第142話 群雄割拠に備えて
«疾風迅雷»で駆け抜け、たどり着いたのは東の果てだ。ここには加工済みのアイテムが山のように埋まっているという、半分ガチャ染みた運ゲーエリアだ。
5人のプレイヤーがすでにアイテムの取り合いと殴り合いをしていたので、漁夫の利を狙って【イグニッション】【パイロキネシス】で派手に乱入する。これがバトルロイヤル系ゲームの醍醐味ですよね! 片方は剣を持った推定【ナイト】。もう1人は【アサシン】でしょうか? 短剣の二刀流ですし。
「いた! 卍さんだ! 囲んでぶち転がせ!」
「よし! 一時休戦だ!」
「ひどい」
さっきまで殴り合っていた連中が、ボクを見つけるや否や目を合わせ、隊列を組んでこちらへ雪崩れ込んでくる。
「【アブソリュート】!」
【ナイト】が正面から【モーションアシスト】封じのスキルで動きを止め、【アサシン】は右側からボクを突き刺そうとする。
けれど、いまさら【アブソリュート】ごときで止まるボクじゃない。
左足を軸にひと回り。【ナイト】の真横へ回り込み、肘打ち【サイハンド】で弾き飛ばす。吹き飛んだ【ナイト】が【アサシン】にぶつかり、2人まとめて派手に接触事故──転倒だ。
やっぱり【ブロールート】は便利ですね。【ナイト】に物質干渉力で打ち勝てるのは、かなりのメリットですよ。
そこで再び【パイロキネシス】で2人を焼きながら後退すると、火の手が収まる前に2人はもう口論に変わっていた。
「おいこらタコ! おまえの短剣が当たって毒になったぞ! 解毒薬をよこせ!」
「は? 知るか! 解毒薬持ってないやつが悪い。そのままやられて回復アイテムに変換されたほうが、まだ役に立つんじゃないか?」
「おまえ、もしかして卍さんを狙うふりして俺をボーナスアイテムに変換するつもりだったな!」
「こんな足手まといだと最初から知ってたら、そっちを選んでたな。まったくクソザコはこれだから」
「【イグニッション】【パイロキネシス】」
喧嘩中の2人はそのまま燃やされて退場。その場に所持品のアイテムが大量に散らばっていく。
「よし、東側なだけあって面白そうなアイテム持ってますね。この剣なんかスキルが付いてますよ。匍匐速度アップですって。いらないですね」
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>装備スキルのクソ効果筆頭が付いてたか……
>匍匐前進は神スキルだぞ。類似スキルを三個つけるとゴキブリみたいな速度で動ける
>体勢が低すぎて相手の攻撃に空神が乗り始める模様
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他の戦利品には、使用すると【オフセット】というスキルが発動する【守護錫杖】がある。【ナイト】のスキルですね。使用条件に盾が必要とあるので、作っておきましょうか。
これは相手の攻撃を相殺する時にだけ威力が増加するという、便利なスキルなんですよ。
【オフセット】
[アクティブ][近接][攻撃][物理][ガード][条件:盾]
消費MP:6 詠唱時間:0s 再詠唱時間:45s
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。[スキル][相殺判定時]に[出力]を[増加]させる。
とりあえず余っていた鉱石で簡易的な盾を作って左手に取り付けて、準備完了!周囲の木々を刈り、湿った土を踏み固めてここにも念のため小屋を立てておく。軽く周囲を見渡してアイテムを拾い、西へ向かう。
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>この前までの卍さんなら中央で待ち伏せじゃなかったか?
>片っ端からアイテム確保していくのな
>トラップ仕掛けないの?
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「どうせ同じように中央拠点化狙いの人が集まって群雄割拠になっていますからね。だったら、まずはアイテムをさらうのが吉です」
誰もが狙いたがる安定行動は、他者と競合して痛い目を見ることになりかねない。
«疾風迅雷»で西の果てに向かうと、そこには3人ほどのプレイヤーが集まっていた。
しかも、誰も戦っていない。それぞれ他のプレイヤーを無視して木に成っている果物を回収している。
その中でも1人のプレイヤーは、堂々と鍋に食材をぶち込み、甘い香りを立ちのぼらせながらぐつぐつ煮込んでいた。
「もしかして、生産目的のプレイヤーの方ですか?」
「ああ、そうだ。食ってくか?」
そう言ってこちらへ振り返ったそのプレイヤーは『食材の魔術師』。そして鍋の中からは甘い香りが漂っている。しかし彼は生粋のラーメン職人。こんな甘そうな料理とは無縁のはずだけど……。
「フルーツラーメンだ。旨いぞ」
「なるほど、やっぱりラーメンでしたか。1ついただけますか?」
フルーツのあまーい果汁がたっぷり詰まったスープに入った麺。ラーメンはしょっぱいものという先入観から忌避感を覚えさせるが、よくよく考えてみると別に悪くない気がするよね。
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>食べたい
>大会のまっただ中に食事休憩奴ーwwwwwwwwww
>よくそんなん食べられるな。食事効果目当てか?
>いや、美味しそうだろ。デザートとして考えろよ
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さっそく器によそってもらい、麺を啜ってみる。麺自体にもりんごの果汁が染み込んでいて美味しいのだけど、それ以上にある工夫がなされていることに気づいた。
「スープとは別に麺自体に味が付いているんですね。みかんかな?」
「【錬金術】で加工した特製品だ。よく味わってくれよな」
みかんとりんごの味が調和した謎デザート、フルーツラーメン。みなさんも一杯、どうです?
本当はゆっくり味わっていきたいところだけど、あいにく今は【サバイバル杯】の開催中だ。時間を無駄にするわけにはいかない。
急いで麺を食べてスープを飲んで完食!これで食事効果も得られた。おそらく試合終了までは持つだろう。
ちなみにこのラーメンの食事効果はSTRの増加。極めてシンプルかつ強力な効果だ。おまけに【豊神の加護】によって付与の出力はさらに向上しているのだから、食事強化を行わない理由は存在しない。
これであらゆる準備が完璧に整った!それから周囲のアイテムの採取を手伝い、今度こそ激戦区・中央へ。
エリアの収縮はすでに始まっており、今までアイテムを回収していた場所への立ち入りはできなくなっている。それによって中央を避けていた多くのプレイヤーがその場所を目指して動いているはずだ。
そこを、完璧に準備を整えたボクが漁夫の利を狙いに行く!さっきまでは避けていた中央エリアの取り合いだけど、ここまで準備を整えたうえで押し切られるなら、いつ行っても同じことだ。
さあ──殴り込みに行きますよ!




