第126話 お徳用アイテム
素材を集めているとエリアが狭まってきたので急いで南下し、アイテムの作成に取り掛かる。
収穫できたアイテムは【癒しの葉っぱ】と【銅鉱石】。防具と回復アイテムが作れますね。特に葉っぱは山ほど群生していたので、根こそぎいただいておいた。戦闘中はともかく戦闘後の回復には困らないだろう。
そして生産スキル【オートファーマシー】によって回復薬を瞬時に量産する。【銅鉱石】も同じく鎧に加工しておく。残念ながらエンチャントは追加されなかったが、防御力の足しにはなるだろう。さっそく装備して準備は完了!
「【トラップハンター】も使ってみますか」
あいにく罠に使えそうなアイテムは現在持ち合わせていないのだけど、【オーバードーズ】を使えば回復アイテムをダメージアイテムに変換することができる。
さっそく発動してみると、罠の発動条件が指定できるようなので、『罠を踏んだとき』に指定して設置完了。
設置された罠は見た目ではまったくわからない。【パスファインダー】の力は【フォッダー】の罠にも有効なようで、それを利用すればボクの目でも見ることができるけれど、同じ戦略を所持していないプレイヤーなら間違いなく引っかかるだろう。
あとは実際に戦闘に活かせるのかどうか、実践で試してみたいところだけど……。
「ぜんぜんプレイヤーに遭遇しませんねー。これ、本当に他のプレイヤーいるんですか?」
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>複数人で参加したはずなのに1人だけ誰もいない会場に飛ばされる卍さん
>ありえないけどありそう
>もう自分で踏んで検証しろよw
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活動可能なエリアがだんだんと縮小していくというゲームの都合上、罠を仕掛けるならマップの中央付近に出向いて仕掛けるべきでしたね。失敗しました。
ただ、罠を検証したいというボクの願いが届いたのか、付近にプレイヤーの気配を察知した!これから誘導してボクの華麗なるてくにかるな罠にひっかけてやりましょう!
「あーだれかいないかなー!戦いたいなー!」
ぱーふぇくとな演技で、他のプレイヤーに大声で呼びかける。すると哀れな男性プレイヤーが犠牲者としてボクの目の前にとことこと現れた。もう少し近づいてくればダメージ罠の発動圏内だ!
「おっ!いましたねー!じゃあ、さっそく勝負しましょうか!!そっちからかかってきなさい!!」
「配信を見てるからそこに罠あるの知ってるよ」
「はい?」
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>卍さんの情報アドバンテージ全部取られてやがる……
>勝ち目ないじゃねーか
>草生える
>究極の欠陥戦術
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「…………勝負です!」
そしてバトルが始まった。
律儀に罠を避けながら剣を構えて接近してくるプレイヤー『よしむね』さんに対し、ボクは後ろに後ずさりしながら右手から【パイロキネシス】を放って応戦する。
【パイロキネシス】は発動している限り常に炎を放ち続ける、火炎放射器のようなスキルだ。コストもなしに火を放ち続けられる代わりに物質干渉力もダメージも低いのだけど、継続的に撃ち続ければちりも積もれば山となる。
つまり、基本的には足止めにもならない。……ダメージを無視して距離を詰められ、剣の鋭い刺突を受ける。
【ブロールート】で自身の干渉力を下げ、大きくノックバックして距離を取るが——。
「距離を取れば大丈夫だと思った?【ギガントスタンプ】!」
よしむねさんが剣を振りかざすと刀身が一瞬にして巨大化した。しかし重量に変化はないようで、その巨大な剣をいとも容易く振り回し始める。
「わわっ!!危ないですね!」
横薙ぎに振るわれた剣をジャンプして回避し、続けて放たれた縦斬りを【エンハンス】によってAGIを増加させてギリギリのところで横に避ける。相手の攻撃を見抜く【プレコグニション】があるからこその芸当だ。
一見すると防戦一方に見えるかもしれないが、相手のHPも地道な火炎放射によって減少している。決めるならここだ!
効果時間が切れて剣が元の大きさに戻った瞬間、ボクは光のごとき速度で敵に肉薄する。
「【サイハンド】ーっ!」
そのまま付与により強化した【サイハンド】で全力で殴り飛ばす!
大きく後方に吹っ飛んだよしむねさんが着地した地点には——当然ながら罠が仕掛けられている。
これまでのダメージの蓄積もあり、罠の起動によってHPを全損させる。
なんとか戦闘には勝利したけれど、やはり慣れない戦い方のせいかすごく緊張しますね。【テレポート】でお手軽に離脱することもできないし【猪突進】で詰めることもできない。やはりボクにとってはアウェーなルールのようです。
そんな感じで今回の戦闘を振り返っていると、ボクの【ストレージ】に勝利特典のアイテムが追加された。よしむねさんが持っていたアイテムもばらまかれたので根こそぎ回収しておこう。【アイテムマスター】なら所持数の制限には困らない。
勝利特典のアイテムは【エリクサー】。HPとMPを瞬時に50%ずつ回復させるアイテムだ。
強力なアイテムなのだけど、逆説的に言えば敵もこのレベルのアイテムを持っている可能性があるということ。
やはり隠密プレイは推奨されず、ガンガン戦闘をしていく必要があるようだ。その上で可能な限り温存し、なおかつ抱え落ちしないようにアイテムの切り時を考える必要がありそうですね。
それからはよしむねさんが落とした素材を回収し、数個ごとにまとめて【オートファーマシー】に突っ込んでポーションを作成しておく。
半ば作業的にスキルを操作して生産を行っていたのだけれど——。
「あっ、間違えた」
操作をミスって完成済みの回復ポーション5つを【オートファーマシー】に放り込んでしまったのだ。
アイテムとしては完成したけれど、取り出してみると瓶がかなり大きい。どうやら単純に5倍の内容量が入ったポーションが生まれたようだ。戦闘中に飲むのには向いてない気がする。
HP回復量も5倍になっているが、これは飲みきったときの回復量なのであまり意味はない。
ただしポーションには再詠唱時間が存在するので、ポーション5個分の回復を1つのポーションで行えることを考えれば時間あたりの回復効率は悪くなさそうだ。
というわけでさっそく【お徳用ポーション】をごくごくと飲み干し、HPを最大まで回復させる。よし、準備完了!これから次の獲物を探しますよ!
テクニックその77 『お徳用アイテム』
ポーションの瓶を5倍の大きさにして5倍の液体を入れれば効果は5倍になる!当たり前ですね!
単純に量が多すぎて戦闘中に飲むと取り回しが悪くなるのが欠点です。ポーションは振り掛けて使う事もできるのですが、新しいフォルダさんの店で購入する【アンプルアロー】は基本的なポーションと同じサイズです。こんな簡単な事を試さない筈が無いので、何か理由があるのでしょうね。
5倍の量があろうがアイテムとしては1枠なので、再詠唱時間の面では優れているかも?




