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卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!  作者: hikoyuki
4章 survival 超次元の生存競争!

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第137話 ロールプレイ

 【フォッダー】の世界からログアウトすると、『VRステーション2』の外にいる灑智に声をかけた。


「さあ、【エデンブレイクTRPG】にいくよ!」


「あれっ、もうそんな時間でしたか?ダンジョン制作は一時中断ですね」


 寝る間も惜しんで延々と【ギルドハウス】にダンジョンを作り続けている灑智。完成したらぜひとも挑んでみたいところだけど、まだまだ完成していないらしい。


 とりあえず今日は修行に付き合ってもらおう。TRPGは人数が揃ってないと面白さ半減だからね。


 灑智に呼びかけた後は再び『VRステーション2』の中に入り、装置を起動。事前にインストールしておいた【エデンブレイクTRPG】の項目を選択して新たな世界にダイブする。



 気がつくととボクはメタリックな床と天井が冷たい光沢を返す、不思議な部屋にログインしていた。ここが【エデンブレイクTRPG】の世界なのだろうか。目の前には至って普通のコンピュータが置いてある。


 近づいて軽く操作してみると、どうやらこの端末からゲーム用の部屋を作成し、仲間内で集まれる仕組みになっているらしい。他にもコメントを添えて参加者を募集する部屋や、一期一会のランダムマッチングなど。原始的だと言われていた事前の評判に反して、意外にシステマチックな作りだ。


「ボクはてっきり、部屋がどーんと置いてあってほら紙とペンやるから勝手に遊べ!とかそんな感じのゲームだと思ってましたよ」


----

>昔はそうだったらしいよ


>マジかよ、クソゲー過ぎるな


>逆にそんな状態からよくここまで進化したよな


>VR内でコンピューターを使ってTRPGするの???

----


「いや、このパソコンから作成した部屋に飛べる仕組みらしいですよ。では早速明日香さんの作った部屋に行ってみましょうか」


 現在参加者募集中の部屋一覧をスクロールさせながら流し見していると、見つけた。『屠神 明日香のくーる&てくにかるせっしょん』という名前の部屋だ。間違いなくこれだろう。


 部屋名をタップしてから入場ボタンを押すと、視界がぐにゃりとねじ曲がるエフェクトとともに、短い浮遊感を覚えながらTRPGプレイ用の部屋へ転移した。


 その部屋は中央に大きなこたつが置いてあるだけの簡素な空間だ。こたつの中にはすでに明日香さんが入っていて、ぬくぬくとしながらボクを出迎えてくれる。


「こちらへどうぞ♥あったかいですよ♥」


 ばしばしとこたつを叩きながらボクを呼ぶ明日香さんに言われるがままにこたつの中に入ってみると、たしかにあったかい。布団越しにひざから足先まで、ぬくもりがじんわり広がる。けれどVRならこたつとか関係なしに快適な空間を作れるのではないだろうか?


「これも風情というやつです♥」


 風情なら仕方ないね。そんな感じで明日香さんと雑談をしていると、次にやってきたのは灑智。


 例によって〘リアルステーション〙でログインしてきている。ボクたちがこたつに入っているのを見て同じようにこたつに潜り込んできたが、残念ながら我が妹はこのこたつの快適感を味わうことができない。


 それでも「あったかいですっ」といいながら気持ちよさそうにだらけるロールプレイをしている灑智、これはTRPGの適性が高いのでは?


 次にやってきたのはめりぃさんだ。


「あたし、降臨ー!」


 天井に人差し指を向けながら腰に手を当てて謎のポーズを取っていたが、こたつを見つけるとすぐさま中断していそいそと中に入り込んできた。


「さて、あと1人ですね」


「あれ、まだ他に来るんだ。あたしで最後だと思ってたよー」


「わたくしを忘れてもらっては困りますのよ!」


 めりぃさんの発言にツッコミを入れつつ登場したのは猫姫さん。全力ダッシュでこたつの中にスライディングしながらボクの隣に潜り込んできた。ちょっと、危ないですよ?


「さて、これで揃いましたね。では、そろそろ始めましょうか♥」


「その前に、あたしTRPGってやったことないんだけどなにやるのー?いろいろあるんでしょ?」


「そりゃもちろん【エデンブレイクTRPG】でしょ!タイトルにもなって」


「『クトゥルフ神話TRPG』をやりましょう♥」


「だそうです」


 そういうことになった。


 それからは普通に『クトゥルフ神話TRPG』を明日香さん主導で一緒に遊ぶだけだ。


 なのだけど、もちろんこれは一応【フォッダー】の修行として始めた企画だ。〈感情反映〉や〈装飾表現〉の効力を引き上げるためにも、そこを特に意識してプレイしていかなければならない。


 では、意識してプレイするとはどういうことかというと——極限まで役割を演じるということだ。


 登場人物になりきって感情を高めていくことができるようになれば、どのような状況でも〈感情反映〉で最高のポテンシャルを発揮することができる。


「それではあなた方はこの世のものならざる名状しがたい冒涜的な異形に遭遇しました。《SANチェック》です♥」


「キェァアアアアァアアアア嗚呼ぁあああああああ!!!助け、助けててててて来る来る来る助けて……来るああああ!!!ヒイイイィイィアアアアアアアアエァァエエエェ!!」


「ダイスを振る前にすでに発狂しきってますわね……」


「TRPGってこんなに真に迫った役割を演じなきゃいけないのー?」


「あっ、おねえさまはこれで不定の狂気に突入ですわね♥内容のダイスを振ってください♥」


※不定の狂気:発狂して精神疾患になる的な


「わかりました。ころころ。あっ、『4』」


「4は『奇妙な性的趣向』ですわ♥ではロールしてください♥」


「よくみたらあの神話生物どことなくスケベじゃないか……?あのぬめぬめしてそうな皮膚とか特に具合が良さそうだ……ゲヘヘ……ひひっ」


「お姉様、正気に戻ってくださいっ!!」


「あの……ロールプレイなんですけど」


「卍荒罹崇卍さん、完璧でしたわ。わたくしの目には神話生物に興奮する変態の姿が目に浮かぶようでしたの!」


 褒められてるのになぜかまったく嬉しくない。


 そんなこんなで参加者に頭の心配をされつつもクトゥルフ神話TRPGのセッションを続けていった。



「では、突如として目の前に現れたこの世のものならざる狂気じみた悍ましき物体は愚かで矮小なるあなた方を今にも貪り喰らいつくさんとしていますね。戦闘です♥」


「あの狂気じみた物体、えっちじゃないですか……?」←ボク


「クヒッ!血が飲みてえ……真っ赤な血が飲みてぇなぁ……ヒヒヒッ」←めりぃさん


「あっ!あそこにちょうちょさんがいますよ!かわいいーっ!うふふ☆」←灑智


「周りに異常者しかいませんの……」←猫姫さん


 順調に狂気が伝搬していき、頭のおかしいロールプレイが常態化してしまったセッションの光景だ。


----

>見てるだけで頭がおかしくなりそう


>チャンネル登録しました


>卍さんのチャンネルを登録する奴が現れるとか異常だろ。発狂してるんじゃないか??


>おまえら!はやく正気に戻って登録外せ!飲み込まれるぞ!!


>登録しただけでこの言われようである


>灑智ちゃんかわいい

----


「さて、初めての戦闘ですが、今回のセッションにはハウスルールがあります♥大丈夫ですか?」


※ハウスルール:販売されているルールブックに進行役が独自に付け足した追加ルールのこと


「あたしは本来のルールも詳しくないからだいじょーぶ!どんなルール?」


 このハウスルールについてはボクも事前に聞いている。【フォッダー】の修行に関わる特別なルールだ。


 ここまでのロールプレイはどちらかというと〈感情反映〉に対する修行の側面が強かった。役柄になりきることによってその感情を自在にコントロールして最大の出力を発揮する。それがロールプレイの狙い。


 でも、それでは〈装飾表現〉に関する修行にはならない。そこで今回のセッションに導入されたハウスルールはそちらの面を補強する特別ルールなのだ。


「本来なら『クトゥルフ神話TRPG』はターン制なのですが……皆様には『口プロレス』で戦ってもらいます♥」


「口プロレス?」


「システム的に処理するのではなく、戦い方を言葉で表現する、ということですよっ」


 灑智が補足してくれた通り。要は【フォッダー】における戦闘方式とまったく同じだ。


 身体を動かさず、ルールにもとらわれず、ただ言葉のみによって動きを定義し、アクロバティックかつ効果的な戦い方を演出する。


 ただし【フォッダー】とは違い、動きが反映されるアバターが存在しない以上『口プロレス』には多大な想像力が要求される。そして、もう一つ。VRMMOにおける通常の戦いとは重大な違いがある。


 想像による戦いには必ずしも合理性が必要とは限らないということだ。


「『へひひ、突撃だあー!』激しく咆哮しながら力強くアスファルトを踏み込むと、激しい破砕音とともにボクのキャラクターが一瞬にして異形に肉薄する。その圧倒的な速度により一種の衝撃波のようなものが発生し、周囲の狂信者どもはごみくずのように吹き飛ばされていく。そしてそのまま拳を異形に向かって強く叩きつけようとした」


「では、異形はその拳を自慢の触手を伸ばして受け止めます♥柔軟な触手で衝撃を極限まで弱めたのです♥そしてそのまま腕に絡みつこうとしますが、なにかありますか?」


「わたくしのキャラクターが背後から颯爽と現れてノコギリで触手を切り落とそうとしますの!ちなみにわたくしのキャラは腕を超高速で振動させることでチェーンソーのように切断力を引き上げる『鋸刃流』を嗜んでおりますのよ」


「では、触手は切り落とされますね♥」


「『ありがとよ!』そう礼を告げながらボクのキャラクターは切り落とされた触手をむんずとつかみ、拳をまっすぐ前に突き出しながら手をぱっと離す。これは彼の得意とする正拳突きの応用だ。その瞬間、触手は轟音を残して異形に向かって直進していく。道理を無視したモーションから放たれた触手は凄まじい速度によって空気を急激に圧縮し、やがて激しく炎上し始める。その炎はこの世のものならざる深淵のような漆黒に染まり、人智を超えた超常の存在、その最期の輝きを示しているかのように思えた」


「異形は慌ててその燃え盛る触手を回避しようとしますが……」


「『血を吸わせてくれぇぇっ!!』発狂したあたしのキャラが異形にガバッと絡みついてかぷっと噛みつこうとするよー!」


「では、組み付かれた異形とめりぃさんのキャラクターは飛来した触手に燃やされて死にます♥」


「じゃあ死亡して天国に行こうとしているめりぃさんのキャラクターの魂をつかんで食べますねっ」


「えっ?」


「はい??」


----

>食われてて草


>発狂ロールしてる奴らより遥かに頭おかしい行動を素で宣言してて駄目だった


>TRPGってこういうゲームなんだな。勉強になる


>おう、遊ぶときは他のプレイヤーの魂を食べないようにしろよな


>異形の魂ならセーフですか??

----


 物理法則は完全に無視。とにかく派手で大規模なアクションの描写、あるいはもっともらしくもありえない理論をリアルタイムで紡いでいき、戦闘を繰り返す。


 もちろんこのゲームはTRPGだ。実際に紡いだ通りにアバターが動くわけではないけれど、大規模な描写を行えば行うほど真に迫ることができるのが【モーションアシスト】。


 それならば常識を捨て、常にダイナミックな思考を行うことができれば、すべてのアクションのパワーを高めることができる!


 これぞまさに究極の修行!みなさんもやったほうがいいですよ!


----

>小学校でぼくのかんがえたさいきょうの技を披露しあってるみたいな遊び方


>やめてやれよ!!


>もうそんなふうにしか見えなくなってきた


>他の参加者に比べて卍さんだけ明らかに長文羅列してるのすき


>フォッダーは脳内で超高速怪文書披露できるやつが強いからな


>修行の成果ということか……

----


「うっさいですよ!これは修行です!どうせ、みなさんもそのうちやりだしますからね。今に見ててくださいよ!」


 参加しているときは別になんとも思わないけれど、第三者に品評されるとすっごい恥ずかしい。


 でも、逆にそういった環境でプレイしたら精神の鍛錬になるかもよ?なんて自己弁護&こじつけをしつつ意地でもロールを貫き通し、セッション終了まで走り抜けた。


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