアまでの最適解!とかでもいけちゃいますからねー。理論上は難しいけど、やれば攻撃が当てられる方法さえあれば、それの最適解を導いて成功させられるんでしょうけど。どんな机上論でもいいのでなにかが……なにかがあれば……」
小数点の『果て』を求めようにもアイディアが浮かばない。幽体化以外の方法で壁をすり抜ける方法があれば——いや、待てよ?
テクニックその91 『ノンアイテムホーム』
アイテムではない家を使う。一見すると一周回って至極普通のテクニックでも無い要素に見えますが、家が動くのはアイテムだからです。よって、アイテムの要素がない家を立てれば、そのホームは不動となります。
普通に建てただけなのになぜかテクニック扱いされてしまうというひねくれた界隈です。
テクニックその92 『ホームストライク』
超高速で移動するスキルを使って早く動きながら家を発射、そして自分だけ急停止。これで相手に家をぶっ飛ばせます。




