第132話 千日手の果てに
推定【『オネイロス』】が厄介ですね。発動の状況を見るに再使用時間がある様子もうかがえず、好きなだけ連発できるようだ。
今は攻めるしかない。【ストレージ】から槍を取り出し、【キネシス】で」さんを目がけて槍を射出する。同時に【パイロキネシス】を右手から放つ。
放たれた槍が命中しようとしたその時、」さんの姿が瞬時に消滅する。反射的に後ろを振り返るが、そこにはいない。どこに行った?
ボクの【パスファインダー】が反応を示す。
——頭上だ!
「【開眼】ーッ!」
「〈派手に弾けろ〉【イグニッション】!」
上空から【空神の加護】を乗せて落下してくる」さんに対して【イグニッション】を乗せた【サイハンド】で迎え撃つ。
激しい爆発音を立てて互いの攻撃は相殺されたが、HPの減少量は明らかにこちらのほうが大きい。
物質干渉力の影響を受けてわずかに宙に浮いた」さんにすかさず【パイロキネシス】をぶち込もうとするが、次の瞬間にはまたどこかに消えてしまう。仕方ないのでポーションを発動してHPを回復し、仕切り直す。
----
>ジョーカーでイグニッションを獲得したのか
>新スキルの中ではかなり利便性も高いしな
----
「ほんとにふいうちがきかないねー。目がなんこついてるのー?」
「【パスファインダー】、おすすめですよ!」
」さんはボクの後方——20mほど離れた位置に転移していたようだ。脳天気な口調でボクに向かって話しかけてくる。
ダメージを負ったのは相手も同じだったはずだけど、HPゲージを見るに完全に回復していますね。【モンク】はHPの継続回復に定評がありますからね。けれど——このままでは千日手だ。
無理やりにでも攻めるか、搦め手で持久戦に持ち込むか。
いつものボクなら迷わず強引に特攻を仕掛けるところだけど、今のボクは【サイキック】/【アイテムマスター】という搦め手特化の型。ここは悠長に行かせてもらいましょうか!
「【トラップハンター】!」
戦闘中に罠をガンガン仕掛けていき、優位を取っていきますよ!
というわけでお徳用の毒薬の効果を込めた踏み込み式罠を自身の背後に設置。ボクがどこに仕掛けたかは【パスファインダー】かそれに類するスキルでもない限りわからないし、迂闊に攻めてこられなくなったはず。
「さあ、どうしますか?どんどん罠の要塞を築いていきますよ!」
「ちょっとーずるいよー」
「ずるくて結構!この魔境を生き抜くにはずるくなきゃだめなんです!」
「じゃあ、」もずるするねー」
「え?」
予想外の発言にあっけにとられていると、」さんが腕をボクに向けて、指で銃を形づくる。そして、おもむろにスキルの発動宣言をした。
「【車輪】【正拳突き】」
すると」さんの人差し指がパカッと開き、その中から銃弾が放たれる!
「【黄金の才】と〈改造行為〉の併用!?」
距離が離れているおかげもあって銃弾なんて簡単に避けることはできるけど、相手は【テレポート】に類似するスキルの使い手。どこから弾が飛んでくるかわかったもんじゃない!
そしてやはり己の持つ【黄金の才】を最大限に活用するつもりのようで、連続的に瞬間移動を繰り返しながらスキルを込めた弾丸をあらゆる方向から放ってくる。
それをボクはギリギリの状態で身体を逸らして避けながら、時には弾丸に【サイハンド】を叩き込んで本体にダメージを与えていく。
銃持ち込み型の〈改造行為〉で放たれる弾はあくまで拳の延長線上。タイミングを合わせて弾丸を弾き飛ばせば、」さんの身体を殴ったことになる!以前の戦いでの経験が生きましたね!
「ちょっとー!なんでそんなにかわせるのー?おかしいでしょー!」
「さてねー!種も仕掛けもありませんよ!」
銃撃の合間に向こうもポーションを使って回復を図っているけれど、【アイテムマスター】ではない以上、その行動には明らかな隙が生まれる。
その瞬間を突いて【イグニッション】【パイロキネシス】を浴びせることで、回復量に対して減少量が上回っていく!
慌てて瞬間移動で退避する」さんだけど、彼女は行動がワンパターンで非常に読みやすい。即座に後ろを振り向いて槍を撃ち出すと、今度はジャストヒット!
「むー!こうなったら!」
慌てた」さんが再び瞬間移動したので返り討ちにしてあげようと思ったのだけど、今度はどこにもいない。上空にもいない。もしかして、撤退した?
辺りを警戒しながら【トラップハンター】で準備を整えていると、1分ほどしてから再びボクの目の前に出現する」さん。同時にその腕から岩の弾丸を撃ち出してくる。
これは【カタパルト】!彼女の職業は【モンク】/【メイジ】でしたか!
【カタパルト】
[アクティブ][12回][投射][土属性][攻撃][物理][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:20s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。この[効果]は[詠唱後][12回]まで[任意]の[タイミング]で[発動][できる]。
詠唱してから好きなタイミングで回数を分けて攻撃できる土属性の花形【カタパルト】。確かに【『オネイロス』】によっていつでも撤退できるというのなら離れた地点でじっくりと詠唱時間を確保することができる。
それに【カタパルト】だけを詠唱していたにしては逃げていた時間が長すぎる。おそらくは【グランドグラビトン】も発動していると見て間違いないだろう。
【グランドグラビトン】
[アクティブ][接触][土属性][攻撃][魔法]
消費MP:12 詠唱時間:40s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[キャラクター]に[ダメージ]を[与える]。この[効果]は[詠唱後][任意]の[タイミング]で[発動]できる。
今のボクの周囲には踏んだら発動する罠が山盛りに仕掛けられているけれど、拳の弾丸を持つ彼女であれば接近しなくても大技を撃ち込めるだろう。
縦横無尽に転移を繰り返しながら撃ち出される岩に対して、ボクは意図的に回避を放棄することによって隙を演出する。
それを見た」さんは即座にボクの頭上に転移し、追撃の弾丸を撃ち放った。
発動すれば大打撃は間違いなし。たとえ生き残っても即座の追撃で落とされてしまうだろう。しかしボクはあえて【サイハンド】で正面から迎え撃つ!
」さんの弾丸に【サイハンド】で触れたボクは瞬間的に多大な重力に押しつぶされるような感覚を受ける。HPがとてつもない速度で減少していく。しかし、ボクが足元の罠を軽く踏み砕いたその瞬間、HPは急速に回復に転じていく!
「えー!?」
「【アイテムマスター】を舐めるんじゃないですよ!〈派手に弾けろ〉【イグニッション】!」
炎の付与を追加した【サイハンド】で」さんの弾丸を掴むと、そのまま地面に勢いよく叩きつける!その場所にはお徳用の猛毒が山のように設置されていた。
いくら自己回復に長ける【モンク】であろうと地形ダメージと猛毒のフルコンボに耐えられる道理はない。」さんはHPがゼロになり、粒子となって消え去った。
【ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍】




