第130話 オネイロス
〈魔導〉の検証を終えて、次はまたレベル上げ。レベルはいくら上げても困るものではない——と思っていた矢先にお手紙が届いた。
依頼ですかね?【カード】はもう集めてしまったのですが……と思いつつ読んでみるとぜんぜん違った。
内容は簡単だ。決闘をしたいという申し出。奇しくもAIの脅威が明らかになったあの時と完全に同じ文面のお手紙。
しかし、差出人が違う。
今回のお手紙の差出人は帝王龍さん、【『クロノス』】の使い手だ。
帝王龍さんの呼び出しとあらば答えないわけにはいかない。さっそく【パーティ】申請をして【闘技場】に入場する。
また衝撃的な【フォッダー】の裏話とか聞かされないですよね? 内心ちょっとビビりながらも扉を開けて中に入ると、そこには2人のプレイヤーがいた。
1人は親切系課金プレイヤーの帝王龍さんだ。【A-YS】からの持ち出しと思しきメカメカしいスーツを着て、アクロバティックな戦いを繰り広げている。
もう1人には見覚えがないですね。腰までかかるほどの長い黒髪が印象的な女性プレイヤーだ。肉弾戦で戦っていることから【サイキック】か【モンク】であることは推測がつくのだけど。
やがて戦いを終えた2人がボクのところにとことこと歩み寄ってきた。
「よォ、卍。待ってたぜ」
上から目線でふんぞり返りながら話しかけてくる帝王龍さん。こういうロールプレイって大変そうですよね。
「お待たせして申し訳ないです! お手紙いただいたのでやってまいりました! で、どういう風の吹き回しなんですか? 急に戦いたいって言われてびっくりしましたよ」
【黄金の才】持ちとのバトルとあれば間違いなく大盛り上がりになるので、もちろん喜んで引き受けるけど。
しかし帝王龍さんと言えば他のプレイヤーに迷惑をかけないように【『クロノス』】をできうる限り使わないように心がけてる優しいプレイヤーだ。模擬戦なんかで時間を止めてもいいのだろうか。
「ああ、その件だが——オマエ、AIに挑むんだってなァ? 配信で聞いたぜ」
「帝王龍さんがボクの配信欠かさずチェックしてるのちょっと面白いですね」
「茶化すな。少なくとも向こうさんはあらゆる人類を軽く踏み潰せる実力があると自己を評価してるわけだ——なら、それを踏み潰すオマエは【黄金の才】持ちくらいは倒せねえと話にならねえよなァ?」
なるほど、道理ですね。帝王龍さんには以前に勝利した実績があるけれど、あれは明日香さんとの二人掛かりだった。
つまるところボクは未だに【黄金の才】を超えたことがない。負けたこともないけれど。
今回のバトルはそんなボクに対する一種の試練と言ったところか。別にボクが動かなくても他の自信あるプレイヤー達はそれぞれの意思でAIとの戦いに挑むのだろうけど、帝王龍さんはわざわざボクを後押ししてくれるつもりらしい。
もちろん後押しと言っても戦うからには今度こそ全力。容赦なく打ち負かそうとしてくるに違いない。でも、ボクは負けませんよ!【黄金の才】なんて捻り潰してやります!
「ついに【『クロノス』】の【権能】を本気で行使するつもりですね……! 戦いの舞台はどうします?【サバイバル杯】ですか?」
「いや、俺様は戦わねえぞ。迷惑をかけちまうからな」
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>この期に及んで戦わないのかよ!!!!
>ちょっとくらい止めたっていいのに、過疎チャンネルでやればセーフでしょ
>そもそも闘技場はマップIDが違うからメインのマップで活動するプレイヤーに影響はないのでは
>いま闘技場を利用している他のプレイヤーが被害を受けるかもしれないだろ!!
>おう、そうだな
>やっぱ帝王龍さんってプレイヤーの鑑だわ
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「そ、そうですか。ではそこの女性の方が戦っていただけるのですか?」
「そうだ。俺の知り合いの【黄金の才】ホルダーでな」 と帝王龍さんは言う。
「はい?」
「名前は」だよー。よろしくねー」
「今なんて???」
ま、まさか、」さん????
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>理由はわからないけどなぜか酷く言葉が聞き取りづらい
>このゲームで一番ヤベェネーミングセンスかもしれない
>卍とか✝とかただの雑魚だったな。時代は」よ
>これがアリならそのうち【ブレイズスロアー】さんとかそんな名前の人も出てきそう
>名前を呼ぶたびに炎が出てきそう
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「よ、よろしくおねがいします、ええと……」さん。ちなみに、所持している【黄金の才】の効果をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「」はねー。【『オネイロス』】ってスキルがあるのー。こうかはひみつー。戦ってすいそくしてね?」
【『オネイロス』】か。検索してみましたが、夢に関連する神様らしいですね。
これまでに登場した【黄金の才】も概ね名前に関連した効果をこじつけていたので、【『オネイロス』】もやはり夢に関わってきそうな効果だと思うのですが……。どんな効果なんでしょう? 気になりますね。
相手も推測してくれていいと言ってくれていますので、戦いついでに効果の全容を暴いてやりましょう!
「バトルの舞台はどうしますか?【シングル】?」
「【サバイバル】にしよー??1対1の【サバイバル】ー!」
「本番と同じということですね。それでは帝王龍さんも【『クロノス』】なしで参戦できるのでは?」
「それもそうだな。頂点に君臨する王の器を持つ者の力を教えてやるぜェ?」
条件を決定し、さっそく【サバイバル】戦の開始ボタンをタップする。マップはやっぱり本番と同じジャングルエリア。今回はとても広いエリアをたった3人で殴り合うことになるわけだし、素材の採取時間が十分取れるね。
【START!!】
それから開始の宣言と共にランダムな座標に瞬間移動させられたボク。【マップ】を確認すると……どうやら北部のようだ。北部には調薬素材が多いんでしたね。ポーションを集めて優位に戦いましょう!
事前に集めた情報を再確認し、素材を探して周囲を見渡すと……見つけてしまった。
「あっ」
「あァ?」
たった3人の【サバイバル戦】で、初期配置が被ってしまったのだ。




