第160話 クアドラスキル
完全にノーヒント。材料だと言われている謎の液体と紙だけを渡されて新しい【加護】を世に送り出すことになったボク。
でも、【錬金革命 〜IQ85の私が約1ヶ月で世界の深淵を観測してしまった件について〜】を読み進めていけばヒントは得られるかもしれない。とりあえず冒頭から軽く読んでみよう。ボクが配信で鍛えた朗読スキルLv99が光りますね。
「『私はブラック会社の歯車。今日も今日とて16時間労働で働き続けている。疲れたなー。キキーッ。そこにトラックがやってきて、私は生を終えた。暗闇の中で謎の声が響く。すまん!手違いでお主を殺してしまったのじゃ。お詫びにチートスキル、錬金革命をあげて異世界に転生させてやろう! やれやれ、私はそんな力、当の昔に持っているのだが』……はい、どうでも良すぎですね!」
ライトノベルに書かれている架空の錬金術を真に受けないでください!
そう突っ込みを入れながらもぱらぱらとページをめくり、該当の錬金が描写されているページまで読み飛ばしていく。
そこではお仕事をサボって何もしない【女神】様の代わりに主人公が英雄に【加護】を与え、『神聖なる大木から作り出した紙』に文字を書き込むことで【加護】を新しく生み出す、というシーンが描かれていた。
漢字とかを書いてみればいいのかな、と思って『スクロール』にさらさらーっと炎とか水とかの文字を書いてみたけど、当然ながら無反応。
そんなものが実在しないから無反応なのか、それとも手順が間違っているだけなのか、さっぱりわからないのが非常にもどかしい。
「もっと読み込んでみれば、ヒントが隠されているのでしょうか。視聴者さんはこの作品、読んでみた方はいらっしゃいます?」
攻略サイトでも情報が記されていない、ちょっと異彩を放つクエストだ。当然ながらやってみようとした人もいたようで、この本を10回は読み返したという方もいらっしゃった。
しかし、暗号でも隠されているのか。基本的にはただの物語にしか見えない内容で、先程ボクが目をつけた該当項目以外に関連しそうな要素はない。
主人公は【女神】様から力を借りて神の代行者をやっている、という設定があるようなのだけど、もしこれが関わっているのであればまず神になる方法を探さなければならない。お手上げだ。
「エリンさんはどういう方面でアプローチしていったんですか?確か、前回は新しいスキルを作ってましたよね?」
あの時も思い返せば文字を書き込んで仕上げていたように思うけど。
「ああ、あれ?あの時も今キミがやってたのと同じ感じ。作りたいスキルの概念を文法を気にせずに書いてただけ。その作品に載ってるよ?」
「マジですか!?」
ぺらぺらっと前のほうに戻ってみると、ほんとだ!やってる!この本ってマジなんだ!指先がちょっと震える。
性質的には今回の作り方のほうが上位互換であるらしく、辛うじて成功はしていた前回の作り方ではマッチの炎程度の出力のスキルしか作れないのだとか。そうなれば、強いスキルを作れる今回の手法を試したくなるのも当然だ。
「といっても作り方がわからないんじゃ意味ないですよねー。とりあえずこの本はねこですさんに調べてもらうとして……そうですね。専門家に聞きに行ってみましょうか」
思い立ったが吉日。さっそくこの件に詳しい人に意見を聞きに行くことに!
前代未聞のクエストについて詳しい専門家とは誰のことか。ユーキさん?違いますよ。たしかにそちらも詳しいでしょうけど、今回は……。
というわけでやってきました【世界の果て】!断崖絶壁を«疾風迅雷»で突き抜け、その先にある【空神】さんの【祠】を訪れた。以前に訪れたときと全く変わらない様子で、祠の中にはおじいさんが入っていますね。
「こんにちはー!」
「ほっほっほ。【空神】の寵愛を受けし者か。久しぶりじゃな。なんの用じゃ?」
そう、餅は餅屋。【加護】は【加護】屋!このおじいさんは【空神の加護】を提供してくれるすごいお人だ。もしかしたら作り方も知っているかもしれません!
そんな考えでこの場所を訪れたのだけど、どうやら先客がいるらしい。おじいさんの隣で祠の中に座っている人がいた。
「あっ、卍さん!こんにちはー!」
「めりぃさん!?」
新規のプレイヤーならまだしも、めりぃさんは既に【空神の加護】くらい持ってるはずだけど。こんな所でなにをしてたんだろう?
めりぃさんはボクを見てぴょこんと立ち上がり、とことこと近づいてくる。
「今日は精霊たちに【空神の加護】を取得させに来たんだよー。浮ける子たちだから恩恵も多いしねー」
そう言って精霊を召喚して、ふわふわと周囲に漂わせるめりぃさん。そういえば、召喚モンスターにもスキルを覚えさせられるんでしたね。うちのゴブ蔵にも覚えさせときましょう。
「ゴブー!」
というわけで久々に呼び出したゴブ蔵に【空神の加護】を付与してもらい……。
「む?ちょっと待って?今スキル見たけどこのモンスターおかしいんじゃが?」
「なんですか、唐突にメタ発言しちゃって」
彼らがただNPC役の演技を行っているだけのAIだということは既に知ってますけど、いくらなんでも雰囲気を壊しすぎですよ。
そして、おじいさんは腰から取り出した虫眼鏡のようなもので、注意深くゴブ蔵を観察し始めた。うちのゴブ蔵、そんなに珍しいですかね?
やがて観察を終えて、アイテムを仕舞ったおじいさんが一言。
「なんで【時神の加護】を4つも持ってるの……?」
「えっ」
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>草
>4重にスキル持ってるとか時神に愛されすぎだろ
>なんかそんな兆候あったか?
>というか時神の所で加護貰ってからは呼び出しもしてないな
>今過去の動画見て察したわ
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過去の動画……?なにかありましたっけ。とりあえず【時神の加護】を貰ったときの動画を見てみましょうか。
【メニュー】から空中に動画を映し出して、自分の配信を再生してみることに。
さて、どれどれ……?
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> 再び手元に戻ってきた銃からゴブ蔵を呼び出す。これで4人が揃った。
>「同じ人が4つのボタンを同時に押さなければならないんでしたよね?」
> 4人になったゴブ蔵が四方に散らばり、各々の場所にあるボタンを押す。すると、あっけなく扉が開いた。
> その扉に超高速で突撃するボクとゆうたさん。まるでオートロックのマンションに突撃する訪問販売員のような俊敏かつ大胆な動き!
> しかし別にそこまで急ぐ必要もなかったようで、後からとことことゴブ蔵達が入ってきた。その後にゆっくりと扉が閉まる。
>「……まあ、本人が入れなかったら意味ないですからね」
> 扉の中には【祠】があり、その中には例によって【加護】担当のおじいさんがいた。
>「ほう、【時神】の【権能】を持つ者が同じ時代に6人も訪れるとは……世界の終わりも近い、か」
> などと意味深な発言をしながら【時神の加護】を与えてくれるおじいさん。
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「草生えますね」




