第165話 バーニングラビット
「かみさまに消される……?それって、アクタニアのこと?」
「わかんないけど、すっごく偉い人。ぼくのお友達もみんな消されちゃった」
ابتسامةくんの言う『かみさま』がいまいち要領を得ない。けれど、そんな『異形』がいるというのなら、ユーキちゃんの行動原理にこじつけることができる。
最初は他者よりも優位を得た【黄金の才】。次に人智を超えたAI。そして最後に、『かみさま』。段階を踏んでハードルを設けて、脅威を乗り越えさせようとしている?
「ابتسامةくんはどうしてこのゲームを始めようと思ったの?」
「ここにくれば強くなれるってきいたから?」
「誰に?」
「青い髪のおねえちゃんに」
これはもう決まりかな。ユーキちゃんのことだ。彼女は人類を、あるいはAIを、そして『異形』を進化させようとしているんだ。
「それならわたしもレベル上げして強くならないといけないね♥じゃあ、行こっか。ダンジョンに!」
「確か50層まで攻略されたんじゃなかったっすか?でも、初期レベルの足手まといがいるし、1層から潜ったほうが良さそうっすね」
「幸運の兎は四大精霊である風の精霊にも疾き力を与えてくれることでしょう。ああ、大いなる風よ……」「なにかください」「狩りにも全力を尽くすのが✝業者の翼✝だ」
「では、行きましょうか。本気になったAIの力というものを見せてあげましょう」
「あっ、ちょっと待ってー!今回はアップデートで追加されたサブダンジョンに行くつもりだったんだけど……」
意気揚々とダンジョンへ向かうわたしたちを、遠慮がちに引き止めるめりぃちゃん。どうやら新規実装のダンジョンがあるらしい。
「そっちのダンジョンはね、特殊なアイテムがドロップするテーマダンジョンなんだってー」
「検索完了。どうやらそのダンジョンは機械型のモンスターが出現するようですね」
「えっ!?他にもダンジョンはいっぱいあるんだけど、なんで目的の場所がわかったのー?」
お得意の思考演算で推測したのかな。めりぃちゃんはどうして機械系のダンジョンに行こうと思ったんだろう?
「あのね、そのダンジョンで【メモリシード】っていう自動制御型の機械を作ることができるアイテムが出るんだって。それを集めたいんだー」
「仲間モンスターみたいな感じ?」
「そうらしいよー!パーツを組み合わせて戦わせるクエストもあるみたい」
「なるほど。風の精霊である私に献上させるべきですね」
「献上はしませんが、人数分は集めましょうか」
そして目標のダンジョンをめがけて出発するわたしたち。といっても、ここから徒歩5分くらいの場所だ。遠くに見える【科学塔】に負けないくらいの高層建造物。そこが目的地らしい。
近くに寄ってみると建物には『メカメディ商事(株)』という記載がある。普通の会社の建物に見えるけれど、本当に中身はダンジョンなの?
その入り口では1人の男性が立ち往生していた。
「こんにちはー♥」
「えっ?ここでなにをしているかですって?弊社で開発中のロボットたちが暴走してしまったんですよ!屋上にある非常停止スイッチを押せば止まるはずなのですが、中は魑魅魍魎たるロボットが跋扈する魔境でして……。一般人の私にはとても入れるような状況ではなくて……。えっ!?代わりに入って止めてくれるって?ありがとうございます!もしスイッチを押してくれたら、報酬として弊社が開発した最新の装備を提供いたしましょう!」
……どうやらNPCだったみたいだ。しかしAIではない。こちらが何を問いかけてもクエストがあるということを知らせ続けるだけのキャラクターだと思う。
「どうやらクエストもあるみたいだね。せっかく潜るなら達成しないとねー!」
そしてめりぃちゃんは意気揚々と扉を潜る。じゃあわたしたちも入ろうか、と続いて足を踏み入れようとしたところで、凄い勢いで再び扉からめりぃちゃんが飛び出してきた。
「なにこれ!?魔境すぎるよー!?なにここー!?」
「そんなにヤバいところだったんすか?僕もちょっと見てくるっす」
続いてああああさんが意気揚々と中に踏み込む。今度はすぐに戻ってくる様子はない。めりぃちゃんが大げさすぎただけなのかな?と思ったところで、わたしたちの眼の前にああああさんが瞬時に現れた。
「……死に戻りしたっす」
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>なんで1人ずつ行くんだよw
>戦力の逐次投入定期
>ここ俺も来たことあるけど5秒で諦めたわ
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「プレイヤーネーム『ああああ』『めりぃ』。中で一体なにがあったのですか?ネットでは実弾を放つ機械型のモンスターがいるとしか書かれていないのですが……」
「機械型のモンスター?情報がふわっとしすぎだよー!もう辺り一面【セントリーガン】が設置されてて、入った瞬間に撃ってくるの!」
「めりぃさんと比べると僕は耐久が低いほうっすからね。深追いしすぎて戻る前に蜂の巣にされてしまったっすよ」
大騒ぎで中の光景を語るめりぃちゃんと、肩を落としつつしょんぼりと落ち込むああああくん。基本的にはめりぃちゃんが引きつければある程度はしのげるということになるのかな。
「では、風の精霊である私が【ライフバッファー】でめりぃさんのHPを増強しましょう。あとは食事による付与もつけておいたほうがいいですね」「食べ物ください」「断食をするのは✝業者の翼✝ではない」
というわけでダンジョン突入前にお食事タイムだ。わたしは以前に『ボク』が買っていたラーメンを【ストレージ】から取り出した。
【ストレージ】から取り出されたのはぐつぐつと煮えたぎった真っ赤なラーメン。これは以前『食材の魔術師』くんが売ってくれた『それは自身を炎上させる』という効果を持ったラーメンだ。
一見するとダメージを受けるだけにしか見えないラーメンだけど、炎属性の強力なELMがあれば、逆に継続回復にもっていける、とっても便利な料理だよ。
さっそくうさぎの身体のまま器に顔を近づけてずずーっと啜りながら食べていく……と、そこで気がついた。
「あっ!わたし、炎属性装備付けてないんだった」
めらめらと身体が燃えて、じわじわとHPが減っていくばかりのわたしの身体。
「だれか火を消してー!」
「あったかいねー、とがみん」
そんなわたしに ابتسامةくんが身体を擦り寄せてくるけれど、燃えているので当然巻き添えでHPが減っていく。初期能力値であるわたしは最大HP自体が非常に低い。そのまま燃え尽きて、あっけなく街の中で全損してしまった。




