第173話 うさみみ帽子
「で、他にもからくりがあるんだよね?アタッチメント式にするだけなら他の方法でも十分だし」
とは言っても、持ち手の機構が可動式になっているということはわかる。つまり、手軽につけ外しできるところにこそ使い道があるんだと思うんだけど……。確かに便利さは上がるけど、それを活かしたテクニック……。
一応、他にも変わった要素がないかじっくりと観察してみたけれど、持ち手の部分以外には特に変わった機構は内蔵されていないみたい。となると、隠された機能の正体じゃなくて、このアイテムの使い道の問題になるね。
「あ、ちなみに私は答えは教えません。わからないならわからないでモヤモヤしたまま過ごしてください」
「えー、酷くない?わたしは人間様だよ?」
「私も人間ですよ、プレイヤーネーム『屠神 荒罹崇』」
都合の良いときだけ人権を主張してくるAIに半ば呆れながら、わたしは再びじーっくりと観察してみるけれど。
「だめだね、さっぱりわからないや。視聴者さんはわたしと一緒にもやもやしたまま過ごしてね♥」
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>最低すぎる……
>モヤモヤを解消するために使い道を考えよう
>盾以外にもなんでも挟めて便利とかかも
>盾以外を挟んで何に使うの?
>プレイヤーを挟んで投げ飛ばせる
>強い
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色々と視聴者さんがアイディアを挙げてくれたので、AWP-002に伝えてみるけど残念ながら不正解。でも、おまけとしてもう同じアイテムを作ってもらったから、後で使って遊びながら調べてみようかな。
さてさてっ、めりぃちゃんとAWP-002がアイテムを作ったので次はわたしの番。
と言っても、作りたいものがあったから素材を集めためりぃちゃんや、頭の回転が人よりちょっと速いAWP-002とは違って、わたしにはこれといったアイディアが浮かんでこない。
仕方ないのでさっきと同じようにアイディアを募ってみる。みんなはなにかないー?
簡単に言えば、任意のタイミングでアイテムが動くという仕組みなので、その気になればなんでもアリだ。こんなものがなくても【A−YS】ではパソコン作ったりVRゲームを作ったりしてる人もいるらしいけれど、生産スキルでぐにゃーっとお手軽にプログラミング&加工できる強度の高いアイテムと考えれば結構凄いよね。
意見を募ってみたところ、うさぎモードでも使える面白い装備!というありがたい意見をいただいた。当たり前ではあるけれど、確かに面白くなりそうだね
「うさぎでも使える装備かー。そこの人はどう思う?なんかない?」
「えっ、俺!?」
というわけで、唐突に他の作業台にいたプレイヤーにうざ絡みしてみた。
そのプレイヤーは全身未鑑定装備だらけのプレイヤー。服から靴まで、すべてに疑問符のマークが付いていて、ある意味では「?」でびっしり統一された格好だ。
ただし、作業台の横に立てかけてある紫色の盾だけは未鑑定ではないみたい。おそらくは【A−YS】産だろう。【A-YS】には未鑑定という概念が無いので基本的にはありのままのデザインで使用するしかない。
「うーん、アレだね。アレとかどう?」
「あれってなに?」
「彼は耳装備なんてどうだろうか、と言いたいようですよ。プレイヤーネーム『屠神 荒罹崇』」
「よくわかるね、ほんと」
わたしの思考なら情報が集まってるだろうけれど、この人とはまだ会って数秒だよね?それとも知り合いなのかな?
「私も進化していますから」
腰に手を当ててふんぞり返りながら自慢するAWP-002だけど——彼の思考を《ロールプレイング》でシミュレートしてみるとすぐにわかった。わたしに負けてから様々なプレイヤーのデータを事前に収集しているようだ。
確かにAWP-002はデータを集めきるまでの初速が遅い、言うなればスロースターターな節があった。だから戦いの前に事前準備をしておくことは重要だろう。
とはいえ、さすがにすべてのプレイヤーのデータを集めることはできないはず。この人は彼のお眼鏡にかなった特筆性のあるプレイヤーなんだろうか。
「耳装備かー。耳装備って言ってもいろいろあるけど、何がいいと思う?」
「アレとかいいと思うぞ。アレだよ」
「耳に対応した帽子、だそうです」
「装備としてはきゅーとで良さそうだけど、可動要素の方はどーするの?」
「アレだよ!アレすればいいんじゃないか!?」
「自動で耳を立たせる機能、だそうです……」
「まあ、わたしってロップイヤーだからねー」
ロップイヤーという個性を消させないためなのか、うさぎモードのわたしの耳はちょっとしか動かない。惜しい。それを動かせるようにするというのは、いいアイディアかも。
というわけで、さっそく作ってみることに。もちろんただ耳を立たせるだけじゃつまらないよね。いくつかのアクションパターンの選択肢を用意して、それらを状況に応じて分岐して使えるように設定してみる。
具体的にはアイテムを絡め取って持てるようにできる機能。それから投げつける機能も用意して完璧!さっそくうさぎの姿に戻ってかぶってみると、帽子の内側と耳がぴたりと噛み合って、ふかふかが頭にじんわり広がる。
見た目としてはうさみみが入るように作られた手袋みたいな感じ。ハートマークの絵柄がついた白い手袋に耳をすっぽりかぶせている。
実用性よりは見た目を重視しているけれど、悪くないんじゃないかな?
「可愛いけどさー。手袋よりうさみみを直接触ったほうがふわもこで気持ちいいよー?」
「だろうけど、うさみみは敏感だからダメ」
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>【朗報】うさみみは敏感
>うさみみびよーんって引っ張りたい
>もちもちしてそう
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「というわけで、帽子のアイディアありがとね♥ うざ絡みしてごめんね」
「アレだよ。アレアレ」
「気にするな、だそうです」
この人は『アレ』しか言葉を使わないキャラのロールプレイングをしてるのかな?
とにかくかわいいうさ耳帽子を手に入れて、準備完了!今日はもう結構配信したし、『ボク』に交代してもいいかなー?とは思うけれど、最後にやっておきたいことがある。
「じゃあ、目標も達成したし、そろそろ配信も終わりにしようかなー?って思うんだけど——最後に、アレをやるよ!」
「アレ?」
「プレイヤーネーム『屠神 荒罹崇』。アレじゃわかりません。日本語で言ってください。語彙力0ですか?」
「さっきまで解説してたのに……?まーいいや。アレってのは、コレの事だよ!」
そう宣言すると共に【ストレージ】から取り出した『アレ』。それは……。
「そう!【四つ葉のクローバー】!さっき作ったこの帽子に重ねて、試してみるんだよ♥」




