第168話 マインドハック
戦いが終わり、【転生】アバターについて気づいたことがいくつかある。
まず、【イグニッション】の効果が【帝神の加護】でカスタマイズ済みのものになっているということ。メインの人間体とは別のアバターという説明だったけど、厳密にはスキルや職業が初期化されただけで同一のアバターということみたい。【ストレージ】の中身もそのまま使うことができているし。
他にも特殊なイベント類で獲得したスキルである【帝神の加護】などの【加護】はそのまま残っている。けれどプレイヤーメイドの【加護】である【不死鳥の加護】は持っていないみたい。アバター毎に別の【加護】を獲得できるかもしれないね。
「今のモンスター、プレイヤーが使うテクニックを再現してたのかなー?」
ロボットがドロップしたアイテムを拾い集めながら、めりぃちゃんがつぶやく。もしそうなら、このダンジョンはかなり厄介だね。プレイヤーが考案してきたさまざまなテクニックは、対策がなければ簡単に詰んでしまうものも多い。ここからああいった敵がたくさん出てくるとしたら、一戦一戦が死闘になる。
「めりぃちゃん、目的のアイテムはどこで手に入るのかって情報あるの?」
「このドロップがそうみたいだよー。今みたいなロボットのモンスターが落とすみたい」
そう言って【ストレージ】から取り出して見せてくれたのは小型のメモリチップ。これを使って機械の動作を制御できるんだって。
じゃあ積極的に倒して集めていこうっ。ということで、廊下の途中にあったドアを抜けて、隅から隅まで探索していく。先ほどと同じように剣を持ったロボットもいれば、四足歩行の獣型のロボットもいて、それらは例外なしに非常に強力だ。
空中を駆け抜けて勢いよく突進してきたかと思えば、まるでダメージを受けたときのようなモーションで後退して攻撃を躱しつつ逃亡していく。かと思いきや退避しながら罠を設置して奇襲を狙うなど、モンスターとして強いというよりも戦い方が上手い。
わたしとしては戦っていて非常に楽しいモンスターなのだけど、あくまでインプットされた仕組みの上で行動しているだけみたい。次に出てきた同型のモンスターもまったく同じ戦法を狙ってくるのだけど、さすがに意表を突いた戦術も2度は通じない。2度目以降はAWP-002が完全にパターンを把握してしまい、嵌め手のような戦術で簡単に仕留めていく。
さっきの家を召喚してくるロボットなんかは、先手で【円盤ハウス】を投擲しておき、壁を出してきた瞬間に【ホームリターン】で回り込んでしまえば、まったく問題がなかった。わざわざ設置した家を収納するような行動パターンはインプットされていないらしく、そこからは普通のビームソードを持った敵となんら変わりはない。
順調にアイテムを回収してダンジョンを進んでいき、途中で見つけたテレポーターを利用して上の階層へ。
「なんでこのテレポーター、1つ上の階層にしかいけないのでしょう。欠陥品では?」
「ゲームの都合だから仕方ないっすよ」
次の階層も内装は変わらない。居住性は最悪で、迷路のようなビルを探索していく。新しいモンスターが出てきたときはたいていやや苦戦するものの、レベルが上がったわたしとみんなの連携の前では敵ではない!
「よしよしっ!けっこうメモリ集まってきたねー。あとは屋上に登ってクエストを達成するだけ!」
「風が泣いている……。おそらくボスがいるのでしょうね」「なにかください」「情報なき戦いは✝強者の翼✝ではない」
「プレイヤーネーム『凸テトリス凹』のサイトに載っているようです。ボスは巨大な要塞で、大量の弾幕を散らしてくるそうです。プレイヤーネーム『めりぃ』が今回も主軸となりそうですね」
「任せてっ!全部受け止めてあげるんだからー!」
情報によれば次の階層が屋上で、わたしたちは今、その階層へ続くテレポーターの前にいる。付与をたっぷりかけてスキルを獲得して、準備を整えてから挑まないとね♥
【ジュエルラビット】からはとりあえず【退魔結界】と【ジュエルシールド】を獲得しておく。【ジュエルラビット】のスキルは以前に紹介したもので全部だからそろそろ頭打ちが近いね。普通の職業では覚えられないスキルが使える分、さすがに選択肢は少ないみたい。
だから逆に【サイキック】の方で差別化をしていきたい。メインアバターの方の【サイキック】とも違う構成にできるといいんだけど……。
明日香ちゃんも『ボク』も使っていなかった【サイキック】のスキルを見ていくと、たとえばこんなスキルがある。
【マインドハック】
[アクティブ][キャラクター][支援][妨害]
効果:[キャラクター]の[モーションアシスト]に[指示]する。
【アストラルプロジェクション】
[アクティブ][自身][アバター]
効果:[自身]の[操作][アバター]を[霊体]に[変更]する。[霊体]は[自身]の[肉体]を[起点]として形成した[エリア]内でのみ活動を行える。
【サイキック】は【ジュエルラビット】よりはスキル数が多いけれど、それでも職業としては少なめの部類で、ひねくれたスキルも多い。
【アストラルプロジェクション】。これはかなり異色の効果を持つスキルで、自分の身体から抜け出た霊体で動くことができるスキルなのだとか。霊体にはダメージ判定や物質干渉力がなく、一方的に動くことができるけれど、その代わり本体はその場で気絶していて隙だらけ。こんなに面白い効果を持ったスキルはなかなかない。
【マインドハック】もすっごく個性的だよね。成功率は低いけれど、成功すればほんの一瞬だけ相手の【モーションアシスト】に偽の命令を送り込むことができるスキル。あからさまな隙はできるけれど、成功率が低いということも相まって、どのタイミングで隙が生まれるかは使ってる側にもわからないのが欠点らしい。
成功率は低いけれど、相手が受け入れていれば確定で成功する。なので味方を合意の上で操作して連携を図ることもできるみたい。
というわけで、意図的に前アバターのスキル構成からずらしていくならこれらのスキルを主軸にしていくのが良さそうだね。
とゆーわけで、使い勝手はわからないけど【アストラルプロジェクション】と【マインドハック】を獲得!まだそこまでレベルが上がってるわけじゃないし、もし駄目だったらリセットすれば良いからお試しということで♥
「という感じでスキルを覚えてみたよ!」
「【マインドハック】!?なにそれ面白そう!あたしにかけてみてー!」
「ようし!じゃあいくよ♥それっ、右手を上げて!」
わたしが送り込んだ命令を受け取っためりぃちゃんは、指示に従って右手をびしっと伸ばす。戦闘中に唐突にこんな行動を強制されるとしたら、非常に強力だと思う。
「おお、すごい!これって召喚モンスターとかもダイレクトに操作できるんじゃない?まあ、召喚モンスターは基本的に指示に従ってくれるから必要ないんだけどねー」
「でも面白いスキルだよね。なにか使い道はないかな?とにかくこれで準備はおっけー!屋上に突撃しよっか!」




