第131話 オネイロス その2
「帝王龍さん、ここは見なかったことにして解散しませんか?」
「無理だ」
「ですよね」
装備もなければアイテムもない。ボクの職業である【アイテムマスター】が完全に機能停止した状態での遭遇戦だ。やっぱり【サバイバル】って運ゲーですね。
「せ、先手必勝!【パイロキネシス】!」
右手から火炎を放射して牽制するも、帝王龍さんはダメージを厭うことなく肉薄する。ボクは【サイハンド】を左腕にまとわせて帝王龍さんを迎え撃った。
「ぐはぁっ!」
最適解を踏んでいるとは到底思えない雑なテレフォンパンチに対して、ボクのクロスカウンターが決まる。
あっけなく吹き飛ばされる帝王龍さんを見据えながら、警戒心を強めた。
「何を企んでいるんです? そんな雑な動き——」
「作戦だ」
「いっそ清々しいですねぇ」
あえて意図的にダメージを受けたのか? その作戦から候補となるスキルがいくつも浮かび上がるが、確証は得られない。
「それにしても、いくら前衛職業でもさすがに武器がなくちゃあ片手落ちだな。——なあ、見なかったことにして解散しねェか?」
「それはさっきボクが言ったばかりのセリフなんですけど? 撤回なんて許しませんよ」
「だよなァ——なら、使わせてもらうぜ。【ケイオスブレイド】!」
帝王龍さんがスキルの発動を宣言したと同時に、彼の左腕が黒い闇に包まれ、やがて鋭く尖った槍のような形状に変化する。
【ケイオスブレイド】
[アクティブ][魔法][生産][条件:暗黒の力/オン]
消費MP:2 詠唱時間:0s 再詠唱時間:45s 効果時間:2m
効果:[一定時間][剣]を[獲得]する。この[剣]による[攻撃]は[HP]が[最大HP]から離れている程[威力]が[増加]する。
スキルによって武器を作り出す、か。【サバイバル】の場においては王道的ですね。
先ほどと同じく、帝王龍さんは弾丸の如き速度で肉薄した。砂が跳ね、視界が一気に縮む。武器差で圧倒的なリーチを確保した帝王龍さんには、先ほどのようなクロスカウンターは通用しないだろう。
【エンハンス】でAGIを上げて一歩退く。すかさず後方へ下がりながら【パイロキネシス】を浴びせていくが、AGIでは帝王龍さんがボクを上回っている。瞬く間に距離を詰めながら、剣を前に突き出す。
本来ならAGIで劣っているボクがこの一撃を回避するのは難しいが——。
「《«ガゼルフット»》——そんな見え見えの動きっ!」
巧みなサイドステップで刺突を回避し、お返しとばかりに【サイハンド】を撃ち込む。不意の一撃を受けた帝王龍さんは大きく体勢を崩す。
「……は?」
あっけなく倒れ込んだ帝王龍さんへ即座に追い打ちをかけると、その一撃でHPを全損させた。
「よし、今回も勝ちましたよ。帝王龍さん!」
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>なんか強くて草
>卍さんは歴戦のVRゲーマーだからな
>確かガゼルフットは卍さんのソウルワードだったっけ?
>回避率を上げる(当社比)のソウルワードだって聞いたよ
>これでもプレイヤースキルで売ってる配信者なので……
>デスゲーム系に特化したネタ配信者かと思ってたわ
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まあ【黄金の才】も無し。【サバイバル】である以上、普段の戦い方もできない状態ですし、今回も互いに全力とは言えない状態ですがね。
加えて言えば、ちょっとしたテクニックも、ね。純粋な殴り合いで負けるわけにはいかないんですよ。
戦いが終わると即座に周囲の素材アイテムを回収しつつマップの中央地帯へ向かった。周囲の木々を伐採して家を建て、今度は南へと進出した。
南は鉱石が多いエリアだ。装備を作るならまず外せないエリアであり、まともに戦うなら絶対に訪れる必要がある。
途中で対戦相手に遭遇したらどうしようかと思ったが、広大なフィールドをたった2人で独占しているのだ。対戦相手の」さんに出会うことはなく、目的の鉱石を回収した。
急いで防御力の高い鎧と【キネシス】での運用を想定した槍を作成し、準備完了! スキルの付与もない簡易的な装備だが、安心感が違う。
よし。後は【ホームリターン】で中央に戻って罠を仕掛けるだけ——。
満を持して家の屋根へ瞬間移動で帰還した瞬間、視界が止まる。目の前に」さん。
「まってたよぉ」
同時に突き出される拳を後方に跳躍して回避し、ボクは屋根から飛び降りた。
「待ち伏せですかっ!?」
「こんなところに家があったらいつかもどってくるなーっておもうよねー」
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>そりゃそうだ
>卍さん、無能
>ぐうの音も出ない正論
>気づかなかったのかよ
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全く気づかなかった。
「そりゃあ気づいてましたよ。あなたが待ち伏せしてるのを読んでました。だから攻撃も、ほら、かわしたでしょ?」
「あのたいみんぐの奇襲をかわせるとしたらそれしかないよねー。ざんねんー」
割と説得力があったらしい。なんとかボクの失態を帳消しにできた。しかし罠を山ほど配置して引っかけてやろうと思ってたのに、またもや準備不足での戦いですか……!
とりあえずいつもの安定択。【パイロキネシス】を」さんにめがけて放射する。火炎放射が唸りを上げながら空間を駆け抜け、まさに命中するかと思ったその時、」さんの姿が消失し——直後にボクの背後に回り込んでスキルを発動させた。
「【正拳突き】!」
「おっとぉ!」
膝を抜き、前へ滑り込むように上体を倒して攻撃をかわすと、瞬間的に目の前へ移動した」さんが鋭い蹴りを放つ。
「うぉあっ!」
横に重心を傾けて派手に転がりながらかわしつつ、【ホームリターン】で屋根の上に登った。
「【テレポート】に類する【黄金の才】ですか!?」
「さてねー」
今のところはなんとかしのげているが、制限なしの【テレポート】——それが一番、厄介だ。
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>卍さんが真面目に戦ってるとなんか笑えてくる
>ちょっと配信を中断してる間にどれだけ練習したんだよ
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