第147話 異界からのお客さん
AWP-002を倒して中央エリアを制圧したわたしはこの【サバイバル杯】において圧倒的な地の利を得ることになった。
【トラップハンター】を利用して好き放題に自慢の庭をデコレーションしていく。
おまけにAWP-002が抱え落ちした【エリクサー】もたくさんいただいたので、ごくごくと飲みながら【イグニッション】で強化した罠を設置していく。
「卍荒罹崇卍さん!このわたくしがAIを撃破したあなたを倒しに——むぎゃー!?」
「ごめんね♥そこにはエリクサー6本分で作ったHPとMPが100%減少する罠があったんだ」
「フハハハハハハ!最新の理論によって開発された技術でこの戦いに終止符を」
「あっ、そこには余ってた猛毒がたくさん詰まった落とし穴があったの。ごめんね」
「はろー!あかりちゃんだよー!今から有名配信者の卍さんに挑み……」
「«獄炎»【イグニッション】!【ソウルフレア】!」
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>あかりちゃんだけ直に殺しに行ってて駄目だった
>ライバルに恨みがありそう
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AWP-002を倒した時点で、この【サバイバル杯】に敵はいない。定点狩り戦法で着々と磐石の陣地を築いていき、戦いは一方的だ。
余裕の笑みが浮いた、その矢先に異変が起こる。
背筋に冷気が走るような恐怖の思念が森の奥から発せられたのだ。それはさながら《SANチェック》のような名状しがたい不気味な気配。明日香ちゃんかな?でも、明日香ちゃんの《SANチェック》はもう克服したはずなんだけどな。
なんだろう、と恐怖が発せられる方向をまじまじと見つめ——。
「ひゃっ!?ななななななんですかアレ!?」
そこには思わず素に戻ってしまうほどの衝撃的光景があった。
10、20、30……数え切れない赤黒い触手をうねらせ、空中をふよふよと浮かぶ得体の知れぬ物体。
その姿形は不定で、最初に目にしたときは正六面体のような形をしていたのだけれど、次の瞬間には七面体の姿に、あるいは五面体になったりと、まるで映像が瞬時に切り替わるかのように、角の数が増減していく。
まるで意味がわからない。角が増えたり減ったりすることによるメリットってなんですか?どういう現象なの?
「あの変なのも【転生】システムを活用したモンスターのプレイヤーなんでしょうか?みなさん、知ってます? コメントで教えて?」
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「あれ?みなさーん?」
……死んでる。今までの《SANチェック》に耐えられたみなさんも、あの多角形生命体が放つ狂気には勝てなかったご様子だ。
「مرحبا هناك」
「なんかしゃべってますね」
おそらくなにかメッセージのようなものを送ってきているのは伝わるのだけど、その内容はまったくわからない。モンスターのアバターに由来した仕様なのだろうか?
「まさかこんなことになるとは♥」
「おや明日香さん、いらっしゃい」
ボクの設置した地雷原を抜けてきたのか、いつの間にかボクの隣にいた明日香さんが物体を見据えながらつぶやく。どうやらあのプレイヤーについてなにか知っているようだけど……。
「あれは『異形』ですわ。どうやらこのゲームに興味を持ってログインしていたみたいです♥」
「はい?」
さらっと当然のように衝撃的事実を告げる明日香さん。『異形』って……以前に明日香さんが語っていた超常的な存在ですよね。つまりあの人、現実でもあの姿ってことですか?
現実の姿をスキャンしてアバターを作成することができる『VRステーション2』に則った仕様通りの現象、こういうのも〈改造行為〉に含まれるのだろうか。
「التحيات」
「なんて言ってるんでしょうか……今の」
「よろしくね、と言っています♥」
「マジですか?」
「あの『異形』は敵性種ではないんですよ♥」
言葉は理解できないが、どうやらふれんどりーな『異形』らしい。そう翻訳されるとちょっときゅーとに見えてくる。
それから明日香さんが謎の言語でやりとりを始めると、『異形』はログアウトして消えていってしまった。
「今回は他のプレイヤーに迷惑がかかっているので帰ってもらいました。アバターを変えてまた来るそうです♥私もちょっとフォローしてくるので、失礼しますね♥」
そう言い残して同じようにログアウトしてしまった明日香さん。……つまり、また来るってことですよね?今度からはあの『異形』の人も一般プレイヤーとして参加する……?
今後の【フォッダー】の行く末はどうなってしまうんですか……?そんなことを考えていると、先の『異形』との邂逅に負けず劣らないくらいの衝撃的展開がボクを襲う。
【ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍】
「あーっ!」
っと叫んでいる間に自動的に会場に戻されてしまった。どうやら今のログアウトで勝利が確定してしまったらしい。
最後の最後で不戦勝という形で勝利してしまう、そんな配信的に残念すぎる結末を迎えてしまったボク。おまけに『異形』の人はともかく明日香さんは知り合いだし、談合を疑われてしまったかもしれない。
大丈夫かな?とコメント欄を見てみると……。
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「誰も見ていませんでしたね!よし!」
周囲を見てみると、観客席からのモニター配信で巻き添えを食らったのか、たくさんの人々が白目をむいて倒れていたり、強制ログアウトしていたり死屍累々のご様子。AIとの死闘よりこっちの問題のほうが【フォッダー】に深いダメージを与えている気がしないでもない。絶対騒ぎになるよね……。
何はともあれ【サバイバル杯】を制し、目標は達成!あとはなるようになりますよね!
あれ。そういえば何かを忘れていたような。そういえばこの大会の優勝賞品ってなんでしたっけ。
そう思って【ストレージ】を開いて確認すると、何枚もの【カード】が新規アイテムとして追加されていて、その瞬間にすべてを思い出した。
ああ。そういえば、【カードバトル】のためにこの大会に出場することにしたんでしたっけね……。
途中から当初の目的を完全に失念していたボクだけど、これで無事に【カード】を集めるという目標も達成だ。
【カードバトル】の方の大会もこのあとに開催されるようなので、このまま突撃して、2連覇してやりましょうか!




