第169話 ロングアイテムコントロール
ありったけの付与をかけて、テレポーターで屋上に上がったわたしたち。びゅーびゅーと気持ちいい風が吹き荒び、人工太陽の光が降り注ぐ。そんな広大な【A−YS】の街を見渡せる、いい眺め♥
このエリアには、このビルを超える大きさの建物がほとんど存在しないので、見晴らしもなかなかに良い。もしかして外から【エアジャンプ】で駆け上がったほうが早くたどり着けたのかも。
「よそ見してる場合じゃありませんよ。確かに風の精霊の力があふれているすばらしいスポットではありますが」「なにかください」「あれは✝強者の翼✝を名乗るのにふさわしいな」
風なに翼さんくんに声をかけられて、慌てて正面に鎮座する敵を視界に捉えなおす。見晴らしのいい景色を遮るようにしてそこに君臨するそのマシンは、まさに要塞と呼ぶにふさわしい威容だ。1階でも見かけた【セントリーガン】に類似した銃器が、マシンをぐるりと取り囲むように取り付けられていて、迂闊に近付こうものなら即座に蜂の巣にされてしまうこと間違いなし。
「とりあえず、近づかなきゃ攻撃はしてこないのかなー?銃口はみんなこっちを向いてるけどねー」
「機械中央部に洞穴が空いているのが見えますか?戦闘時にはあの位置からロボット兵が出現するようです。また、その上部に搭載されている巨大な銃口から放たれるミサイルは投射発動で、着弾時にエリアを形成して即死級のダメージを与えます。爆風に巻き込まれただけでも死にます」
「なるほど?じゃあそれを防げば勝てるってことっすね。家を目の前に配置してやればいいだけじゃないっすか」
とはいっても、近づくだけで弾幕が飛んでくるわけだし、接近すること自体がそこそこ難しいかな?それに、武装はそれだけじゃないみたいだしねー。
よく見ると、巨大なマシンの周囲がまるで歪んでいるように見える。あれも能力の一つなんだろう。
AWP-002によると、爆発的な無属性魔力を常に周囲に発し続けることで、近辺での活動を困難にする特殊なエリアを展開しているらしい。
「あっ、それなら、さっきわたしが覚えた霊体のまま動けるスキルで近づけるかも♥」
「とがみんさすが!こういう場面を想定してスキルを取得してたんだねー!」
「えへへ♥褒めても何も出ないよ?じゃあさっそく——」
さっそく新しいスキルを試してみようかと思ったその時——。
「おっと、そうはさせないっすよ?あんたには活躍させないっす」
わたしに先んじてああああくんが動いた。左腕を天高く掲げると、極小のドローンがおもむろにマシンの前に近づいていき、【ストレージ】を展開した。すると、巨大な家がどーんと設置される。
「あーっ!」
なるほど、ドローンはプレイヤーのアバターの一部だから離れたところでアイテムを取り出すことができるのか!
新しいスキルが試せなかったのは残念だけど、『ボク』を意識して自分の手札を晒しちゃうああああくん、なんだか可愛いね?
でもそんなことを指摘するのはかわいそうなので、悔しそうな素ぶりを見せてみる。
「あー悔しいなー♥ああああくんに負けちゃったよー。偉いねー?」
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>めっちゃ煽ってんな
>これは屈辱の展開
>ああああさんブチギレ5秒前だろ
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「わ、わかればいいんすよ。これからは謙虚に生きるっすよ?」
ほんとに可愛いね。
さて、こちらが攻撃するまで棒立ちのままでいたマシンだけど、さすがに目の前に家を建造されては反撃をせざるを得ないのか、自慢の大砲からミサイルを発射して迎撃行動を取り始める。
すっごい威力の攻撃だって話だし、物質干渉力で弾き飛ばされちゃうかも?
その行動を見て、ああああくんがドローンを引き上げ、わたしたちは家が吹っ飛んできたときに備えて散開し始める。
そして準備が整ったところでミサイルが放たれ、ああああくんの家に命中。とてつもない爆音と共に家を巻き込んで大爆発が発生し、案の定、滑るように吹っ飛ばされてくる。ここまでは思ったとおりの展開。
でもそこから先は思いもよらない展開が待ち受けていた。
攻撃が命中したことによって発生した大爆発は、本来なら敵を一気に巻き込んで撃破する高性能な追加効果なんだけど——。
どうやらそれに自分自身が巻き込まれてしまったらしい。さすがに一撃とまでは言わないけれど、装甲も剥がれて半壊状態となったマシンの姿は、どこか哀愁を漂わせている。
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>自滅かよwwww
>やっぱホームタクティクスって神だわ
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【A−YS】の敵は基本的にHPゲージが表示されない仕組みだけど、それでも間違いなく大ダメージだというのは見ただけでわかる。ただ、こんな間抜けなミスを開発者さんがしているとは思えない。さすがに家で発射口を塞ぐのが正攻法とは言わないけれど、ミサイルの爆発に巻き込むところまでは想定解だったのかな?
この推測が正しければ、この状態からでも十分に苦戦する強敵のハズ。油断せずに行かないとね!
前門のミサイル機構は完全に崩壊して撃てなくなっているけれど、左右に取り付けられた【セントリーガン】とマシン内部はおそらく無事だ。その推測を裏付けるように、マシンに空いた空洞からがしゃんがしゃんと音を立ててロボットの軍勢が姿を現す。
先手必勝!わたしが閃光の如き【パイロキネシス】を撃ち放つと同時にAWP-002が装備を弓に切り替え、大量の矢を山なりに発射する。ロボットたちはそれに対抗して家の壁を作り出そうとするけど、【パイロキネシス】の弾速はそのアクションよりワンテンポ早く、AWP-002はそんな壁など無視して【空神の加護】を乗せて上空から雨のように矢を降らせる。
狭い廊下ではすっごく厄介な敵だったけれど、天井のない屋上ではそこまで厄介じゃない。数だけが多くても優位性はこっちにあるよ!
とはいっても上空から攻撃できるああああくんやAWP-002とは違ってわたしの【パイロキネシス】は直線投射。このままでは壁を突破できない。それなら今度こそ、さっきは発動できなかったスキルを試してみようかなっ。
「【アストラルプロジェクション】♥」
スキルの宣言と共にわたしのカラダからすーっと自分が抜けるような感覚がして……ふわーっと魂が宙に浮かび上がっていく。
そこからさらに高く高く空を飛んで、ロボットの頭上から【パイロキネシス】を乱射していく!
地上には気絶した自分のカラダが残っているけれど、すかさずめりぃちゃんがぎゅーっと抱え込んで、ロボットが放つ斬撃を避けてくれている。
このままなら順調に勝てそうだけど……。




