第182話 怪しい
職業チェンジを最初に授けたのは【帝神】。だけど今は【女神】が管轄している。とりあえず、ここまでの情報はわかった。この内容は直接的証拠ではないにしろ、魔王の語った『女神が旧神から立場を簒奪した』という説明の裏付けにはなる感じかな。
ただしメタ的なストーリーの読みからすれば、魔王が正しいことを言っているというのはわかりきった話だ。考えるべきなのは、この情報を踏まえた上で何をすべきかということだ。
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>次は神殿か祠か、ってところだな
>配信を見ながらプレイしてたら追いついたわwww今からあかりちゃんより先行してネタバレしてやるから覚悟しろよ
>というかもうみんなこのクエストクリアしようと活動してるし、下手すりゃほっといても攻略チャート完成するな
>世は大攻略時代!
>もう卍さんたちの進行超えちまったわw今からダンジョン潜るところ
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「ちょちょちょっと待って!?もうボクたちより進んでる人がいるらしいですよ!?」
「卍さん、ここは【フォッダー】だよ?嘘を見抜けない人はプレイできないゲームだよ?」
焦るボクとは裏腹に、あかりちゃんさんはまったりのんびり本を探している。読んでいる本をちらりと見ると、なんと漫画だった。『ぜうすくん』というタイトルだけど……。
どかーん、ぎゅわーんとオノマトペも含めて朗読しているあかりちゃんさんの背後から漫画を覗き込んでみる。
どうやらぜうすくんと思しき人物が、『セレネ』という不思議な土地で他の神様と日常を送る4コマ漫画らしい。
あかりちゃんさんが読み上げていた『どかーん』という音はぜうすくんが爆発した音で、ぷろめくんという神にツッコミを入れられたときに生ずる現象なのだとか。当時の神様の扱いがよくわかる面白い作品ですね。
「さて、4コマ読んでる場合じゃないです。そろそろ行きますよ、あかりちゃんさん!今流れてきたコメントによると、アリンドさんと会話すればダンジョンを提示されるそうです!」
「そ〜なの?わかったよ!あかりちゃん、動きます!アリンドさんに会いに行こう!」
「アリンドさーん、なにかわかりましたー?」
「ほとんどわからないが……まあ、変化はあったな。さっき【女神の加護】が剥奪された。当然職業も没収だ」
「……マジですか?」
どうやら今回の取り組みは【女神】にとって都合が悪いことのようだ。これまでアリンドさんを支えていた力が、回収されてしまったらしい。
「それにしては冷静ですね。大丈夫なんですか?」
「問題はあるが——普通の職業には就けるようだしな。サブで【ビショップ】を育てていたから、それに加えて【ナイト】を緊急育成中だ。で、だ。【女神】についてはわからなかったが、他の情報を見つけたんだ」
そして地図を取り出してボクたちに見せてくれる。まず、最初に地図の中央をとんと指で叩いて、
「まず、ここが現在地。【ディスポサル城】だな。北上すれば【アンネサリーの街】、さらに北上すると【ガベジー荒野】。最後に【世界の果て】。ここには【帝神】と【空神】の祠があるな」
「そうそう、【祠】のおじいさんに何か聞けないか気になってたところだけど……?」
「ああ、俺が行って聞いてきた。これはそこからの情報だな」
さも当然のように語るアリンドさん。やはりNPC的にもあのエリアはもはや周知なんですね。下手すると【女神】よりも認知度が高いのでは……。
「情報の対価は取られたがな……。さて、本題なんだが……どうやらかつての『神』が封印されている土地があるらしい」
次に指さすのは鬱蒼と木々の茂る森、【ユズレス大森林】。
「ここだ。この【ユズレス大森林】に存在する異世界、【グレイブウッド】に『神』はいるらしい」
「そうなんですか?でも、ボクがそこで狩りしてたときは特にめぼしい存在は見当たりませんでしたけど」
「この国でも【グレイブウッド】は広く認知されているエリアだ。当然俺も調査に行ったことはあるが、確かにそういった存在は見つけられなかった。でも、間違いなくここにいるらしい。契約の繋がりで場所を感じ取ったのだとか」
つまり、普通には見つからないところにいるってことですか。腕が鳴りますね。
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>グレイブウッドに入る洞穴あるじゃん?そこ抜けた後振り返ると洞穴じゃなくてワープゲートみたいになってるからそのゲートを回り込んで入ると行ける。ちなみにアリンド同行済みじゃないと無効
>入ると帝神が情報教えてくれるけど、要約すると女神を倒せってさ
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「待って待って待って?嘘ですよね?ボクたちが見つけて1番先行してたんじゃなかったんですか?」
「あー、この人たち、あかりちゃんのお友達だね。攻略サイトの情報まとめるのを手伝ってくれてるんだよ」
「あかりちゃんさんの方にはそんな視聴者さんがいるんですか??」
うちの視聴者なんて『チャンネル登録外します』しか言わないよ?
とにかくあかりちゃんさんによると嘘をつくような人たちじゃないらしいので、【グレイブウッド】に向かう。さすがに【ギルドハウス】には【グレイブウッド】行きのポータルは開通していないので、久々に現地のプレイヤーに頼んで移動してもらう。ゲートを回り込んで逆側から入ってみた。
そこは【グレイブウッド】とは似ているようで少し違う、不思議な空間だった。一見すると周囲の景色は似通っているのだけど、ところどころの空間が捻れたように歪んでいて、薄暗い。
そんなそこはかとない不気味さを漂わせる空間で、1人の女性が佇んでいた。
「ついに来てくれましたか——勇者、そしてその仲間たち」
女性は透き通るような美しい声でボクたちの来訪を歓迎してくれる。そして、声が響くと同時に周囲の空間に微かな光が灯り、蛍のような小さな光がふわふわと辺りを照らし出す。不気味な空間は一瞬にして幻想的で素敵な場所に変わっていった。
「ああ、念のために確認しておきたいんだが……『神』でいいんだよな?」
「はい。私は【帝神】。かつてこの大地に祝福を与えていた神々を束ねていた存在です」
……ん?
「なるほど、あんたが【帝神】か。聞きたいことがある。魔族や【女神】についてだ」
「……魔族、ですか……。皮肉なものですね。かつての世を平定していた存在が、今はそのような扱われ方をしているのは」
「かつての世を平定……?」
「魔族という現状の姿は【女神】によって因果を不当に歪められた結果——つまり、彼らはかつて、人類としてこの世界を生きていたのですよ」




