第136話 最低条件
めりぃさんと漫才を繰り広げながらも、ボクは、今の手札を頭の中で点検していく。
アイテムを持ち込めない【サバイバル】で唯一持ち込める武器——それが【マクロ】だ。今回の配信でボクは強力な武器を手に入れた。
しかしそれだけでは足りない。どんなに強い装備があっても本人が弱ければ片手落ちなのだから。
とはいえレベルはすでに頭打ちだ。正確に言えばまだまだ上げる余地はあるけれど、ステータスの成長にはまったく寄与しない。新しいスキルをもう少し覚えられるかどうかというのが関の山だ。
それならばレベルに左右されない尺度で成長する必要がある。
「というわけで熟練度を上げていきましょう!」
「何が『というわけで』なの??」
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>出たーwwwwwwww卍さんのアクロバティック話題転換だー!!
>モーションアシストがあるのに言うほどプレイヤースキルって関係あるか?
>アシストの提供する最適解は自分のやりたい行動に対する最適解だから。やりたい行動が間違ってたら負けるし意味はあるよ
>今日一日で上がるプレイヤースキルってなんだよ
>そりゃあ新しいテクニックを華麗に使いこなしてずがーんどがーんよ
>新しいテクニックが一日で都合よく見つかるはずないんだよなあ
>他の配信者の動画でも見てみる?
>テクニックなんて発見された時点で全員使えるんだからプレイヤースキルじゃないぞ
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「基本的なテクニックは、ゲーム的な条件を満たせば誰でも再現できますからね。しかし〈魂の言葉〉や〈装飾表現〉の使い方に関しては、まだまだ成長の余地が残されています」
「あっ、〈装飾表現〉の練習ならあたしもやってるよー!毎日頑張って読書して語彙力を高めてるの!」
「読書もいいですね!けれど、もっといい修行の手段があるんですよ。というわけでボクたちはこれから別のゲームに突撃しようと思います!」
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>大会前日になって他のゲームに浮気しだす卍さん
>フォッダーのチャンネル枠で別ゲーのプレイをしだすとか正気かよ
>マジかよ卍さんのチャンネル登録外します
>待てよ?冷静に考えるとフォッダーなんて捨ててそのゲームをプレイしたほうが良いのでは……?
>この世の真理に気づいてしまったか
>どうせそのゲームもAIが無双してTUEEしだすんだろ。俺は詳しいんだ
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「今日1日くらいは許してくださいよ。たまにある番外編みたいなもんですよ!さて、みなさんも何のゲームをプレイするか、気になってるんじゃないですか?」
今回プレイするゲームは【フォッダー】の原点と言っても過言ではない作品だ。言の葉を紡ぐだけで思うがままにファンタジー世界を謳歌できる。まさに【モーションアシスト】を体現したかのような神ゲー。
そんなゲームが100年前にはすでにあったというのだから、驚きですよね。
そう、今回プレイするゲームとは——!
「今回プレイするゲームとは、TRPGのことです!」
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>解散
>TRPGってやったことないからちょっと楽しみだわ
>チャンネル登録しました
>うおおおおおおおおお!!!!
>フォッダーの100000000000000億倍面白そう
>↑面白すぎて頭が破壊されそう
>電子ドラッグかな
>最初に解散ってコメントした人かわいそう
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ネタじゃなくガチで大盛り上がりのコメント欄を見てると逆に悲しくなってきますね。
「TRPG?現実で集まるのー?よく知らないけど」
「めりぃさん、VRMMO全盛期の時代に現実で卓を囲むなんてこと、あっていいわけないでしょう。オンラインですよ。そう、つまりバーチャルの中で卓を囲みます!」
などと宣言しながら、ネットのライフハック系サイトに載っていた『エデンブレイクTRPGの思い出』という記事を視聴者に見せた。
「この【エデンブレイクTRPG】というゲームは、なんとゲーム内にルールブックと鉛筆とノートがあって、お手軽にTRPGが遊べちゃう神ゲーなのです!」
「原始的すぎるよー」
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>少なくともフォッダーよりはガチで神ゲーだな
>ちょっとインストールしてくる
>名前だけは聞いたことある気がする
>楽しそう
>おまえらフォッダーを下げるためだけに謎のゲームを持ち上げるのやめろ
>TRPGなんてレトロ通り越して古代文明のゲームだろ
>貴様らゆとり世代か?ワシの若い頃はガチで流行ってたんだよなあ
>最近の若い香具師は古いゲームをやりたがらないからな
>ゆとりは逝ってよし!
>おじいちゃん達何歳?
>不老薬飲んでそう
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【フォッダー】を普通に遊んでいるときと比べても、コメント数が恐るべき勢いで増えていく。かなり食いつきがいい。TRPGにそんなに需要があるのか、はたまた逆に【フォッダー】が見捨てられかけているのか。
【サバイバル杯】ではAWP-002さんをぶっ倒して、これ以上の盛り上がりを作っていかなければならない。心の中で誓いながらも、予定どおりに配信を進行していく。コメントが増えて困ることなんてないですからね。
「期待の声も多いようですし、早速【エデンブレイクTRPG】の世界に行ってみましょう!みなさんもこの配信を見て面白そうだと思ったら【フォッダー】の箸休めに、ぜひ訪れてみてくださいね!」
めりぃさんにも知らないふりをしてもらいながら相づちを打ってもらっていたけれど、事前に情報は共有済み。向こうに着いたらすぐ始められるよう、準備は整っている。というか、先行して明日香さんがすべての準備を整えてくれた。
果たして本当にTRPGをプレイするだけで【フォッダー】の修行になるのかは定かではない。けれど、明日香さんは間違いなくこの方法によって【モーションアシスト】の操作技術を大きく引き上げているのは事実だ。
AWP-002さんに勝つためにも、絶対にその技術を掴み取る。それがAIと同じ土俵に立つ上での最低条件だ。




