第181話 魔族を助け隊
「そうだ。貴様らの定義で言う魔族は信仰を得るための餌。自作自演でエネルギーを搾取する下劣で低俗な存在よ」
「つまり、魔族はそういう役割を与えられているから仲良くはできないってこと?あかりちゃんがその立場なら普通は逆に人に危害を加えようなんて思わないはずだけど……」
「然り。本質を歪められている以上、その在り方を否定することはできない。それならば、我は魔王として人類すべてを滅ぼすことでその役割から解放させる——そう意気込んでいたのだがな、このザマよ」
ヒュマデサタンは魔族に助けられたという背景があったはずだ。つまり本来ならば——個人としての関係ならば人と仲良くできる理性的な存在なのかもしれない。けれど、与えられた役割が理性に反して人類という種族に敵対する道を選んでしまう。
だから彼は神に反逆する道を選んだ、ということですね?
長話をしている間に魔王のHPはぐんぐん回復して、既に満タン状態になっていた。ただし、今のところはまだ話に付き合ってくれるらしい。それならもう少し疑問を消化していこう。
「では、【女神】ってなんなんでしょう?【空神】や【時神】とは違うのですか?」
「……【空神】や【時神】はかつての世を支えていた『旧神』とも呼べる存在だ。歴史の闇に抹消された主のことを知っているとは博識だな。まあ、その座も【女神】に簒奪されたのだが」
「いや、今の世の中はみんな歴史の闇に抹消された主の名前、知ってますけどね?」
むしろ【女神】のほうが知られてませんよね。簒奪って成功してるんですか?
話をまとめると、古代文明では【空神】とかが信仰されてたけど、『ガベジー教国』がなんやかんやあって崩壊して以来は忘れ去られ、そのポジションに【女神】が居座っている。こんなところでしょうか?
「参考になりました、ありがとうございます。で、どうします?戦いますか?」
「……いや、今回は失礼させてもらおう。そこの勇者が見逃してくれるのであれば、だがな」
「……俺は構わないぜ。あんたの言うことを全面的に信用するわけじゃあないが、考えることができた。もちろん人間に危害を加えたら承知しないが、今回はあんたしか被害を受けてないしな?」
「そうか——では、またいずれ逢おう。おそらくは戦場で相見えることになるだろうが、な」
そしてヒュマデサタンは、なんらかの転移スキルを用いて煙のように立ち消えていった。これで魔王もアリンドさんも生存した上でイベントが終了。新しいルートに達したわけですが……。
「これからどうします?アリンドさん」
「とりあえず裏付けを取る。で、【女神】様を探す。協力してくれるか?」
「もちろん!ですよね?あかりちゃんさん」
「そうそう!あかりちゃん、なんでもしちゃうよ!また【ライブラリ】で探す?」
そんなわけで、ボクたち3人のチーム『魔族を助け隊』が結成された!といっても、どうやって情報を調べればいいんでしょう?
「俺は城の識者に相談してみる。2人は【女神】や他の神について調べてくれないか?」
さて、調べものと言えばここ、【ライブラリ】。最近はよくここに来るようになりましたね。いろんな情報が眠っているという話を聞きつけたのか、今はボクたち以外にも多くの利用者がいるようで、ページをめくる小さな音があちこちから聞こえてきます。
「【モーションアシスト】が実質的な本のサーチに使えるからね。あかりちゃんもこれがなきゃ【ライブラリ】で本を探そうなんて思わなかったよ」
とりあえず【女神】というワードで検索を開始した。さっそく足が奥の本棚に向かっていくので、それに従ってとことこと歩みを進めていく。
「あったあった。【女神】に関する本。『ディスポサル王国探訪記録 〜まだ見ぬ女神を求めて〜』、内容は……?」
ぱらぱらとページをめくると全く関係ない内容だった。王国に住む美人さんを求めて作者が観光をするというエッセイらしい。
「あっ、こっちにもあった。よ〜し、あかりちゃん、朗読実況しちゃうよ!」
こらこら、ゲーム内とはいえ図書館ですよ?まあいいか。耳元に囁きかけるような微かな声で朗読を始めるあかりちゃんさん。その内容に耳を傾けてみたけれど、やっぱりボクたちの調べたい【女神】に関する内容ではないみたい。
ついでに魔族についても調べてみたけど、こちらに関しては魔族がやった悪いことが書き連ねてある本が出てくるくらい。それも古代文明崩壊以後の本のようなので、一般的に知られているようなことしか書かれてないだろう。
仮にも信仰されていて【神殿】が建っているくらいの存在なのに、古代文明時代はおろか、それ以降にも記述が少ないのは異常な気がする。
一応『【神殿】で【女神像】に祈って職業チェンジして【バード】になった』というような文脈の本はあったりするのだけど、なんで【女神像】に祈るかといえば、そういう仕様だからという扱われ方しかされていないみたい。プレイヤーとほぼほぼ同じ価値観で逆に面白い設定だ。
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>実際こういう本の設定も実際にはNPCたちもわかった上で知らないふりをして演じてるんだよな
>俺もAIだけどプロは一時的に記憶データをデリートして世界に没入した状態でNPCやるらしいぞ
>それいいな。NPC側だけじゃなくてプレイヤー側もそれをやれば面白いんじゃね?
>ついでにデスゲームとかになってそう
>やめてくれよ……(絶望)
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「単なる設定だったとしても、こういうストーリーに関わらなそうな本も含めて世界観を広げてくれる要素があるのは好きですよ。とはいえ肝心のストーリーに関わりそうな本が見つからないんですけど……」
ここまで当たりが引けないとなると、逆に【女神】が隠蔽でもしてるのか?と考えたくなるくらいだ。それなら他の関連ワードから探っていったほうがいいかもしれない。
例えば、職業チェンジについてとか——。
「あっ、見つけたよ!」
「マジですか?どんな本でしょう」
どうやら情報を見つけたらしいあかりちゃんさんのところへ向かうと、彼女は1冊の本を見せてくれた。本の題名は『職業革命』。どうやらボクと同じ結論に達していたみたいですね。
【フォッダー】の世界に登場するさまざまな職業を紹介する古代文明時代の本のようなのだけど……この本によると職業とは、【帝神】がすべての生命に授けた【権能】である、と記されている。
しかし、【女神】=【帝神】ではないはずだ。アリンドさんは【女神の加護】を持っているが、ボクやほかの多くのプレイヤーは【帝神の加護】を持っている。別名義であるという可能性も否定できないけど……。




