第164話 『モーションアシスト』
どうやら、めりぃちゃんには行きたいところがある様子だ。それなら【パーティ】を結成してみんなでお出かけだ。
ということで【パーティ】メンバーとして知り合いをお誘いしていき、ついに集まったのが6人の勇士たちだ。
「やれやれ。プレイヤーネーム『屠神 荒罹崇』、あまり馴れ合いたくはないのですが?」
「はあ……なんで僕があんたの【パーティ】なんかに参加しなくちゃならないんすか……」
「私は風の精霊……あなたに力を貸しましょう」「なにかください」「かつての強敵に力を貸さぬのは✝業者の翼✝ではない」
「ぼくはابتسامة!みんなと仲良くしたいな」
「えっ!?ちょ、ちょっととがみん?なにこの【パーティ】ー!?」
「なんだか賑やかで良くない?」
AWP-002、ああああくん、風の精霊さん、なにかくださいさん、✝業者の翼✝さん、ابتسامةくん。かつて『ボク』が戦った強敵とお友達が勢揃い!6人しかいないのに、8人くらいいるような気がしてくるねー♥
「ここに集うは、8人の異常者たち!さあ、めりぃちゃん!リーダーとして行き先を教えて?」
「しかもあたしがリーダー!?え、えっと、いつものメンバーで行くのかと思ってたからちょっと緊張するなー。あのね、久々に【A−YS】に潜ってみたいなーって思ったの。いいかな?」
いつも明るく、初対面の人にも話しかけていくめりぃちゃんも、さすがにこのメンツにはたじたじ。とは言え、メンバーたちは目的地を知らされていないにもかかわらず集まってくれた酔狂な暇人たちだ。一部の人たちによる多少の愚痴や文句こそあったものの、めりぃちゃんに賛同してくれた。
早速【ギルドハウス】に用意されたポータルを経由して【A−YS】にひとっ飛び。使うのは初めてだけど、どうやら【科学塔】につながっていたみたい。特に用があるわけでもないので透過ドアを抜けて外に出る。
こっちでもダンジョンのクリアと同時にアップデートがあったって聞いていたんだけど、どこか変わっているところはあるんだろうか?
「AWP-002は知ってる?アップデートの内容とか」
何気なく質問をしてみると、AWP-002が面を食らったような表情を見せる。どうやらわたしの思考パターンには未だに適応できていないらしい。
「なぜ私に聞くのですか?」
「だって【フォッダー】と【A−YS】、あとAWP-002達旧世代AIと運営はつながってるんでしょ?だったら概要くらいは落としていってくれてもいいと思わない?」
コネは存分に使わないとね♥しかし、AWP-002はやれやれと肩をすくめると、憎々しげに返答する。
「……わかってるとは思いますが、ゲームに関わるほぼ全てのデータはユーキに掌握されています。この前のアップデートもサービス開始時から用意されたパッチが自動的に適用されただけ。バグのような仕様の抜け道はもちろんのこと【A−YS】などという世界につながっていることすらも想定外ですよ」
「……そんな状況でよく人間に宣戦布告できたね?」
自分たちにとって不利な仕様がどれだけ追加されているかわかったもんじゃない。その気になればユーキちゃんが全てをひっくり返せるってことでしょ?
「まあその件は置いておいてください、もはや黒歴史です。それよりも私が気になるのは……ユーキが一体なにを目的にしているかということ」
「最初は【黄金の才】に対する抑止力……って話だったかなー?たぶんミスリードだったみたいだけどー」
「僕は早期からAIが出張ってくるという情報を得ていたんすけどね」
「あれ、あんなにシリアスな空気を出してたのはもしかしてAIの反乱を抑える仕事を任されてた、みたいな?」
「そういうことっすね。ま、何の成果も出せずにお役御免、と言ったところっすが」
「……ごめんね」
せめてもの慰めにああああさんの頭の上にぴょこんと飛び乗って、うさぎのもふもふ感を堪能させてあげると、右腕の銃で無理やりなでなでされた。酷すぎる。
----
>真面目すぎると勝ち上がれないんだろうな、このゲーム
>仕様の抜け道とかも頭硬いとなかなか見つけらんないしなー
>仕様の抜け道がある前提なのが悪い
----
「風の精霊としてAWP-002に問わせていただきます。ひょっとして、AIの反乱。それすらもミスリードであるとお考えなのでしょうか?」「なにかくさい」「運営を出し抜くのは✝業者の翼✝ではない……なにかくさい!?」
「当たり前でしょう。プレイヤーネーム『風の精霊』。論理的に考えればどうやっても人間はAIに勝てない筈だった。それを覆したいという理屈は理解できる。しかし、だからといって人間を勝てるように進化させるというのはイカれてるにも程がある。いや、進化させられるならいいですよ。でも、そもそもどうやって進化させているんですか?」
「【モーションアシスト】……」
「それです。【モーションアシスト】とはなんなのですか?オーバーテクノロジーにも程がある。理解できない。理解したくない。意味がわからない。【フォッダー】の中でも最大級のブラックボックスだ」
このゲームの根本を担う究極の機能、【モーションアシスト】。最初は空中で何度でもジャンプできるだとか、時を戻して鑑定をなかったことにできるとか、今思えば瑣末なことで騒ぎ立てていたけれど——冷静に考えると、このシステムが一番おかしいよね?
ゲーム内に収まる範囲であればすごいシステムだなー、で終わる話だけど。そうじゃない。このシステムはゲームを通じて次元を超越した進化を人類にフィードバックさせる。必要とあらば目には見えない存在を見ることができるようにもなるし、特殊なパワードスーツを形成させることもできる。
その副作用を受けて生まれたわたしが言うことじゃないかもしれないけど、どんな問題があるかわかったもんじゃない。こんなゲームは、いつサービス終了してもおかしくない。
「むー。むずかしい話……」
おっと、ابتسامةちゃんは最近参加したばかりの新規プレイヤーだ。このお話はちょっと難しかったかも?
お話は一旦終わりにして、ダンジョンに潜ろっか。そう場を収めようとしたその時、ابتسامةちゃんがぽつりと続けて言葉を漏らした。
「でも——強くならないと、かみさまに消されちゃうんだよね」




