第141話 階段革命
「……かわしたっすか。今のを予測できるような情報は与えてないはずっすけど」
「見てから回避、余裕でしたよ?」
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>どうやったら改造で上空からビーム撃てるんだよ
>威力はわからんが空神が乗るから当たったらやばかったな
>左腕を改造してるのか?
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「今のは〈魔導〉のようですね。いくつもの極細の攻撃が束になって放たれているように見えました。当たってしまえば膨大な数の多段ヒットが発生してHPを削り取られていたかもしれません」
《『心眼』》で読み取った攻撃の正体を視聴者さんに解説する。しかし目線は相手から絶対に逸らさない。他にどんな初見殺しの兵器が飛んでくるかわかったもんじゃない。
「……僕の左腕に内蔵された極小のドローン型〈魔導〉噴射機構。それが〘Code:Rods from God〙っすよ」
「解説なんて、よほどの自信がおありのようで?」
「全方位から放たれるオールレンジな魔力砲撃。これに耐えられるプレイヤーなんて存在しないっすからね!」
再び腕を振り上げるとともに〈魔導〉の極細レーザーがこちらに向かって放たれるのを感じ取る。空気が微かに焦げる匂いが鼻をかすめた。今度は上空からだけではない。ボクを取り囲むように50を超える砲撃が分散して撃ち込まれている!
「«疾風迅雷»!」
ボクはあえてその砲撃の1つに当たりに行くように前方に直進していく。1つのレーザーの威力は所詮〈魔導〉1発分。すべてに当たらなければかすり傷だ!
そして再びああああさんを【サイハンド】で殴り飛ばそうとすると、彼は仰向けに倒れるようにして拳を回避し、そのまま両足をボクに向けた。彼の足裏には〘ジェット噴射〙機構が取り付けられている!
「『ファイア』!」
足裏から発射された炎を即座に横へ転がって回避しつつ、頬をかすめた熱がひりつく。ボクはお返しに【パイロキネシス】を放つ。しかし、ああああさんはすでに〘ジェット噴射〙によって大きく距離をとっており、ダメージを与えることはかなわず。そのまま体勢を制御して宙を飛ぶ彼のHPゲージが再び大きく回復していくのが見えた。
せっかく与えたダメージも振り出しに戻って攻撃し直しだ。おまけに……。
乱れ飛ぶように放たれるレーザーを身体を曲げて回避しながらも戦闘の考察を続けていく。
こういう攻撃多くないですか!?こちとら『接近戦』型だってのに一方的に攻撃しないでいただきたい!
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>卍さんの身体やわらかすぎて笑う
>こいつ半分スライムだろ
>どうすんだよ、また一方的に遠距離で嬲られるぞ
>銃を使ってた時と違ってレーザーにはダメージ判定がないのか?
>銃は腕だったけどこのレーザーはあくまで魔導らしいからなー
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コメント欄の指摘どおり、このレーザーを殴っても相手にダメージは与えられない。前回の戦いを考慮して欠点を克服した完璧な改良と言える。
そして今回の戦いは【サバイバル杯】。つまり、自在な空中機動を可能とする〈ロードウィング〉が使えない。本来ならこれでほとんどのプレイヤーが詰んでいただろう。
今のボクには他にも飛行手段があるけどね。
こんなこともあろうかと記録していた【マクロ】。【マクロ】の仕様を知っていれば100人中99人が考えつくであろうテクニックで直接相手を狙いに行く!
「«階段革命»!」
透明な階段を全力で駆け上がっていき、ああああさんに接近する。アイテムなしに空を駆けることができる便利な【マクロ】だが、欠点もある。事前に記録していた角度でしか登れないので、方向を転換するときにはキャンセルをする必要があるのだ。
同じようにジャンプする【マクロ】も作ったけれど、これも方向転換という意味では難が残る。
それと比べて〘ジェット噴射〙は操作性も抜群で縦横無尽に攻撃と回避を行える。むしろ回避に専念していてもこちらを削っていけるのだからたまったもんじゃない。
だからボクは以前に戦ったときと同じ手法を利用することにした。
「その【マクロ】は僕も考えていたっすけどね、〘ジェット噴射〙には勝てないっすよ?」
階段を登るボクから距離を取りつつレーザーを断続的に放つああああさん。上からも下からも、右からも左からも。あらゆる方向から攻撃が飛んでくる。自由な回避行動の取れない空中戦でそれらの攻撃を回避するのは難しく、ボクのHPをじわじわと削っていく。
それでも【マクロ】のキャンセルを繰り返してダメージを抑えていきながらもああああさんに迫っていく……フリをして周囲を横目で観察する。
レーザーがどこから飛んでくるのか、〈魔導〉の発動予兆から場所を把握できるのか。《『心眼』》によってあらゆる情報を探っていく。
そしてレーザーの発動の前兆をボクのちょうど真下で観測したそのとき、即座に«階段革命»をキャンセルして空中から落下した。
「諦めて逃げるつもりっすか!?」
「そんなわけないじゃないですか!」
重力を受けて落下するボクの下にあるのは……ドローン!今にも光線を放とうとしている極小のそれを小指でつまみ、思いっきり【サイハンド】で圧力をかけた。
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>ドローンにはダメージ判定があるのか!
>弾丸の時と同じ弱点でやられてて草
>かわいそう
>でもこんなちっちゃいドローン捕まえるの難しいよね
>遠距離スキルがあれば遠くからスナイプできるかな
>油断したな
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それと同時に、ああああさんのHPゲージが大きく減っていく。
「ちょっ!離してほしいっす!」
「こんな弱点の塊をボクの近くに置いておいたのが悪いんですよ!【イグニッション】!」
悪あがきにチャージしていたレーザーを放ってくるが、1発程度なら屁でもない。そのまま地面に叩きつけながら付与によって強化した【サイハンド】をお見舞いすると、ああああさんはHPを全損し、小さなドローンと一緒に消えていった。
「……次はどんな手を凝らしてくるのか。末恐ろしい相手です」
今回は新戦術の隙をなんとか突けたけれど、次からドローンも近寄らせないで超遠距離戦術を使われたらどうしよう。その上でさらなる改造を施してきてもおかしくない。少なくとも【サバイバル杯】ではもうやり合いたくないですね。
それはともかく予想外の戦闘に時間を取られてしまった。東に向かってアイテムを回収するんでしたね。早く行かないとエリアの収縮でアイテムを回収できなくなってしまう。
ボクはああああさんの落としたいくつかのアイテムを回収すると、再びジャングルの上空へと上がり、耳の奥で風切り音が鳴る中、«疾風迅雷»によって東に向かって全速力で走り抜けた。
マクロその7 『階段革命』
空へ駆け上がる【マクロ】です。一定の方向・角度にしか登れないのが欠点で、様々な角度に対応した【マクロ】をたくさん作っておかないと使い勝手が悪いです。
改造行為その7 『Code:Rods from God』
左腕に内蔵した〈魔導〉の噴射機構を周囲に散らし、レーザーを放つ〈改造行為〉です。
〘機関銃〙の欠点であった弾に攻撃判定が残るという問題をクリアするために生み出された決戦兵器で、一発一発は威力の低い〈魔導〉を多数同時に発射することで総合火力を引き上げ弱点をカバーします。
あくまで〈魔導〉の噴射機構である以上、レーザー以外にも様々な魔導を撃ち込むことができるようですが、操作には熟練が必要なのだとか。




