第166話 地の利
死に戻りして炎上の付与も切れたところでダンジョンの前にぴょんぴょんと飛び跳ねながら戻る。ダンジョンの中で死んじゃったら入り口に戻されるみたいだけど、ダンジョンの外だと全然違うところに戻されてしまうみたいでちょっと焦った。
それから試しにプレイヤー用の装備を装備してみたのだけど、あっさり装備できてしまった。
グラフィックには反映されず、効果だけが適用されるようで、炎属性強化の装備を『ボク』から継承できるみたい。逆に現状のアバターでも装備できそうな部位はグラフィックとして再現される都合の良い仕様のようで、今は大きな耳にきゅーとな【ボアーピアス】が付いている。
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>とがみんドジっ子かわいい
>卍さんなら袋叩きだったなこれ
>そもそもうさぎの時点で可愛いから何やっても許される
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「ただいまー♥」
「おかえりー!じゃあ早速いこっか!」
みんなはもう食事付与を終えているっぽい。めりぃちゃんは精霊を何匹も召喚していて完全に準備OKのようだ。
今度は全員で一斉に透過ドアを潜り、ダンジョンの中へ!
中に入った瞬間にめりぃちゃんが【アトラクト】を発動。全方位から降り注ぐ【セントリーガン】の弾を一手に引き受ける。同時に彼女がそれぞれのモンスターに指を指すと、それに従って精霊達がぴゅーんと飛んでいった。
ああああくんは左腕から小型のドローンを呼び出して、〈魔導〉レーザーの集中砲火で【セントリーガン】を破壊していく。
そうしていると敵の放った無数の弾がめりぃちゃんに命中し、HPが瞬く間に減少していく。めりぃちゃんはラーメンを取り出してHPを回復しようとしたが、それよりも先に風の精霊なにかください✝業者の翼✝さんが【ヒーリング】を発動。同時に【ディフェンスアップ】で防御力を固めていく。
「回復は私が担当します」「なにかまかせてください」「支援こそが✝業者の翼✝の本領!」
「ありがとー!」
そんなやりとりをしている間にابتسامةくんがずるずるとまだ破壊されていない【セントリーガン】に駆け寄るけれど、如何せん足が遅い。
そこをAWP-002が〈疾風迅雷〉ですっと抜き去り、槍を突き立てて機械を破壊した。ابتسامةくんはめげずに他の敵を狙おうと方向を変えるけれど、わざわざ彼が狙っている敵だけを的確に破壊していく性格の悪いAI。かわいそう。
「むー!ひどいよー」
「このゲームの常識に適合していないのが悪いのです。プレイヤーネーム『ابتسامة』。もっと勉強しなさい」
最初こそは膨大な数の敵に面食らったものの、そんな調子で片っ端から破壊していき、5分もしないうちに入り口の敵は殲滅完了した。
「おつかれー♥みんなありがとう。レベルも上がって新しいスキルが覚えられるよ♥」
「まったく、棒立ちで貢献しているつもりとは、いいゴミ分ですね?キャラクターネーム『屠神 荒罹崇』」
「わたしも闘うの好きだし、ここからは頑張っていくよ……いまゴミって言った?」
「言ってないです」
AWP-002がわたしの悪口を言ったかはさておき、ここからは楽しいスキル振りの時だ。習得可能数は3つ。
【ジュエルラビット】のスキルはそのほとんどが事実上【支配領域】でエリアを形成することが前提になっているので、まずこれを取得して残り2つ。ほとんどが支援スキルだけど、できれば自分が戦うことを前提として振っていきたい。
そこで候補に上がったのが、味方の付与の効果を引き上げる【幸運招来】と味方のステータス自体を増強する【応援団長】。当然ながら自分が発動した付与の効果も引き上げられるから、さらに重ねがけしていけばスペックがかなり上がりそう。
【支配領域】
[パッシブ]
効果:[自身]を[起点]として、[エリア]を[形成]する。
【幸運招来】
[パッシブ]
効果:[自身]の[形成]した[エリア]にいる[味方]が受ける[支援]の[効果]を[増加]させる。
【応援団長】
[パッシブ]
効果:[自身]の[形成]した[エリア]にいる[味方]の[全ステータス]を[増加]させる。
そして考えに考えた結果、職業は【サイキック】を取得することに決定した。
必須スキルである【ジョーカー】と【パイロキネシス】を獲得し、【メイジ】から【イグニッション】を引っ張ってきた。凄い万能スキルだよね、これ。
ただし常に【サイキック】でいるというわけではない。【ストレージ】からよっこいしょーっと【女神像】を取り出し、めりぃちゃんに背中に括り付けてもらう。
「できた!これで色んな職業のスキルを使い放題だよ♥」
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>これサバイバル杯でもやってたみたいだけど糞すぎだよな
>そういえばAWP-002さんも職業切り替えてたみたいだけど女神像は持ってなかったぞ
>アレどうやってやってたんだろう
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「……プレイヤーネーム『屠神 荒罹崇』なぜフィギュア型の【女神像】を作らず等身大を背負うのですか?」
「えっ?」
そう言って懐からAWP-002が取り出したのは【女神像】のネックレス。もしかして……それで職業チェンジできるの?
「まあ、あなたは巨大【女神像】を背負って生きていてください。私はコンパクトに仕上げた【ぷち女神像】を使うので」
「悔しいっ……AWP-002の癖にっ!」
「まあまあ、風の精霊でもあり、他の人格を宿す我々は頻繁な職業チェンジを必要とします。今回はその等身大【女神像】を使わせていただきましょう」「なにかください」「小さきうさぎに重たい物を乗せるのは✝善者の翼✝なのか…?」
それから職業チェンジと付与の付与のために休憩時間を挟み、ダンジョンの奥に進んでいくことに。
スキルとしてはほとんど支援型だけど、わたしだって戦いたい!次に出てきた敵はわたしの炎で燃やし尽くしてあげるよ!そう決意を胸に抱いて、まるで普通のビルのような日常的で非日常的なダンジョンの廊下を歩いていく。
すると、廊下の曲がり角から新たな機械っぽいモンスターが現れた。全身が金属製の骨格でできたロボットで、腕にはビームサーベルを装備している。
先程の【セントリーガン】の強さから考えると、この階層の敵なら、それほど苦戦する相手とは思えないけれど……何か嫌な予感がする。
それは理論で考える『ボク』ではなく、突発的な感覚で行動するわたしであるからこそ感じ取れる、見えざる流れ。なんの根拠もないけれど……たぶんこの敵、やっかいかも?
そう思った瞬間、ロボットがビームサーベルを横薙ぎに振るった。そして剣閃に合わせて、電撃のような光線が超高速で発射される。
超高速とは言ってもわたしにとってはまるで遅い。目を瞑ってでも避けられるよ。そう思って横に避けようとして、気づく。この廊下……狭い!
仕方ないのでジャンプして避けようとして気づく。この天井……低い!?駄目だ。めりぃちゃん助けて!
それに加えて畳み掛けるようにしてわたしは気づいた。わたし、背が低いからこの攻撃当たらないね。




