第170話 コンバットマジック
遠距離攻撃によって各々がロボットたちを仕留めていく中、マシンはさらなる一手を打つ。周囲にまとっていた強大な魔力エネルギーを一点に集約させると、マシンの内部に投入した。
それから少しして、新たなロボットたちがマシン内部から顔を出す。しかし、今度は先ほどまでのロボットたちとは形が少し違う。全身が半透明の膜のような魔力で覆われており、その背中には同じく魔力で生成した透き通るような翼が生えている。そして頭部にはドーナツのような太めの輪がふわふわと浮いており、まるで天使を思わせる姿だ。
今までの機械的な要素とは打って変わってファンタジーな要素を取り付けてきたけれど、その容姿は全身金属骨格でできた人型の機械なので神聖さはまるで感じられず、むしろ不気味さが勝る。普通のロボットだったときのほうが、まだかっこよさを感じられた気がしないでもないかなー。
そんな新たなガジェット?が取り付けられたロボットたちが次に何をするかといえば当然決まっている。翼の生えた新型ロボットたちは、その羽を羽ばたかせて大空へと飛び立つ。AWP-002が放つ矢を受け止めながらも上空へ浮かび、わたしたちの場所を目がけて急降下してくる。どうやら今度は接近戦がお望みのようだ。
と言っても通常のロボット兵が壊滅したわけではない。上空からの襲撃と同時に、今もなお多くの斬撃が戦場を飛び交っていて天使型ロボットに対応しようとするわたしたちに圧をかけてくる。
一方でふわふわと浮かぶわたしの魂はまるで相手にされていない。それならと今度は【イグニッション】【パイロキネシス】による極太の火炎放射を撃ち放ち、何体もの天使型ロボットを貫通させていった。
回避行動を取るロボットもいるけれど、本体はめりぃちゃんが大事に抱きしめて守ってくれているからやりたい放題。合間を縫って【マインドハック】も試してみているけど、こっちはなかなか成功しないね。【イグニッション】込みなら通るかもしれないけれど、今はそこまでの余裕はない。
地上では風なに翼さんくんもサポートしてくれている。いつの間にやら【バード】に職業チェンジしていたようで、味方の攻撃時に追加打撃を与えるスキル、【追撃のカノン】を演奏してくれている。
【バード】特有の受動スキルによってHPも潤沢に補給されているため、【イグニッション】を惜しみなく行使していくことができた。
そうして天使を狩っている間にابتسامةくんがマシンの方ににゅるっと侵攻していく。さっきまでは魔力がどうたらで近づいたら危ないって話だったけど、今はロボットを強化した影響で危険な魔力はまったく充満していない。そんなابتسامةくんにめりぃちゃんが召喚した精霊たちがふわふわとついていき、飛び交う斬撃を次々と受け止めていく。
「【【【ダブルショット】】】【【【ペネトレイト】】】!」
そしてAWP-002が撃ち込んだ圧倒的多数のスキルによる矢の嵐が敵陣に降り注ぎ、地上のロボットを殲滅する。殲滅されたロボットが素材に変化すると同時に家も消滅し、マシンへの道が開かれた!
慌てたマシンは銃器を乱射して牽制し始めるけれど、もう遅い。ここまでの戦いでابتسامةくんも経験値を積み、精霊たちに先導されながら俊敏な動きで弾を避けていく。それが熟練度によるものか、あるいはステータスによるものかは本人にしかわからないけれど、その根底にある彼の強くなりたいという思いに【モーションアシスト】が応えている。
「それなら、お膳立てをしなくちゃね♥」
わたしは【ジュエルラビット】としての受動をابتسامةくんに適用させるために全速力で空を駆け抜け、彼をエリア内に収めた。
「【イグニッション】!さぁ——頑張って♥」
いつもは異形としての力で相手を捕食して戦っていたابتسامةくんだけど、このときばかりはスキルを発動させる。
ابتسامةくんが発動させたのは【メイジ】のとあるマイナーなスキルだった。
「〈叡智を対価に、全てを開放せよ〉【コンバットマジック】!」
ある意味では【メイジ】スキルの中でも最上級の異端児。職業のテーマをかなぐり捨てた究極の自己付与スキルだ。
その効果は自身の能動スキルの封印。魔法という超常の現象をかなぐり捨てて物理法則によって全てを制する、究極の支援魔法だ。
【コンバットマジック】
[アクティブ][自身][支援][魔法]
消費MP:2 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[自身]の[物理攻撃力][物理防御力][AGI][DEX]を[増加]させ[沈黙状態]を[与える]。
多大なペナルティと引き換えに得られる大幅な付与効果。それが【イグニッション】によって底上げされ、【ジュエルラビット】の【幸運招来】の効果を二重に受けて、全力全開全速力でぴょーんと跳ねて巨大マシンに体当たりする!
もはやその強化されたステータスに【セントリーガン】程度の銃弾は届かない。固定式の要塞である巨大マシンは躱すこともできず、無防備のまま攻撃を受け止め、まるで豆腐が抉られるかのような速度でابتسامةくんに蹂躙、破壊されていく。
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>いくらバフ込みとは言えコンバットマジック強いな。ビルドとして成立するレベルでは?
>コンバットマジックだけ覚えて後は全部パッシブで埋める感じかな。余ったMPは魔力障壁で実質HPに転用できるから耐久も高くなるし
>そういえばどっかで似たようなアイテムなかったっけ
>ابتسامةくん、最初は足が遅かったのにずいぶん速くなって……成長したね
>コンバットマジックの起源主張していい??
>駄目です
>コンバットマジックはわしが育てた
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マシン内部からは新たなロボットが顔を出してくるけれど、それらも含めてابتسامةくんがぜーんぶ片っ端から突き破っていき、やがて屋上は完全な更地になった。
「やったー!」
「戦闘終了ー!おつかれさまー!」




