第177話 テオス・エネルゲイア
「さてあかりちゃんさん、今回の企画を立ち上げたきっかけを教えてもらってもいいですか?」
「そうそう、この前卍さんの配信を見てたらさ、【ライブラリ】で本を探してたでしょ?あかりちゃんも真似してみたいな〜って思っていろんな本を読んでたらね、見つけちゃったんだよ!」
そう言ってどーん!と【ストレージ】から取り出したのは1冊の本。いかにも長い年月が経過していますよーと言わんばかりに表紙は古ぼけているけれど、損傷などはなく、苦労することなく読むことができそうだ。
「これは神様についての情報が記された聖書……みたいなものかな?ほら、【『アイテール』】や【帝神】についても載ってるよ」
「ほんとだ!何々…伝説の英雄である『空駆の飛脚』に【権能】を授けることによって魔王の討伐を後押しした偉大なる神。各地に【神殿】の建設を命じ、信仰を促した……。【帝神】はそれらの神を統べる男神で、人々に叡智と祝福を授けた……なるほど?」
各地に【神殿】の建設を命じた、ですか。確かに各街には【神殿】という建物があって、【女神像】を持ち運ぶまではそこにわざわざ訪れて職業チェンジをしていましたね。けれど……。
「そもそも【神殿】って神様を信仰しているような場所だったんでしたっけ?【黄金の才】以外では【『アイテール』】の名前を聞いたことはないですけど……」
「さあ?あかりちゃんも聞いたことないかな〜。多分あの【女神】様を祀っているんだとは思うけど。そうだ。ここも見て!」
そう言ってあかりちゃんさんの指差す記述を読んでみると、そこには『ガベジー教国』という文字が。
もちろん『ガベジー教国』という言葉も聞いたことがない。同名の別の場所にあった国家、という可能性もあるけれど、少なくともこの本はそういう名前の国があった時代に作られたものなんだ。
そして『勇者』と『魔王』というファンタジーな要素こそあるものの、それと同時に勇者を称える英雄譚の中には近代的な兵器や機械の単語が散見されている。
ミサイルなんて物騒なものがこの世界にあったなんて、ちょっとびっくりだ。そして、そのミサイルが全く通用しない絶対的な力を持つ魔王という存在。
そんな魔王を倒す英雄と【権能】を与えた神。そんな存在が本当にいたのだとしたら、未来永劫に渡って語り継がれることだろう。
けれどそんな輝かしい歴史は当の昔。教国は既に滅び去っている。一部の建造物を残して、一面が荒野になってしまうくらいの何かが起こって。
「定番で言うと核戦争、とか思いつきますけど……逆に【ガベジー荒野】以外にはこういった荒れ果てた地もないんですよね」
----
>他に歴史書とかないの?
>まさかのここに来てユニークスキルの裏設定が判明するとは……。
>でもあの魔王ミサイル耐えそうなほど強かったか?
>ミサイルがポンコツなんだよきっと
----
「そうですね。歴史書……他になにかないか探してみましょうか」
それから【モーションアシスト】を駆使していくつかの関連書物を発見したが、それらはすべて『ガベジー教国』が滅びる前に編纂された本だった。『ガベジー教国』についての情報は載っているけれど、なにがきっかけで滅亡してしまったのか、その肝心な情報はどこにもない。
もちろん古代文明についての情報自体は充実しているので、読んでいくと面白い設定がいくつも明らかになっていく。
「ふふっ、やっぱり【カジノ】は当時から誰も当たらなかったらしいですね」
「【植物園】についての情報も載っているみたいだよ?あのエリアは国民に配給する食料を生産する施設だったんだって」
今【ガベジー荒野】に残っている施設についての記載はだいたい出そろっている。そして、一部の施設だけが今も現存し続けている理由もわかった。
「『【カジノ】で遊べる様々なゲームや、その景品は【テオス・エネルゲイア】が原動力として用いられており……』つまり神造物ってことですかね。それならもっと【神殿】とかにそのエネルギーを使うべきだったと思うんですけど?」
【テオス・エネルゲイア】——当時の国で使われていた魔力や電力に相当するようなパワーだったらしい。簡単に言うと信仰のエネルギーを受け取った神々と報酬として配分する分け前のようなもので、この力をもとに作られた施設だけがこの時代まで残っている……のだと推測できる。
建前として人々は神を信仰しているけれど、実態としてはWin Winの利害関係だったのかな?神は信仰されると力を増す。だから信仰されるために人々を助けていた、といったところか。
「ここで得られる情報はこんな感じかな。卍さんとしてはどうする?気にならない?」
「気になりますね!こんなに世界観について語られているのであれば、裏要素が隠されていてもおかしくないですよ!【テオス・エネルゲイア】というパワーについても興味深いです」
【カジノ】や【植物園】、【訓練場】といったオーバーテクノロジーな施設の源泉となる力。これを装備やアイテムの素材にしたら強いと思いませんか?
「ついこの間、【祠】を作りましたよね、同じような感じで【祠】を設置すれば信仰エネルギーを捉えたりとか……!?よし、みなさん!信仰をお願いします!お供え物も待ってますよ!チャンネル登録している方はどうぞ捧げていってください!」
----
>クレクレやめろ定期
>お供え物したくないから卍さんのチャンネル登録外します
>お供え物してやるから供える為のアイテムよこせ
----
「あかりちゃんもお供え物欲しいな〜!みんな、よろしくね〜!」
----
>お供え物用の宝石買い占めてくるわ
>うはwwwwwwwwww全財産捧げたったwwwwwwwwww
>いつもの流れで草
>親の顔より見た光景
>もっと親の顔を見ろ
----
はいはい、いつものいつもの。
さて、話を戻して古代文明の話。新たな情報を得ることはできたけれど、結局かつての国が滅んでしまった理由はまったくわからない。そういう裏ボスがいたらおもしろいのにね。
「う〜ん、どうしよっか。あかりちゃん、早くも企画倒れ……!?」
早くも完全に詰んでしまった今回の企画。【ライブラリ】で得られる情報だけでは色々と足りない。古代文明について詳しい人とかがいればいいんだけどね。【祠】のおじいさん達ははぐらかしてきそうだな……。と、その時、1つのアイディアを思いついた。
「そうだ、こういう時はあの人に聞いてみましょう!」




