第149話 終末のゲーム
AWP-002さんから送られてきたメールは7割5分がただの負け惜しみで、残りはAIである自分自身に対する自虐ネタだった。
人類じゃないよ!なんて主張している人がヒューマンエラーで負けてしまったんだからどうしようもない。事実だけを踏まえるならばAIは知性を得たが故に弱体化してしまった、ということになってしまう。
ある意味では彼らのアイデンティティそのものを崩壊させるような事件であり、落ち込むのも無理はないのだけど……。『私は人類を超える道具であるはずなのに』だとか『世界を統べる奴隷として人類の下に立つものです』だとか、傲慢なのか謙虚なのかよくわからない謎の文章がシュールで面白い。
とりあえず『【モーションアシスト】を使えば最強のAIに進化できますよ』とアドバイスを送っておいた。ぜひ頑張っていただきたい。
それからユーキさんに『もう裏はないんですよね?』と確認を取ってみたのだが『…………ないですよ?はい』などというわざとらしい返信が返ってきた。何かあるようならこんなネタじみた回答は送ってこないはずなので多分大丈夫なのだろう。
そもそも最近は【モーションアシスト】というこのゲームの根本たるシステム自体に闇を感じ始めているのだけど。人間を進化させる人体実験とかそういうのじゃないんですよね?
まあどういうゲームであったとしてもボクはゲームを配信していくだけ。長いこと懸念になっていた【フォッダー】の闇も見てしまえば大したことはない。これからは伸び伸びとプレイしていけそうです!ボクたちの戦いはこれからだ!みたいな?重荷になっていた問題が解決して、今夜はぐっすり眠れそうですね!
その後はご飯を食べて動画をアップロードしてお布団にダイブ。すやすやと休んだ。
「おはこんにちばんはー!きゅーてくちゃんねるにようこそー!!」
そして次の日、【ノーグッド】に清々しい気持ちでログインする。
いやーほんっとうに肩の荷が下りて、すっきりした気分ですよ!今日は何をしようかな?アップデートで追加された新しい街を探索していきましょうかね?
この【ノーグッド】の街すらもそこまで深掘りできたわけじゃありませんからね!何か見落としているかも?
そんな考えから軽く周囲を見渡すと、腐った肉塊がどろっと溶けたような色をした新手のスライムが道路を這いずり回っていたり、人間の腕が10本くらい生えた謎の鳥が手をぱたぱたさせながら、空を飛び回っているのを目撃してしまった。
「……なんなんですかこれ?」
「جئت للعب」
「あっ、『異形』の人だ。なんて言ってるかわからないけど多分そう」
グロテスクにもほどがある謎スライムが名状しがたい奇っ怪な言葉を発しながら身体を手のように変形させて握手を求めてきた。
「あっ、はい。こちらこそよろしくお願いします?」
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「ってダメじゃん!また視聴者さん死んじゃいましたよ!もうログインできなくない!?」
なんなの?『異形』さんの間でこのゲームが流行り出したの?もう耐性がない人はログインできないよ?AIが暴れる事件より、今起こってる事件のほうがやばいですよ?
目の前で起こっている現実を直視できずに混乱していると、【パーティ】申請が送られてきた。
ابتسامةさん、どうやら目の前の肉塊さんのようだ。よくわからないけど一緒に狩りでもしたいのかな。承諾を押して、とことことついていくことにした。
そしてやってきたのは【ダム水源】。ここは少し前に戦った【ライオンキング】というモンスターがいる場所だ。耐久力が高く、ちょっとしたボスモンスターレベルのHPを持った雑魚モンスターなので、ابتسامةさんのステータスによっては少し厳しいかもしれないけど……。
「أبذل فيها جهدي」
「頑張ってみるって?じゃあやってみましょうか!あっ、あそこにいますよ、【ライオンキング】!」
【ライオンキング】がボクの声に反応してこちらを見やった。しまった、やっちゃったなーと思った次の瞬間、ابتسامةさんを視認した百獣の王様は白目を向いて気絶した。
……やっちゃったなー。
「とりあえず、動けないみたいですし、このまま攻撃してみますか?」
「أنا أفهم!」
ابتسامةさんはわかった!と元気よく返事して、ぬたりぬたりと地面を這いながら【ライオンキング】に近づいていく。接近戦対応の職業なのかな?となると【ナイト】か【アサシン】か。相手が動かないので支援する必要もないだろうと、見学していると、ابتسامةさんはぴたりと【ライオンキング】に張り付いた。
それからابتسامةさんは【ライオンキング】の身体を掃除機で吸い込むかのように、ずずーっと取り込んでいく。……うーん。これはあらゆる意味で終わりましたね。
ابتسامةさんに取り込まれてHPが0になったのか、ドロップアイテムだけがボクの【ストレージ】に入ってきた。
そして次の獲物を探して、ずるずる、とことこと周囲を歩き回っていると、また【ライオンキング】を発見した。おーい!と声をかけると、こちらを見た【ライオンキング】は再び気絶。ابتسامةさんがぬたりぬたりと這い寄っていき、ずずーっと体内に取り込む。
「負ける要素がない……」
動かない相手を一方的に取り込む危険生命体と、それを眺めてドロップアイテムだけいただいていくボク。
まーた配信的には最悪すぎる見栄えですね。まあ被害を拡大させないように今は映像をカットしているんですけど。
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>卍さーん、映像見えないよ?
>また卍さんが隠蔽工作しているぞ!
>なんの隠蔽工作だよ
>着替えシーン
>マジかよ早く映せ
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「あー、今ちょっとR-18なプレイヤーさんといっしょに狩りしてるんですよ。だから映せないというかなんというか」
R-18の後ろにGがついてるけどね?そんな適当な言い訳をしてしまったばかりにコメント欄は逆に大盛り上がり。現地に見に行くだとか早く映さないとチャンネル登録外すだとか、なんにも映ってないのになぜか勢いが増して視聴者が増えてきた。
なんでこんなこと言っちゃったんだろう?とあわあわしていると、ابتسامةさんがボクが配信しているということを知ったのか挨拶をし始める。
「السادة مرحبا!」
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「よし、解決しましたね!!」




