第159話 エリンの錬金工房、再び
「さてさて、本家本元!きゅーと&てくにかるちゃんねるにようこそ!」
先程はとがみんが配信を行っていたので、今度はボクの番だ。
といっても、配信のネタは全くない。【マクロ】についても〈進化〉についても、だいたいのことは語り尽くした。
このままではとがみんに完全敗北してしまう!どうする?いつもどおりのお散歩配信しかないのか?
とりあえずあかりちゃんさんの作った攻略サイトを開いてみる。もし彼女がまだ調べきっていないデータがあれば、それを検証してみるのも面白いかもしれない。
現在地である【ノーグッド】の情報を開いてっと。
『ノーグッドに現存するすべてのクエストを網羅したつもりだよ!まだ書かれてないクエストの情報提供待ってるよー!』
『町にいるNPCの好物アイテム特集!好感度を上げて発生する特殊なイベントをまとめてみたよ!』
『【驚きの結果に】転生屋さんで歌を歌って営業妨害してみた結果!!』
「すごすぎる……!」
ボクなんて【エリンの錬金工房】のクエストくらいしかやってないというのに、このサイトには20個も30個もクエストデータが載っているんだ。
そして一見すると営業妨害にしか見えない『歌を歌ってみた』動画だが、【転生屋】のNPCは歌が大好きという設定があるらしく、上手に披露できるとレアなカードをもらえるのだとか。
ボクの100倍くらい完璧すぎる情報の充実っぷり。もしやとがみんと配信戦争をしている場合ではないのでは……!?
「みなさん、あかりちゃんさんのチャンネルを登録しても、ボクのチャンネルは外さないでくださいね!!!」
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>そもそも登録してない
>毎日外してるよ
>なんでわざわざそんな手間をかけてるの?
>外しましたって言うためには登録しないといけないからな
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ある意味非常に訓練された視聴者っぷりである。この分だと登録を外すためだけに視聴してくれる方々も多数いそうだけど、そんな好意に甘え続けるわけにはいかない。
何かすごいことをして人気をかっさらわないと!
そんな炎上秒読みのSNS利用者みたいなことを考えながら、あかりちゃんさんのサイトから面白そうな情報を探す。なにか面白いクエストとかないかな?難易度が高すぎて誰もクリアできないクエストとか。
「おっ、これやりましょうこれ!プレイヤーを辻斬りで100人ぶち殺すと超レアアイテムがもらえるらしいですよ!」
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>完全に暗黒道に落ちてて駄目だった
>レアアイテムってなんやねん
>四つ葉のクローバー
>総勢100人を不幸にして得る幸せは美味いか?
>美味いに決まってるだろ
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ちなみにこのゲームはPKされる側のデスペナルティなんてないに等しいので、談合によって余裕で達成できる。PKする側は犯罪者になるけれど、そっちはそっちでしばらくNPC系施設を利用できないとか、倒されたら金をぶん取られる程度のペナルティしかない。
というわけで冷静に考えると条件のインパクトの割には余裕で達成できるので、これは無し。
他には何かないかな?攻略ページを軽くスクロールしていると、『達成条件不明』という魅力あふれる備考が記されたクエストが見つかった。
場所は【エリンの錬金工房】。先日クリアしたクエストを前提として出現するクエストらしく、情報を秘匿しているプレイヤーはいるかもしれないが、少なくともあかりちゃんさんは達成できなかったクエストらしい。
クリアはできなくともせめて概要くらいは記されているかと思ったけど、このクエストに関してはそれすらない。実際に行って確かめてみるしかないね。
「では今回の目標は、このあかりちゃんさんがクリアできなかった謎のクエストをクリアすること!これでボクのほうが配信者として上だということを証明するんです!行きますよ!」
さて、やってきました【エリンの錬金工房】。中に入ると同時に、工房の奥から爆発音と衝撃が走る。
前回もそうだったね。エリンさんの錬金釜が爆発した音だろう。
「あちゃー。失敗失敗。やっぱり【スクロール】はなかなか作れないなー」
「おや、また【スクロール】を作っているんですか?」
「おっ、そこの方は前回協力してくれた方じゃないですか!!よし、今回も協力してくれたまえー。成功したらまた【スクロール】をあげるよ!」
「いいでしょう!何でも言ってください!材料が必要なんですか?地の果てまで回収に行きますよ!」
「いや、今回は素材は揃ってるよん。これが成功すれば、新しいスキルを作り出せるはずなんだ」
「新しいスキルですか。【スーパーエモート】みたいな?」
スキルがもらえるクエストというのは非常に気になる。どんなスキルであっても新しいことができるようになるというだけでメリットがあるからね。
「キミは【加護】というスキルを知っているかい?」
「【空神の加護】や【帝神の加護】みたいな奴ですか?」
「その通りっ。強力な効果を持つ【加護】の力、これを人工的に作り出すことができるのさ」
そう言って自信満々に腰に手を当ててふんぞり返るエリンさん。
人工的な【加護】ですか。【加護】と言えば【黄金の才】の保持者にのみ与えられるという特権とされている。だからそれを【黄金の才】と関連性なしに作ることができるというのは、システム的にもストーリー的にも気になる話だ。
「ちなみに材料が揃ってるならどうやって作るんですか?何が足りないんですか?」
「わかんない」
「えっ」
「たくさんあるから組み合わせてなんか作って」
「えっ」
ここってエリンさんの錬金工房じゃなかったですっけ?たまたま訪れたプレイヤーにアイテムの開発を丸投げしちゃうんですか?
そう言われてエリンさんに見せられた材料は、【魔法のタコ墨】と、文字を記すための『スクロール』だ。このスクロールは、基本的には何かを書き込むだけで成立するらしい。
「逆に作り方がわからないのになんで作れるって確信を持っているんですか?」
「本屋さんに入荷されてた古そうな本で見たんだよ」
そう言って【錬金革命 〜IQ85の私が約1ヶ月で世界の深淵を観測してしまった件について〜(1)】というタイトルの本を見せてくれた。
まず、参考文献が怪しすぎる……!なんでそんなもの信用しちゃってるんですか!?
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>ここまで来たら作るしかないよなァ!?
>攻略はよ
>大丈夫だ。クエストとして実装されてる以上、クリアはできる
>やっちゃえ卍さん!
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……本当に大丈夫かなあ?




