第152話 超速体当たり
【マクロ】——ここ最近で急速にテクニックの開発が進んでいるシステムで、無限の自由度を誇り、ありとあらゆるスキルを組み上げられる神システムだ。
基本的には『モーションを記録して再現することができる』という仕組みなのだけど、正確には大別すると2つの再現方法がある。
「初見さんもいると思うので復習していきましょうか。1つはそのままですね。記録したモーションを再現する。こちらの場合は、記録したモーションが絶対に再現されるという特徴があります」
つまり、AGIが『999999』くらいないとできない動作を記録してしまえば、AGIが『1』のときでも全く同じ動作が行えるということ。さすがに極端な例ですけどね。
「さらにこの動作はステータスだけではなく、他のあらゆる状況を無視して再現されます。ボクの«疾風迅雷»は馬がいないのに馬に乗って突撃する動作を行えますし、«階段革命»は階段がないのにそれを無視して登る動作を再現できる、ということです」
----
>下手なスキルより強いモーションを記録できるよねこれ
>STRによるダメージ倍率みたいな要素は残念ながら再現できないっぽい
>あくまで再現してるのは動きだけだからね
>もしかしなくても壁抜けできるよねこれ
>壁抜けというか、障害物は破壊して突き進んだりできるだろうな
>じゃあ不壊に体当たりしたらどうなるの?
>矛盾対決かな?
----
〈不壊化〉との対決ですか。その点は検証していませんでしたね。早速試してみましょうか!やっぱり1人で考えるより、みなさんと一緒に考えたほうがいろんな点に気づけますよね。
「では、やってみましょうか!とりあえず家をどーんと設置してっと」
【ストレージ】から【ホーム】を取り出すと、ボクの足元から家がせり上がってくる。それから屋根をぴょんと飛び降りて、家の方を向いて準備完了!
「よし、では試してみましょう!«疾風迅雷»!」
宣言と同時に馬に飛び乗り、凄まじい速度で家に突進していくボク。あれ?今さらだけど、これめちゃくちゃ怖くない?と思う間もなく、圧倒的なスピードで我が家に正面衝突した。
その瞬間、極められた速度から算出された最大級の物質干渉力によって、ボクの家が派手に弾き飛ばされる。固定されていない建物は壊れずにそのまま吹き飛んでしまう、盲点でした!そう思いながらも、ボクのHPはきれいさっぱり全損した。
----
>一瞬で死んでてだめだった
>これ相手にこの速度で体当たりしたら死ぬよね?
>巻き込み自爆テロやめて
>ダメージと物質干渉力は比例するわけではないけど、AGIを上げれば速度補正込みで威力上がりそうだな
>これマジ?STRいらねーじゃん
>STRが高いプレイヤーが圧倒的AGIで体当たりすればもっと強い
>天才かよ
>これは落下ダメージと同じような判定だと思われるからプレイヤーに体当たりしてもこの威力は出ないよ
>家に体当たりしたら死ぬけどプレイヤーに体当たりしたら死なないってどういう事やねんこのクソゲー
>でも弾き飛ばされた敵が地形に当たったら死ぬぞ
>リアリティが皆無すぎて笑う
----
「じゃあ敵に体当たりしてから«疾風迅雷»をキャンセルしたら自分は死なないけど相手は地形ダメージで死にますよね?」
【サバイバル】における経験で、«疾風迅雷»を中断するときに慣性の法則は働かないことがわかっている。
もちろん体当たりされた側は地形ダメージを受けるまでに猶予があるし、それこそ【マクロ】を使用して慣性を抑えることはできるが——おそらくこれからの環境では、これに対処できないプレイヤーは詰む。
「〈ホームタクティクス〉の次は〈超速体当たり〉が『Tier 1』……ということでよろしいですか?」
----
>フ ォ ッ ダ ー 終 わ っ た な
>そろそろ終わりすぎて一周回って始まってきた
>フォッダー終わらせた責任取れよ!
----
「お、終わってないですからね!?むしろ戦略性が出て面白いと思いますよ、ボクは!?」
配信プレイヤーとしてはいかに無理筋であろうと自分のやっているゲームを擁護しないわけにはいかない。新しいテクニックが誕生したことによるゲーム性の向上について理路整然と解説し、なんとか納得(?)させた。
と、そこでチャットを通じてメッセージが届いた。
「あっ、どうやらゲストの方が到着したみたいですね」
実は【マクロ】について実験や解説をすると決めてから、裏でこっそり連絡を取っていたプレイヤーがいるのだ。
【ストリームアイ】の範囲外からこちらに手を振っているそのプレイヤーは——『技能士』ことメグさんだ。
「こんにちはなのです!今日は【マクロ】について語る回、ということでお呼ばれしましたのです」
「どうも、お越しいただき大変感謝です!……そういえばメグさんはボクがログインした頃にはすでにログインしていたようですけど……」
何度もログインと気絶を繰り返せば耐性が付くとはいえ、メグさんはかなり早期に活動していた様子。恐怖攻撃に強いのかな?
そう聞いてみると、メグさんは深くため息をついてからその理由について語ってくれた。
「うちにも居候がいるのです。それで慣れちゃったのです……」
「ほえー。それってつまり、『異形』の居候ってことですよね?どういう感じの方なんですか?」
「べ、別に普通なのですよ?いや、語るまでもない感じの『異形』なのです。うん」
自分でうんうんと頷いて強引に話を打ち切ろうとしているところを見るに、どうやらよほど変な人のようだ。まあ向こうが聞かれたくないと言うなら突っ込む必要はありませんね。
「なるほど。そういう人って結構いるんですかね?よくこれまで表舞台に出てきませんでしたね——おっと、本題から逸れてしまいました。【マクロ】の話に戻りましょうか」
「記録したモーションを忠実に再現する、という仕様については解説が終わったですよね?では、もう1つの手法は【モーションアシスト】に対する命令文の送信を再現する、というものなのです」
記録の方法は簡単だ。行動を【モーションアシスト】に送信する瞬間を【マクロ】に記録する。これだけで〈オートマクロ〉〈オートジャッジ〉を利用することができる。要するに、「行動する前の考え事」の部分だけを切り取って使う、ということだ。
「戦闘中だったので深く解説はしていませんでしたけど、ボクの«ガゼルフット»もこれの応用ですね」
「あれはびっくりしたのです。動作の始動に条件をつけることによって、条件を満たしたときにだけ発動する【マクロ】を作れる、ということなのです?」
「そういうことですね。これも、応用の幅がかなり広そうですよね?」
メグさんの居候については連載「サキュバスさんがおうちにやってきた」にて。
テクニックその84 『超速体当たり』
物質干渉力は速度に影響して増減します。なので【マクロ】によって超速度で体当たりをすれば凄まじい勢いで相手を弾き飛ばす事ができます。体当たりによるダメージ自体は速度が速くても物質干渉力が大きくても特に変わりがないのですが、その勢いのまま壁や地面に当たると〈物質干渉力=火力理論〉のテクニックによって圧倒的ダメージを叩き出すことができる、というわけです。
阻止する手段は色々とありますが、決まれば間違いなく一撃必殺!




