第167話 ホームブロック
ロボットが放った電撃に、めりぃちゃんが前線へ躍り出て身を投げ出した。仲間たちは彼女を盾としてその後ろに退避しつつ、遠距離攻撃で反撃しようとしたところで——。
「おっと、貫通能力ですか」
めりぃちゃんの身体をすり抜けて電撃は直進し続ける。それをAWP-002は上体を後ろに逸らしてアクロバティックに回避する。AIに匹敵する演算能力を持つああああくんも、華麗に……とはいかないが、勢いよくしゃがみ込むことで躱し、風の精霊なにかください✝業者の翼✝さんくんは完璧なタイミングで発動させた【テレポート】で攻撃をすり抜けた。
そしてわたしとابتسامةくんは躱すまでもなく当たらない。つまりめりぃちゃん以外には被害のない攻撃だ。
「やばばっー!身体が麻痺った!」
「【キュアバレット】!」
電撃を受けて身体が硬直しためりぃちゃんに風の精霊——風なに翼さんくんが治療を行い、それを後目にAWP-002が前傾姿勢でロボットに肉薄する。
【ガードブレイク】【オーラブレイド】【ペネトレイト】……いくつものスキルを畳みかけるように発動させ、複数の斬撃を一度に叩き込むのがAIの十八番だ。全ての攻撃が命中すれば並大抵のモンスターであれば一撃で屠れる威力。けれどその斬撃はロボットの身体をするりと抜けた。斬ったのではない。まるで最初からそこにはいなかったかのような……。
「【ニノタチイラズ】!」
攻撃を透かされたと判断した彼は、続けてさらなるスキルを発動させる。
【ニノタチイラズ】
[アクティブ][自身][補助]
消費MP:6 詠唱時間:0s 再詠唱時間:1m
効果:[攻撃][スキル][非命中時][直後]にのみ[発動]できる。[再度][同一][スキル]を[発動]する。
回避された攻撃スキルの再発動。再詠唱時間を無視して追撃を図るその力は、絶対的な安定択で攻撃を当てることができるAIにとっては本来ならば不要である失敗の保険。
スキル名に反して堂々と『二の太刀』を振るった彼は、ロボットの幻像を無視して何もないと思われていた地点に【ペネトレイト】による刺突を繰り出す。
攻撃を受けたロボットは物質干渉力によって後退しながらも姿を現した。
「光学迷彩などではありませんね。〈感受誘導〉ですか。環境音や風の流れによってキャラクターの位置を把握できる私すらも騙す手腕だ。なかなかです」
そう、このロボットは〈感受誘導〉によって受け取り手の思考を操作していたみたい。その効力はデータとして正確に位置を把握することができるAIにとっても例外ではない。むしろ苦手としている様子だ。
本来ならデータに従って安定択を得られるからこそ、その上で誤った選択をしてしまった時に、相手に奪われる優位性は大きくなる。だからこそAWP-002は自身が失敗することすらも前提に入れて保険のスキルを獲得したんだろうね。
そして後退したロボットにああああくんがすかさず〘Code:Rods from God〙に一斉掃射を命ずる。AWP-002のすぐ頭上に控えていたナノドローン達が放つ〈魔導〉の光線は、膨大な威力と熱量によって周囲の空間を歪めながら突き進んでいく。
回避できないと判断したロボットはそれを相殺しようと考えたらしい。左腕を前にかざし、機械的で感情の込められていない電子音声でこう宣言する。
「【ストレージ】」
「嘘でしょー!?」
その瞬間、光線を遮るように地面からにょきっと小型の家が出現する。圧倒的な威力を誇る光線ですら、〈不壊化〉された家を破壊することはできない。わずかに後方へ押し出したところで光線の照射が停止する。
そして目の前には、廊下を真っ二つに分断するように小さな家が一軒、どっしりと居座っている。この通路を使えなくする作戦だったのかな?
「来ますよ!先程の電撃が!」
そう思ったところでAWP-002が大声で周囲に危険を周知する。そうだった。さっきの電撃の斬撃は——!
気づいたときにはもう遅い。というより、気づいたところでどうしようもない。通行不能で破壊もできない家を挟んで、無数の電撃がわたし達をめがけて飛んでくる。
攻撃の性質自体はわかってるから、避けること自体はできるけれど、このままだとただ一方的に攻撃され続けるだけになってしまう。どうしよう?
「ぼくが行ってくるよー」
【テレポート】を使って建物を突破しようか、そう考えていると、ابتسامةくんがにゅるりと前に出て、通行不能に見えた家の隙間を抜けて向こう側に進んでいく。
1人で大丈夫かな?いや、よくよく考えると今のわたしもこのくらいの隙間なら通れるかも?
実際に入ってみるとちょっと窮屈だったけど、壁と服がこすれる感覚に耐えながら、なんとか無理やり身体を押し込んでいき、ابتسامةくんについていった。
なんとか向こう側へと抜けると、剣を無茶苦茶に振り回して斬撃を飛ばすロボットと、それにこっそりと足元から近づくابتسامةくんを目にする。
ابتسامةくんは気づかれてないと思ってるみたいだけど——このモンスターがそんなに甘いわけがない!
さっきからこのロボットが使っている戦術はプレイヤーが編み出したテクニックそのもの。そんな技を使ってくるなら……。
ぬるりと近づいていくابتسامةくんがちょうど剣の間合いに入ったその時、ロボットは大きく剣を振りかぶり、足元に向けて勢いよく叩きつけようとする。
「【イグニッション】!」
攻撃を止めるためにわたしは【イグニッション】の効果で強化した【パイロキネシス】を口から放射する!付与であるこのスキルは【ジュエルラビット】の受動である【幸運招来】の効力、そして数々の炎属性強化装備の恩恵を受けて最大限まで強化され、針のような鋭さでロボットの腕を貫いた。
それによって生まれた一瞬の隙を突いてابتسامةくんが脚にくっつくと、ずずーっと吸い込むようにしてロボットを取り込んでいく。慌てたロボットは脚を切り離して捕食から逃れようとするも、そのために機動力を失ってしまっては本末転倒だ。わたしの【パイロキネシス】から逃れることができず、直火焼きでじりじりと炙られ、ロボットはHPを全損した。
と、同時にロボットが召喚した家も粒子となって消えていき、通路が再び使えるようになった。これが残ったままだったらどうしようもなかったよねー。よかったよかった♥




