第188話 真なるホームタクティクス2
【女神】の領域に突入したデス子さんとアリンドさん。他に【パーティ】はいない。事実上のソロによる挑戦だ。一体どうやって戦う気なんでしょう?
『よくぞ来てくださいました。悪しき【女神】を討滅するために力を——』
『よっこいしょっと。さて、アリンドさん、家に入ってくださいデス』
『ああ、わかった』
バレバレの演技をし始める【女神】を無視し、小さな家を建てて中に入り、鍵をかけるデス子さん。家はひどく狭く作られており、天井も低い。【テレポート】で中に入れるような座標がない以上、確かに扉を封鎖してしまえば外から干渉することはできないけれど……。中から外に干渉することもできないのでは?
『どうしました?家なんかに入って。お話を聞いていただきたいのですが……』
堂々と戦闘の準備を始めていることに気づかず演技を続ける【女神】。そんな様子を、デス子さんは〈ストリームアイ〉を使って家の中から観測していた。
家の壁にぺたっと張り付き、仮想のカメラを外に向けることによって壁をすり抜けて外を観測している。
『と、まあ。薄い壁であれば外を覗くことは可能デス』
『なるほどな。だが、外を見れるだけじゃ意味がないんじゃないか?』
『もちろん〈ストリームアイ〉だけじゃないデスよ?【サイキック】に職業チェンジしてっと……【クレヤボヤンス】!』
「うわあ……ずっこい……」
【クレヤボヤンス】は、明日香さんもよく利用している、特定地点を俯瞰視点で覗くスキルだ。あれを使って外を覗くことができるというのなら……。当たり前のように攻撃することもできる。
すちゃっと【レーザー付き眼鏡】を装着したデス子さんは、【女神】に上空からレーザー爆撃を始める。【空神の加護】が乗ったレーザーを喰らった【女神】様は突然の攻撃に困惑しているようだ。ダメージは少ないので焦りもないようだが、誰から攻撃されているのかも気づいていないようで、辺りをきょろきょろと見回している。
『貴方も【サイキック】にチェンジして同じことをやってくださいデス。私は精霊を呼びますノデ』
『……こんな戦い方、やっていいのか……?』
アリンドさんは動揺しながらも指示に従って【サイキック】にチェンジし、デス子さんから借りた眼鏡を装着して同じようにレーザーを放つ。ついでに精霊を召喚して3人掛かりの攻撃だ。
やがて【女神】は、自分が騙していると思っていた2人から攻撃を受けていることに気づいたようで、家の壁をどんどんと叩き出す。
『こら、出てきなさい!』
『くやしかったら攻撃してみたらどうデス?』
『はっ、こんなのハッキングして【ホーム】の所有者権限を得れば鍵も開けられ……ない!?』
『物理的な鍵デスよ。当然ながら『不壊』デス』
「なるほど、システムとしてのロックだけではなく、物理的に鍵をかけているんですね。このままなら一方的に押し込めそうですが……」
「威力が低いのが欠点だね。卍さん込みでも1日は殴り続けなきゃ削りきれないような敵をレーザーで削るのは無理があるよ」
せめて6人でレーザーを撃つならまだしも、これじゃあ時間の限界が訪れる。いくらなんでも3日も4日も耐久戦に持ち込むことはできないはず……。
『さて、では五徹しまスカ。協力してくださいネ?アリンドさん』
『えぇ……』
「えぇ……?」
「なんか、凄いね〜」
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>時間がない→できるだけ早く削る方法を考えよう←常人の発想
>時間がない→関係ない。五徹で削ろう←ガチ勢の発想
>酷すぎる……
>そこを時間の暴力で押し通すの!?
>もっと効率的に戦え定期
>草通り越して花
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確かに5日間ログインし続けられるなら勝てますよ?確かにボクたちもあの後で1日中殴ってたら勝てましたよ?でも普通やります?
そして【女神】は、こんな身も蓋もない戦い方になすすべもなく、いろんなスキルを空打ちしては試行錯誤を続けている。
『そうだ!私も【クレヤボヤンス】を使えば……くそっ、屋根しか見えない!ふざけんな!』
『第二、第三形態があるなら切ってもらってもいいデスよ?破られるのであれば早めに破ってもらいたいのデ』
『そうだ!射程圏外まで逃げれば……』
『おっと、では【アストラルプロジェクション】を使わせていただきましょうカ』
霊体になって一定距離を移動して行動することができる【アストラルプロジェクション】。確かにこれであれば無敵の安全地帯から一方的に外を攻撃することができる。普通の敵であればこれで封殺できるだろう。ただし、あらゆる職業のスキルを使用できる【女神】相手には別の話だ。むしろ見せてしまったことで戦術が破綻してしまうのでは……。
『霊体で追ってきた!?それなら私もそれを使えば……!』
やはり。状況を打開できるスキルを知った【女神】は当然同じように【アストラルプロジェクション】を発動させる。そして壁をすり抜けて家の中に侵入して……
『おっと。それはやらせませんヨ。【エゴトランス】——【シンクロナイズ】!』
【シンクロナイズ】
[アクティブ][キャラクター][支援]
消費MP:2 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[召喚]された[味方][キャラクター]に[自身]の[アクティブ][スキル][1つ]を[獲得]させる。[獲得]させた[スキル]を[自身]は[発動]できない。この[効果]は[1体]までしか[適用]されない。
【シンクロナイズ】はかつてのめりぃさんが精霊を盾役として利用するために活用していたスキルだ。今は精霊自体が職業に付くことができるために実質的な死にスキルと化しているのだけど……。
デス子さんは【女神】に向けてそれを発動させた。本来なら【シンクロナイズ】は自身と味方キャラクターを対象にして発動するスキルだ。
しかし【アサシン】のスキルである【エゴトランス】は、『自身』という文字を『キャラクター』に読み替えてスキルを行使できる。
つまり【女神】の持つ能動スキルを召喚したキャラクターに獲得させることができるのだ。
『き、貴様ら!【アストラルプロジェクション】を奪ったな!!』
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>エゴトランスで女神のスキルを味方の精霊に覚えさせたのか……
>スキル強奪とか糞すぎる……
>これなんならアストラルプロジェクションじゃなくても女神の固有スキルを奪えるよね?
>今世紀最悪の戦法
>バニッシュ奪ったら効くかな?
>フォッダー終わったな
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『さあ、同じことをしてきますカ?まあ、こちらは精霊を出された瞬間に破壊すればいいだけなので問題ないデスヨ?』
逆にデス子さん側の精霊は家という障壁に守られ、【アストラルプロジェクション】で侵入してくるまで破られることがない。
【シンクロナイズ】は支援スキルであり、本来ならば打ち消し系のスキルで効果を消すことができるはずだった。
しかしどうやら支援の対象は精霊であり、家に守られている精霊の付与を解除できなければ強奪効果も有効のままになってしまうらしい。5日間の徹夜を強いられるという最大の欠点さえ除けば、【女神】は完全に封殺されてしまった……。
テクニックその90 『真なるホームタクティクス』
絶対に『不壊』の家に引きこもり、一方的に攻撃する最強戦術です。基本的には【クレヤボヤンス】で視界起点のスキルを使って一方的に攻撃しますが、中から攻撃するということは外からも攻撃できるだろう、と思いますよね?
しかし【クレヤボヤンス】は見下ろし型のスキル。つまり天井が低ければ中を見ることは出来ない!さらにぎゅうぎゅう詰めのミニチュアハウスにすれば【テレポート】だろうとなんだろうと不発します。
幽体化して中まで入るという手もありますが、特定のスキル以外に破られない時点で十分な防壁と言えるでしょう。




