第162話 信仰
さて、ところ変わって【ノーグッド】の【エリンの錬金工房】へ。ボクとめりぃさん、新しいフォルダさん、ねこですさんの4人でお邪魔する。
「おぉ!ずいぶん大所帯っ!もしかしてなにかわかったの!?」
「バッチリ……かどうかはわからないけど、掴めましたよ!これから実験に入ります!」
「おけおけ。じゃあ錬金釜と材料は自由に使っていいよ!」
そうして案内されたのは、先程の紙とインクに加えて、インク製造機と錬金釜がずらりと並んだ作業スペースだ。
「さて。ねこですさんの話では、スキルを何重にも重ねて持っていると【加護】に必要な力がこぼれ落ちる、という理解でいいんですよね?」
「じゃあ早速試してみるか」
新しいフォルダさんが紙をインク製造機にぶち込んでインクを生成し、ハンマーのスキルを【ジョーカー】で切り替えて、さらさらと文字を書き込み始める。
しかし——。
「何も起こらないな」
「書き込む文字の方も重要ってことかなー?」
「ちなみに何のスキルに切り替えたんですか?」
「ああ、【ディジーズブラスト】だよ」
ずいぶん玄人向けのスキルに切り替えましたね。受けている妨害の数で威力が上がるスキルでしたか。
「もしかしたら、重ねるスキル自体も強力なスキルである必要があるかもしれないけど……。手順が足りない可能性も考えられるにゃん」
威力が高いスキルと言えば、最近はまったく使っていない【サモン・フィーニクス】だろうか。【サイキック】の【ジョーカー】とハンマーの【ジョーカー】を合わせて4つ。それらを重ねて文字を書いてみるが、やはり変化はない。
「……ダメですね。我らがフィーニクスさんは、わりと神にふさわしいくらいの能力だと思ったのですが」
というよりは、詠唱文から察するに神そのものであると推測できる。
〈始まりの炎より生誕せし、根源たる一柱 灼熱の翼に風を受け、輪廻を廻る一羽の鳥よ。世界の狭間より森羅万象を睥睨せし神 果てなき夢幻の彼方を駆け抜け、無限の果てへと辿り着かん事を〉
この神の管轄する【祠】がどこかに存在するのかは定かではないけれど、どうせ【加護】を作るならフィーニクスさんのお力をいただきたいですね!
それから書く文字を変えてみたり、謎の儀式をしてみたりと、いろいろなことを試してみたけど紙は無反応だ。
残念ながら、また情報を集めにいかないといけなさそうだ。なんとしてもこのクエストをクリアしてみたかったのですけど……
「そうだ!【モーションアシスト】さんにお願いしてみたら?【加護】を作る解法を教えてーって」
「……な、なるほど。試してみる価値はありますね」
「いやいや、それでクエストが達成できるようならゲームじゃないからな?」
めりぃさんの言うことを真に受けて【加護】を作ってくださいー」と念じてみたが、やはり無反応だった。さすがにそこまで都合よくはないか。
「また小説の解析を続けてみますにゃん。みなさんもなにかわかったことがあったら教えてくださいにゃん!」
「了解!全力で調査するよー!卍さん、さっそくいこっ!」
「えっ、どこに行くんですか?」
「決まってるじゃん!図書館だよ!」
図書館。ゲーム内の施設名では【ライブラリー】。【ガベジー荒野】にあるオーバーテクノロジーな施設の1つで、タワー型の巨大な建物に恐ろしい数の本が収納されている場所だ。
ゲーム内の設定に関わる本から、現実で著作権の切れた本まで揃っている。とにかく情報を集めるならうってつけの場所なのだけど、いかんせん資料が膨大すぎて、逆にまったく探せないのだとか。
「錬金革命は第1巻!つまり2巻以降が図書館にあるはず!ぜひぜひ読まなきゃ!」
「自分が読みたくなっただけですね?」
「そうとも言うー」
巨大な塔の入り口から自動ドアをくぐって中に入ると、辺り一面が本、本、本。背表紙の色と文字で視界が埋め尽くされている。ここから特定の1冊を探すなんて普通は検索用のデバイスでもなければ無理な話だけど……。
錬金革命(2)を読む——そのための最適解を【モーションアシスト】に送ると、ボクの足は自動的に目的の本の場所へと向かう。アイテムの所在に関しては、この機能で探せることはわかっていた。エレベーターに乗り、3階に上がって部屋の隅へ半自動的に近づいていき、やがて1冊の本を手に取る。
ぱらりとページをめくると、第2巻では【女神】を助けるために神になった主人公が『信仰』を集めるという展開だった。神は人々に崇められないと生きていけないらしく、【権能】と【加護】を与えた人たちを使って人々を救い、集めた『信仰』の力で新たな【加護】を授けて、さらに手を広げていく。一種の経営シミュレーションのような内容だ。
この内容が本当であれば、【加護】には『信仰』というリソースも必要になるのだろう。しかし、どうやったら『信仰』なんて集められるのか?
「みなさん、『信仰』してくれますか?」
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>唐突になんか宗教始めだしたぞこの人
>仮にも配信やってる卍さんで信仰が足りないならもう無理だよね?
>諦めろ
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「いや、卍さんよく見てー!『信仰』エネルギーは捧げ物とかで得られるみたいだよ!今まで卍さんは貢ぎ物とかされたことあるー?」
「ないですね、これは間違いありません!みなさん、貢ぎ物ください!」
配信で堂々とクレクレ宣言を始めつつ、ねこですさんと新しいフォルダさんにこの情報を送信する。とんぼ返りで錬金工房に戻ると、2人がせっせと工房の隣に建物を建築していた。
「これは……【祠】ですか?」
「そうなのですにゃん!『信仰』が必要ならそれを貯める施設も必要なはずですにゃん!」
【祠】の中を見ると、すでに貴金属や宝石など、価値だけは高そうな貢ぎ物がいくつも詰め込まれている。これで足りるのかはわからないけれど、スクロールに文字を書き込んでみよう。
「ボクの信仰するスキルは【サモン・フィーニクス】ですからね。スキル名をそのまま書いてみますか。さらさらーっと」
愛嬌のあるきゅーとなフォントで『さもん・ふぃーにくす』と記入してみた。この時点では何も起こらない。
しかし、試しに【祠】に貼り付けてみると——視界にシステムウィンドウが表示される。どうやら新しいスキルを取得できたらしい。
「お、なんか覚えましたよ?」
「えっ、もしかして【加護】!?見せて見せてー!」
ボクは新しく手に入れたスキルの効果を共有してみなさんにお見せする。
【不死鳥の加護】
[パッシブ][スイッチ][ブレッシング][炎属性][妨害]
効果時間:30s
効果:[炎属性][スキル]の[命中時][一定時間][キャラクター]に[継続的]に[ダメージ]を[与える]。
攻撃スキルによって継続ダメージの妨害を付与することができる受動スキルだ。ボクの型とはこれ以上ないくらいに合致しており、強力なスキルと言える。
「【不死鳥の加護】というわりには攻撃的ですが……。フィーニクスの持つ【フィーニクスフレア】をイメージした受動のようですね」
「作成に使用したスキルに応じた受動になるのか」
「なるほどですにゃん。どのスキルを使えばどんな【加護】を生み出せるのか。研究が楽しみですにゃんね……!」
ねこですさんは更なる仕様の解明に取り組むつもりらしく、取り出したメモ帳に研究案の記入を始めた。
「というわけで、今回はお友達と協力して、クリアの方法がわからなかったクエストを達成してみました!この配信がいいと思ったら高評価をお願いしますね!とがみんの配信には負けられません!」
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>情報提供助かる
>とがみんのチャンネル登録しました
>とがみんのチャンネルに星5入れました
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「ちょっと、冗談ですよね!?百歩譲るとしてもボクの配信も一緒に評価してくださいよねー!?」




