第171話 アタッチテール
巨大マシンを撃破して、屋上をほぼ全面更地にしたわたしたち。けれど、そこに一か所だけ、ぽつんと均されていない場所が残っている。
マシンの後ろには、これみよがしに鎮座している真っ赤なボタン。きらきらと輝く宝石があしらわれた、すっごく目立つ台座の上にちょこんと乗っていて、もうこのボタンよりも台座の方が重要なんじゃ?って疑いたくなる。
「このボタンが暴走を止めるボタンですね。本来ならばマシンは倒さなくても回り込んでこれを押すだけで良かったと攻略サイトに書いてありました」
「えっ?じゃあなんでわざわざ倒したのー……?」
「というより、もう暴走したマシン自体がいないから押す必要はないよねー♥」
でも多分達成条件なので押しておかないと! すーっとボタンに近づいて、ふわふわうさぎボディプレスでボタンを押してクエスト達成!……とおもったら、わたしのカラダがそのまますーっとすり抜けていく。そ、そうだった、今は霊体だったね。
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>とがみん可愛い
>俺もうさぎのアバターになったらちやほやしてもらえるかな?
>サッカーのボールに使ってやるよ
>これは動物虐待
>中身は人間だからセーフ
>人間なら虐待してもいいという風潮
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代わりにAWP-002がポチっとボタンを押す。しかし、周囲では何かが変わった様子はない。やっぱり本来なら変化が起こるはずのマシンを倒しちゃったからかな?
「さて、じゃあ帰ろっか♥」
「そうですね。風の精霊としてはこの吹き抜ける風も名残惜しいですが……」「まって、まだやることがあるよ」
「?」
珍しく『なにかください』以外のワードを口にしたなにかくださいくんにちょっぴり衝撃を受ける。まだやり残したことがあったかな?当初の目的だったドロップも回収して、クエストも完了。後は隠し通路でもない限りはもうすることはないと思うケド……。
そう考えていたわたしは馬鹿だった。風なに翼さんくんは、ボタンの取り付けられている台座にずいずいと近づくと、【マナブレイド】を発動させ、その根本から一気に切り取ってしまったのだ!
「何やってるんですか、なにかください……」「こんな希少そうな台座はもらっていくしかないよ」「やれやれ、とても✝強者の翼✝とは思えない言動だ……」
なにかくださいくんの言動に2人の人格は呆れているけれど、わたしはすっごく感心した。まさかそんな所に採取アイテムがあったなんて!
「他にも何か持っていけるものないかな?」
「床でも剥がしていきますか?プレイヤーネーム『屠神 荒罹崇』」
さすがにこの床に希少価値はなさそうだなー。後は【セントリーガン】でも回収していく?モンスターだけど。
冗談はそのくらいにしておいて、倒したモンスターがドロップしたアイテムをごく普通に回収していき、ビルから脱出する。わざわざダンジョンを逆走していくのも時間のムダなので、屋上からぴょーんと飛び降りて一番下にいるクエスト担当NPCの下へ向かった。
「おお!ボタンを押してくれたのか!おかげでビルの中が静かになった気がするよ。これはお礼だ。我が社が開発した最新兵器、【アタッチテール】だ。取り付ければ自分の手足のように動かせる装備品だ。他にも拡張装備が欲しかったら会社が経営再開できたときに売ってあげよう」
そう言って渡してくれたのは、銀色の尻尾。ひやっとするメタリックな肌ざわりで、ぜんぜん尻尾には見えないけれど、どうやら可動式の装備なのかー。へー。
さっそくわたしの尻尾の先に取り付けると、なるほど。【モーションアシスト】に指示を出せば本当に自由自在に動かせる。結構重たいものも持てるようで、大きな剣をぶんぶんと振り回したりできるかもしれない。
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>フォッダーばっかやってたから見逃してたけど結構重要なクエストだな
>俺もこの前手に入れたよ。三刀流とかできてつおい
>うはwwwwwwwwwwww1000000000個注文したwwwwwwwwwwww
>全身隈なく尻尾だらけでキモそう
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と言っても【転生】キャラにとってはリーチの面を除けば、今までどおりアバターに反映せずに装備した方がいい面もあるかもしれない。
めりぃちゃんに尻尾を伸ばして、よいしょっと肩に乗ってみると、わたしのカラダを優しく撫でてくれた。なるほど、これは便利だね♥
「尻尾以外の部位も欲しいですね。会社が再開されるトリガーは……攻略サイトには載っていない様子。次のアップデート待ちでないのであれば探しておきたいところですが」
残念ながら目の前にいる社員の人に話しかけても、「会社が経営再開したら売ってあげよう」としか言ってくれない。少なくとも新しいクエストをここで受ければ経営再開しますーってわけではないみたい。
それならまたしばらく【A−YS】をぶらついてみようかなー?とは思ったけど、テトリスくんが発見できてないものを果たしてわたしに見つけられるのかな?
その件については後回しにするとして、とりあえずクエストも終わったことだし【パーティ】は一旦解散。わたしやAWP-002はめりぃちゃんについていってドロップアイテムを試してみることにしたのだけど、他の人たちは別の用事があるみたい。
「さてめりぃちゃん!【メモリシード】でなに作るの? というか、どうやって使うの?」
最近は『ボク』が大会に夢中だったせいで完全に流行に乗り遅れているからこんなアイテムがあったことも初耳。まったく、我ながらしっかりしてほしいよねー。
「しっかり研究済みだよー!アイテムを作る時にこれを埋め込んでね。そこから金属製の線をずーっと引っ張っていくの。そうすると、その線が中に仕込んだプログラムに従って動くようになるんだよー!」
「つまり、仲間モンスターだけじゃなくて武器とかも作れるってコト?」
「そゆこと!というかさすがに一緒に戦ってくれるように組んでいくのはちょっと作るのが難しいみたいだから、最初はそういう小物系から試していかないとね」
やっぱり【アタッチテール】の制作会社に出てきたモンスターが落としたドロップなだけあって、かなり密接した関連技術という感じがするね。その導線をリアルタイムに【モーションアシスト】で動かせるのが【アタッチテール】なのかな?
さて、アイテムを作る場所と言えば【ギルドハウス】。その生産施設にわたしたち3人は集まった。もちろん他にもこの施設を使っている人はたくさんいるけどね。
「それにしてもAWP-002がついてくるとは思わなかったよ。ちょっと意外かも?」
「私は敗北者ですからね。下剋上を果たすまでは仕方なく名誉人類としてコミュニケーションを図ることにしているのですよ」
「でもでもAIさんならプログラミングとか得意なんじゃないー?すごい助かるよー!」
「はっはっは、キャラクターネーム『めりぃ』。奴隷のようにコキ使ってくださっても構いませんよ?」
「わたしはお友達として接してあげるね。いやがらせのために」
「鬼ですか?」




