第133話 知識と対策
「まけちゃったよぉ……」
「俺様なんかほぼ出落ちだぜ?最強の【黄金の才】を持つ俺様がだぞ?」
しょんぼりと落ち込んでいる」さんと、盛大に自虐する帝王龍さん。……でも帝王龍さん、敗北宣言は【黄金の才】を解禁してからにしてください。
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>自由に移動できるテレポートもそうだけどサバイバル杯だと色々勝手が違うからな。リソース無制限なら絶対化物だぞ
>リキャストタイム無いんかね。ユニークなら距離の制限もなさそうだけど
>時間停止とか絶対最強なのにな。帝王龍も本気出せよ
>なお、同じチャンネルのプレイヤー全員がまともにゲームできなくなる模様
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「ところで、」さん。あなたの【黄金の才】なんですけど……」
「ん、なーに?」
「対戦中のシステムログがひどいことになってるんですけど?」
SYSTEM >」さんがログアウトしました
SYSTEM >」さんがログインしました
SYSTEM >」さんがログアウトしました
SYSTEM >」さんがログインしました
SYSTEM >」さんが死亡しました
SYSTEM >ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍
戦闘中、滝のように流れ続けるシステムログを見て、ずっと疑問に思っていた。詳しい理屈はともかく、【『オネイロス』】の効果はこのログから読み取れるだろう。
そう、『ログアウト』に関わる権能だ。
本来なら対戦中に堂々と『ログアウト』をすれば不戦敗で終わるのがこの世の常識だ。
けれど【黄金の才】はこの常識を覆す。『ログアウト』したのにペナルティを負うことがなく、好きな座標に『ログイン』できる。
『時間の停止』や『料理の改竄』に匹敵する、まさに【黄金の才】と呼ぶにふさわしい身も蓋もないスキルだ。
」さんはこのスキルを主に瞬間移動に活用していたようだけど、『ログアウト』したまましばらく『ログイン』しなければ、そのまま逃げられる。
大会開催中に『ログアウト』されたまま戻ってこなかったらどうなるんだろう?控えめに言って、頭がおかしい。狂ったスキルだ。
「そーそー、」の【黄金の才】はねー。ログアウトのペナルティをむこーにするスキルなのー。だからいべんと中にログアウトしてもいいんだよー」
【『オネイロス』】
[パッシブ][パーミッション][オーソリティ]
効果:[以下]の[効果]を[持つ]。
1.[ログアウト]の[ペナルティ]を[無効]にする。
2.[任意]の[座標]に[ログイン]する事ができる。
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>草
>ひどすぎワロタ
>遅延戦術されそう
>世界よ、これがユニークスキルだ
>便利そう
>このスキルで大会中にログアウトしてそのまま引退したらどうなるの??
>残りのプレイヤーは大会会場で暮らすことになる
>最強かな??
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「【黄金の才】ってのはこんなのばかりなんですかね……。それはそれとして、なんとか勝利を拾わせていただきましたが」
「俺も」も本戦では勝利を狙うがな。今回たまたま勝てたからって調子こいてたら、足元をすくってやるぜェ?」
「まんじさん、おうえんしてるよー!」
今回の戦いはあくまで予行演習。勝ったからといってなにかがあるわけじゃない。それでも、帝王龍さんの粋な計らいによって得られた自信はボクをさらなる勝利へと導いてくれる。
なぜならこのゲームは言霊と感情が戦いを左右する精神競技なのだから!
それから帝王龍さんたちとは別れ、次なる準備へとボクはひた走る。
準備と言っても【サバイバル】の研究は終わっているし、ここまで来たらレベルを上げても誤差だろう。アイテムも持ち込めないのだからできることは少ない。
今から考えるとすれば——それは【サバイバル】全体に対する対策ではなく、特定の対戦相手への具体的な対抗策だろう。
特にAWP-002さんが撃ち出してきた超連続スキル攻撃。あれを防げないことには勝機がない。
彼のスキルは確かに質や量が膨大だが、問題はそこではない。スキルの合間に挟まれた【アブソリュート】こそが最大の脅威だ。
【モーションアシスト】による受けを許さない必中のスキル。単純な威力としては低めのようだが、他のスキルを同時に放ってきているのだから関係がない。
それに加え、投射攻撃の自在な操作もある。多少身体を逸らしたくらいでは追尾性能によって命中させられてしまうだろう。
結論として、AWP-002さんの攻撃は躱すのではなく相殺する必要があるというわけだ。
「たぶんですけど【フルバーニング】なら、すべてをまとめて吹き飛ばせるんですよねー。まあ、【サバイバル】では使い勝手最悪なんですけどね」
ついでに言えば【サイキック】を選んだ以上、【メイジ】のスキルは【イグニッション】との取捨選択に——いや、待てよ。
【ジョーカー】を試合中に切り替えてしまえばいいのでは?
確認してみると【ジョーカー】の再詠唱時間は24hだった。つまり、一日前までに変更しておけば試合中に土壇場で好きなスキルを持ち出すことができる。
どのスキルで対策をするか、どのタイミングで切り替えるかは考察の必要があるけれど、これを利用すれば最低でも一度は受け切れる。使わない手はないですね。
対策は1つでは足りないけれど、とりあえず1つの策は挙げられた。これ以上を求めるなら、さらなる情報が必要になるだろう。
つまりAIとしてスペックを調べたいのだけど——寿美礼さんなら詳しいだろうか?
というわけで寿美礼さんにチャットで相談を持ちかけると、会って直接教えてくれるとのこと。ちなみにこの場合の直接というのはゲーム内のことではない。AR空間で教えてくれるらしい。
秘匿しなければならない情報でもあるのかな?と思ったけど、配信はしてもよいとのこと。待ち合わせ場所の情報を告げられて察しがついた。あの人がいるのだろうね。
さっそくゲームからログアウトしてARデバイス経由で配信を再開。準備を整え、ARスポットであるいつもの公園に向かう。
そして公園に到着し、あたりを見渡してみると、予想どおりだ。例によってベンチにユーキさんが座っていた。その隣に寿美礼さん。さらに、ユーキさんを囲んで多くの人たちが集まっている。
【『オネイロス』】
[パッシブ][パーミッション][オーソリティ]
効果:[以下]の[効果]を[持つ]。
1.[ログアウト]の[ペナルティ]を[無効]にする。
2.[任意]の[座標]に[ログイン]する事ができる。
黄金の才その4『オネイロス』
危険な時にログアウトして逃げる、試合中に少しだけログアウトする、こういう事はゲームにおいては基本的に出来ません。もちろんログアウト自体は出来るのですが、敗北したのと同じ扱いになるペナルティを受けてしまうのです。
しかしこの【黄金の才】はログアウトによるペナルティを無効化するという前代未聞の効果を持っています。
どこでログアウトしても不戦敗にはなりません。おまけにログイン時の出現地点も自由に操作可能!
あまりにログインしなさ過ぎると、対戦エリアからプレイヤーが消失した場合の特殊処理によって不戦敗になってしまうとの事ですが、その判定を行うタイミングの時だけログインすれば無限に遅延可能。例によって人格破綻者が持ったらゲームが終わりますね。




