第174話 エンチャント厳選
装備1つに未鑑定装備1つ分の付与を施すことができるすごいアイテム、【四つ葉のクローバー】。おまけにすでに能力が付いている場合にも1回までならさらに追加することができるのだとか。
そして、その廉価版アイテムの【三つ葉のクローバー】は能力がついていない場合にしか使えないし能力も鑑定済み装備1つ分。だから普通にアイテムを作るのと変わらないこともあって価値が薄いと言われているんだけど……。
「今回作った【うさみみ帽子】みたいな装備は単純に整形加工しただけで効果が付与されてないから、三つ葉→四葉の順で付与すればお得に効果が使えるね♥」
さっそく露店で【三つ葉のクローバー】を大量購入し、再び工房へ。これからすることは簡単。いくつもうさ耳を作ってそれぞれにクローバーを投与していくだけ。
なんでさっき作ったうさ耳以外にもたくさん生産するのかといえば、簡単な話だ。三つ葉はいくらでも買えるけれど、四つ葉は貴重品。だから三つ葉で付与される効果をじっくり厳選してから、いちばんの当たりうさみみに四つ葉を投与したほうがいいんだよね。
「さて、今から厳選してくよ。みんな応援してね♥」
「では私はうさみみに片っ端からデコレーションしていきます。いちごのアクセサリーや刺繍などを付けますね」
「おっ、AWP-002。どーゆー風の吹き回し?ありがたいけど」
「いえ、重くなって装備の性能が下がらないかな、と」
「嫌がらせだったかー♥」
一見すると、うさぎは小さいからちょっとの重たいものでも負担になりそうに見えるけれど、実際にはプレイヤーとスペックは同じだ。アクセサリーを付けたくらいで動けなくなる人間がいないように、問題はないんだけどね?そんなことは彼もわかってると思うし、新手のツンデレって奴なのかな。
そんな雑談をしながらもさっそくひとつ【うさみみ帽子】を作成した。最初に作ったうさみみをデコレートしてもらったので、そちらに三つ葉をぺたっと貼り付けてみる。
そして付与された効果は【毒無効】。ワンポイントのアクセサリーとしてはありかもしれないけど、ちょっと微妙かな?
3つ目のうさみみを完成させて、再びデコレートしてもらったうさみみを強化。付いた効果は【ディレイワード】。【ビショップ】のスキルかな。相手が次に使うスキルの再詠唱時間を大幅に増加させるスキルだね。実質的にスキルを封印できるのは強いけれど、最初の一発を妨害できないのはちょっと不便かも。
続いて引いたのは【アンコール】という【バード】のスキル。演奏系スキルにとっては特に重要な効果で詠唱時間を増やすことができるという効果がある。一見するとあまりメリットがないように見えるけれど、【バード】のスキルは詠唱中にも効果が発揮されるからそっちの能力を主軸にしたい時には便利なんだって。
「なんかスキル紹介ガチャみたいになってきたね♥さて、続いての新スキルは——【フェイク】!」
【フェイク】
[アクティブ][近接][攻撃][物理][妨害:確定]
詠唱時間:0s 再詠唱時間:120s
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。この[スキル]による[ダメージ]は[キャラクター]の[HP表示]に[反映]されない。
「このスキルは【アサシン】だね。攻撃をしているのにダメージを与えたという判定を表示させない、とんでもないスキルだよ」
「うーん、さすが【アサシン】。玄人向けと言うかなんというか、不思議なスキルだねー」
めりぃさんの言いたいことはわかる。ここまで【アサシン】を主軸に戦ってきたプレイヤーは一度しか見たことがない。
「でも、弱いわけじゃないんだよ?扱いが難しいみたいだけどね」
【アサシン】のスキルにはわたしも興味がある。実際に戦ってみないと説明しづらいし、試しに職業を獲得してみてもいいかもしれないね。
そうして何度かガチャを引いて、候補として残ったのが【オートユーザー】付きのうさみみ。これに四つ葉を貼り付ける事に決めた。
三つ葉の効果については粘って厳選できたけれど、四つ葉で追加される効果に関しては運に任せるしかない。良さそうな効果来てねー?お願いだよ?
「それっ!」
勢い良くぺたっと貼り付けると、うさ耳がぴかっと光を放ち、疑問符のマークの付いた帽子……未鑑定装備に変化した。どきどきしながらその足で【鑑定屋】さんへ向かい、鑑定をしてもらおうと思ったんだけど……。
「未鑑定だとうさみみじゃなくなるんだねー。これじゃあせっかくのアイテムを掴む機構が使えないよー」
【ギルドハウス】を出て【鑑定屋】まで向かうその道中、めりぃちゃんが帽子のデザインに言及する。
「うさみみに合うように作ったはずなのにね。まあ鑑定すれば元に戻るだろうし」
とりあえず完成した帽子を頭にすっぽりと被ってみる。見た目で特徴がわからないようになっているのが未鑑定装備の特徴なので、ファッションとしてはちょっぴり微妙かな。
そこにAWP-002が【ストレージ】から取り出した剣を帽子に近づけてみると——帽子が剣をがしっと掴んだ。
「やはりですね。この帽子、観測データから違和感があるとは思ってましたが、機能自体は問題なく付随しているようです」
「えぇ……」
【ストリームアイ】でわたしの姿を映し出してみると、確かに帽子の上で剣がふよふよと浮いている。個性的でちょっと面白いかも。
でもさすがにAWP-002にデコってもらった装備を未鑑定で使うわけにはいかない。普通に鑑定してもらうことに。
さて、どきどきの装備鑑定。その結果は……?
「めりぃちゃん、わたしの代わりに見て!どきどきしてて見れない!」
「えー!?わかったよー!どれどれ……?こ、このスキルは!!」
「……悪くないスキル、と言った所でしょうか」
【過剰魔力】
[パッシブ][スイッチ]
効果:[MP][最大時]に[MP]を[消費]する[魔法]を[発動]した[時]、[出力]が[増加]する。
【超越の奇跡】
[パッシブ][スイッチ]
効果:[最大HP]を超えて[HP]を[回復]できる。[過剰HP]は[時間]とともに[減少]する。
「【過剰魔力】。良いスキルだね。【サイキック】はMPを消費しないけれど、【ジョーカー】から引っ張ってくるスキルには関係ないし」
実質的に単発型とはいえ、属性などの条件無しにスキルの出力が上がるのは間違いなく優秀だ。MPを回復すれば再び恩恵を受けることもできるし、汎用性の高いスキルだと思う。
後者の【ビショップ】スキルも便利だね。スキルとしては回復手段を持ってないわたしだけど、別にアイテムを使ってもいいみたいだし、『ボク』なら回復スキルも持ってる。
「【超越の奇跡】かー!一時的にHPを付与できるって感じなんだよねー?【ライフバッファー】みたいな最大HPを増やすスキルとは少し趣が違うけど」
「過剰回復が無駄にならないのは利点ですね。プレイヤーネーム『卍荒罹崇卍』であれば詠唱時間0sの回復スキルが使えるわけですし、強力な攻撃を受ける直前に回復してしまえば追加HPで受け切ることができるでしょうね」
意外と悪くない装備ができたんじゃないかな?あとは〈メッキエンチャント〉で軽く加工して愛用しちゃおうか♥




