第161話 詫び石
「うちの子は【時神】に愛されしゴブリンさんだった……?じゃあ、今から10回くらい殺害して【空神の加護】をもらえば」
「……さすがにこれは少し不公平という奴じゃな。没収しても構わんかね?」
「えー?まだ1回も実践で使ってないんですけど?」
「ほら、これがアリだとそこの【シャーマン】とか【空神】を100個くらい乗せてくるよ?なんか召喚しまくってるよ?」
「消してください」
「ほい、とは言ってもわしにはその権限がないからのう。ユーキに消してもらうぞい。わしは奴とメル友じゃからな」
そう言って空中に映し出されたボードに思念波で文章を入力し、外部に送信するおじいさん。それから少しして返信が返ってきたようで、メールの文面をボクに見せてくれた。
「『このバグは著しくバランスを崩すため修正します』……どの口が言ってるんですか??
いや、同じくらいおかしい要素、他にもたくさんあるよね?」
「後は詫び石が1つ届くそうじゃ」
「詫び石?」
「【四つ葉のクローバー】じゃな」
「許した」
超レアアイテムじゃないですか、一度は使ってみたかったんですよねー!
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>今オレのところにもクローバー届いたぞ!
>卍さん有能かよ。もっとバランス崩壊バグ報告してくれ
>チャンネル登録しました!!
>今度からはダメ元でバグ報告してみようかな
>目標が達成されたからってのもあるんじゃない?もう別にこんなのなくても普通にAI勢と対等じゃん
>これからはあらゆるバグが修正されてフォッダーが正常化される……?
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どうやらボク以外のところにも詫び石が配られた様子。まあ、こっそり修正して詫びるだけならまだしも配信者であるボクだけがクローバーをもらったら荒れますしね。
さて、【四つ葉のクローバー】のことは一旦置いておいて、いよいよ本題に入ることにする。
「あの、【加護】ってどうやって与えてるんですか?」
「え?コンソールからプレイヤーを指定してぽいぽいっと」
「いや、そうじゃなくて世界観の設定的な……」
「あっ……ごほん。【加護】の与え方じゃと?わしは【空神】様から【加護】を与える力を頂いただけじゃからな。この感覚を説明することは出来ぬし、説明してもおぬしには意味が無い事じゃ。根源となる力が必要じゃからな」
先ほどまでメタな雰囲気を引きずっていたおじいさんが、今度は急に真面目な口調で世界観について教えてくれる。なるほど、根源となる力が必要、ですか。
「根源となる力、とは具体的になんなのでしょう?」
「我らが【空神】であれば【『アイテール』】、あるいはその更に大元となるスキルじゃな。【加護】とはあくまで1つの強大な【権能】からこぼれ落ちた副産物。つまり、【加護】を作るならば特定の強力なスキルを元に作成する必要があるというわけじゃ」
「あの……。【加護】を作りたいなんて目的、話しましたっけ?」
「はて?ばあさんや、今日の朝飯はまだかのう?」
ボケたときの定型的なセリフでボクの疑問を躱すおじいさん。NPC役なのですから、どういうクエストがあって、どういう理由でここにやってきたのかくらいは、何も言わずとも推測がついてしまったのでしょうね。
ボクの目的がわかっていたということは、先ほどの会話は最初から用意されていたクエスト用のヒントだったということだ。まあ、本来なら課金者しか来られない場所でヒントを聞けるっていうのは、ちょっとどうかと思うけれど……。あるいはそんなルールは破られる前提でユーキさんがクエストを構築したんでしょうかね。
ヒントはいただいたので、そのままめりぃさんを連れて【ディスポサル城下町】へ駆け戻ることにした。
先ほどねこですさんから、答えが見つかったかもしれないと連絡があったのだ。
さっそく【アイテムショップ】に入ると、カウンター前でねこですさんが巨大なハンマーをぶん、と構えて出迎えてくれた。なぜか新しいフォルダさんも一緒だ。
「おお!来てくれましたかにゃん!さっそくこれを持って錬金工房に行きましょうにゃん!」
「おい……壊すなよ?貸しただけだからな?」
ぶんぶんと店内でハンマーを振り回すねこですさんとそれを止める新しいフォルダさん。どうやらこのハンマーは新しいフォルダさんの物らしい。疑問符のマークが刻印されており、未鑑定装備であるゆえに能力はわからないのですが、そこそこ強力な効果がついてるのでしょうか。
「そのハンマー、どんな効果がついてるのー?」
「ああ、これはこの前の【サバイバル杯】で回収した素材で作った神エンチャ装備だ。聞きたいか?」
よほど自信がある装備なのだろう。これまでただひたすらに装備を作り続けて厳選していた新しいフォルダさんが、胸を張って誇るほどの効果。……非常に気になる。
「このハンマーにはだな——」
「このハンマーには【ジョーカー】が2つもついてるのですにゃん」
「【ジョーカー】が2つ!?」
【サイキック】の持つ、他の職業のスキルを1つ選択して使用することができる強力なスキル、【ジョーカー】。それがこの装備についてるということは、このハンマーは実質的に任意のスキルを2つ、自由に付け替える事ができるという事になる。
「俺の装備なんだから俺に説明させてくれよ。ようやく完成したんだ。……これで職業も【サイキック】にすれば3つのスキルを任意に選べる。ついに生産職も引退かね?」
「【アンプルアロー】は作ってくださいよ?ところで、それを今から何に使うつもりなんですか?」
神装備だということはよくわかったけれど、どうやらこれを錬金工房に持っていくつもりらしい。【加護】の作成の役に立つのだろうか?
「先ほどの配信がヒントになったのですにゃん。小説の方にもちゃんと書いてありますにゃん?」
そう言ってねこですさんは小説の該当ページを開いて見せてくれる。……これは本当に最初の方ですね。ボクが読み上げたあたりの文章です。
「『私はブラック会社の歯車。今日も今日とて16時間労働で働き続けている。疲れたなー。キキーッ。そこにトラックがやってきて、私は生を終えた。暗闇の中で謎の声が響く。すまん!手違いでお主を殺してしまったのじゃ。お詫びにチートスキル、錬金革命をあげて異世界に転生させてやろう!やれやれ、私はそんな力、当の昔に持っているのだが』……このシーンですね?主人公が錬金革命を手に入れるシーンのようですけど……」
「よく見てくださいにゃん!主人公は錬金革命をもらう前から錬金革命を持っていた。つまり、このタイミングで同じスキルを2つ入手したのですにゃん!これが【加護】を作るのに必要な強大な【権能】の正体!」
な、なるほど。同じスキルを2つ手に入れると強くなる!
つまり——さっきまでのゴブ蔵って、もしかして本気で最強だったのでは?




